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有機化学は何をやっているのか その6

2017-07-05 10:47:00 | 化学
前回創薬の中で有機化学の役割について書きましたが、有機化学全般についてもう少し書いてみます。

有機化学の流れは、合成する化合物の決定、合成法の探索、化学実験、精製操作、分析データの解析ということを述べてきましたが、合成する化合物が決まっても実際に合成法を調べる前にもうひとつ重要なことがあります。それが合成ルートの確立です。

こういった合成研究を始めるときにそれほど重視しないのですが、やはり安価に製造するということは重要な要素となります。容易に入手できる、例えば市販の材料や場合によっては他の医薬品の中間体などから、目的とする基本骨格をいかに構築するかが考えなければならないこととなります。

当然新規な化合物を目的としますので、この部分は文献などもほとんど参考になりません。目的とする基本構造はどうしてもやや複雑な骨格となりますので、10~20工程ぐらいかかることが多くなります。例えば15工程で、各反応の収率が80%としますと、最終の目的化合物を100ミリグラム作るためには、総収率は1%前後になりますので、10グラムの出発原料が必要となり、100個程度造るとすると1キロなければいけないわけです。

こういうところからも出発原料はある程度大量に安く入手できなければいけませんし、なるべく短い工程の確立が必要となるわけです。

通常合成ルートを検討するときは、「レトロシンセシス」という逆反応を使います。つまり目的化合物は一段前はどういったものがあればよいかを決め、一工程ずつ簡単な構造にしていくわけです。この時共通中間体という、その化合物から色々なタイプの目的化合物に展開できそうなものを設定することも重要です。

こうやって出発原料を決め、仮のルート(実際にうまくいくはわかりませんのであくまで仮ということになります)での実際の反応実験を行ってみるわけです。有機化学というのは実験科学という、実際に反応して見ることが基本の分野ですが、実はその前に考えることが多い学問でもあります。

私の先生は、「一日8時間仕事するのであれば、5時間考えて3時間手を動かせ」ということが持論でした。私は残念ながらこの教えは守れず、3時間考えて5時間手を動かすに近い行動したような気がします。

いろいろ考えてよくわからない時は、この実験の結果を見てから考えようと、反応を始めることが多いという感じでした。私の同僚で「有機化学は首から下だけがあればよく、考える時間があったら実験をやれ」が口癖の研究員もいましたので、どちらが良いかは難しいところです。

じっくり考えてから実験するのが有機化学でもあり、とにかく実験数をこなすのも有機化学と言えるのかもしれません。