ごっとさんのブログ

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MRSAへの新薬候補開発

2017-07-19 10:33:15 | 
立命館大学や大阪大学の研究グループが、抗生物質が効きにくいメチシリン耐性ブドウ球菌(MRSA)への新たな治療薬候補となる化合物を開発したと発表しました。

MRSAについてはかなり前にこのブログでも取り上げましたが、簡単に触れておきます。よく使用される抗生物質にペニシリン系がありますが、比較的早く耐性菌が出現しました。これは薬剤の最も重要な部分である、β-ラクタムという部分を分解してしまうβ-ラクタマーゼという酵素を生産するためです。

そこで製薬会社は、このβ-ラクタマーゼでも分解されないような化合物を作り出したのがメチシリンという抗生物質です。ところが病原菌の中にはこのメチシリンも分解して耐性を持つものが現れ、その代表がMRSAです。

MRSAはそれほど病原性が強くなく、健康な人が感染しても通常は発症せず、他の病気で弱っている人が集まっている病院内感染が問題となっています。今回開発した薬剤は、このMRSAが耐性を獲得しにくい仕組みの化合物です。

研究グループは、細胞分裂に必要なタンパク質「FtsZ」に着目しました。FtsZは細胞分裂の際、最初に分裂ヵ所に集まり他のタンパク質を集める役割をしています。このタンパク質の細かい繊維が集まり、Zリングと呼ばれる構造体を作り、これが収縮して分裂する可能性もあるようです。

このFtsZの細胞分裂や他の作用については古くから研究されているようですが、かなり難しいものですのでここでは省略します。

研究グループは、MRSAのFtsZの働きを抑える化合物を開発したようです。従来の抗生物質・抗菌剤は細胞壁合成阻害など色々なメカニズムで作用を発揮していますが、このように細胞分裂に関わるタンパク質の働きを抑えるというのは全く新しいものと言えます。

この化合物の作用する仕組みを解析したところ、比較的軟らかい構造のためMRSAが突然変異しても標的と結合して作用しやすいことが分かったようです。FtsZというタンパク質は、多くの生物で見つかっているようですが、微生物に共通している物であれば、一般的な抗菌剤としても使用できるような気もします。

今回開発した薬剤の構造的なものについては何の情報もありませんが、低分子化合物であればそれほど高価なものではない可能性もあります。研究グループは「化合物の作用する仕組みを解明できたので、実際の薬として使用されることが期待できる」としています。

このような新しいメカニズムの抗菌剤は、耐性菌対策としてだけではなく、病原菌の変異を考えると準備しておくことは重要と考えています。