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歯科医師も使う漢方薬のはなし

2021-08-20 10:25:37 | 
漢方薬というと、私のように薬を創っている立場からすると何となく胡散臭いような気がするものでした。

最近これが見直されており、歯科医師の国家試験にも2023年から「和漢薬(漢方薬)」が出題されるという記事を見ました。漢方は5〜6世紀に中国から伝わった東洋医学をベースに、日本独自に奈良時代に発展を遂げた医学です。

中心となる漢方薬は生薬の組み合わせからなり、病気や症状に加え患者の体質を加味して薬を決めていきます。体力の低下や食欲不振などさまざまな不調に処方できる薬が多いのも特徴となっています。

ここでは歯科医師といっても口腔外科で使われるようですが、原因不明の痛みなど他の専門科で手に負えないような患者に処方するようです。

私はこの漢方薬の難しさが分かった面白い経験があります。もう30年も前の話ですが、当時私の勤務していた会社が、漢方薬を専門とする会社を買収することになりました。それとともに漢方薬の研究も始まったのですが、その中に漢方薬の有効成分の分離という研究がありました。

私のいる研究所ではなかったのですが、有機物質の精製ということでアドバイザーのような形で参加しました。漢方薬の有効性の測定はそれまで動物実験だけだったのですが、なんとかインビトロ(試験管内)での活性測定法ができ実際に分離をスタートさせました。

この時何という漢方薬を使ったのかは分かりませんが、まず問題になったのは溶媒に溶かすことです。漢方薬というのは乾燥した野菜くずのような感じですので、全てを溶かすことはできません。この中の有効成分をすべて溶かし出すのにかなり時間がかかってしまいました。

これで分離操作を始めましたが、成分分離が始まったころ大きな問題が発生しました。活性がある部分をA,B,C,Dに分離したところ、どこにも活性が無くなってしまったのです。

ただこれはある程度予想されることで、単一の化合物ではなく2種以上の化合物が集まって活性を出している可能性があるわけです。ところがA,B,C,Dのどの組み合わせを混合しても、全てを合わせても活性は出ませんでした。

この説明としては、2種以上の化合物が適正な比率で存在することが必要ということになります。さらにこの過程で、非常に微量の成分が活性の増強の役割を果たしている可能性も出てきました。

そこで分離方法を変え、活性が残り不要な物質を除く方法をいろいろ行いましたが、やはりある程度精製が進むと活性が消えてしまいました。

最終的には微量成分も含め3種の化合物に到達しましたが、こういった複雑なものでは新規の物質を作るうえでの参考にもなりませんので、この段階で断念しました。

このように漢方薬というのは、生薬という混合物をうまく利用している複雑な物質であることが分かった、なかなか面白い経験となりました。


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