SIDEWALK TALK

愛のシステム

Western_wall先日のアカデミー賞で、日本映画がオスカーをダブル受賞した。
最近ろくなトピックがなかった日本にとって、ひさしぶりの朗報だ。
シリアスな映画が苦手な僕は
『おくりびと』も『つみきのいえ』も観ないだろうけど、
日本人として素直にうれしかった。


日本にとっての朗報といえば、
村上春樹氏がエルサレム賞を東洋人で初めて受賞した。
エルサレム賞は、正式には
「社会の中の個人の自由のためのエルサレム賞」
(Jerusalem Prize for the Freedom of the Individual in Society)
という名称らしく、この素晴らしい賞を主催しているのが
中東の火薬庫と呼ばれている国家というのは、何とも皮肉なことだ。


春樹氏は当然ながらイスラエルのガザ侵攻には反対で、
授賞式に出席すべきか悩んだそうだ。
結果、出席した。
そして、強烈なメッセージを発信した。
春樹氏は受賞スピーチで、爆撃機や戦車、ロケットを「壁」にたとえ、
それに蹂躙される民衆を「卵」にたとえた。


我流ながら、僕はこう訳す。

"Between a high, solid wall and an egg that breaks against it, I will always stand on the side of the egg. Yes, no matter how right the wall may be and how wrong the egg, I will stand with the egg."
「僕は、高い壁と、それに立ち向かって壊れてしまう卵があるなら、いつも卵の側に身を置く。もし壁がどんなに正しくて、卵がどんなに間違っていたとしても、僕は卵を支持する」


僕はハルキストじゃないから、春樹氏の作品をそれほど読んでるわけじゃない。
ド素人読者の感想だけど、春樹氏の小説には「死」をモチーフにしたものが多い。
これは、とりもなおさず「生」をモチーフにしているともいえる。
だからこのスピーチには、ただ事ならぬ春樹氏の意思が感じられる。


そして、春樹氏はこうも言った。

"Each of us is, more or less, an egg. Each of us is a unique, irreplaceable soul enclosed in a fragile shell. This is true of me, and it is true of each of you. And each of us, to a greater or lesser degree, is confronting a high, solid wall. The wall has a name: it is The System. The System is supposed to protect us, but sometimes it takes on a life of its own, and then it begins to kill us and cause us to kill others--coldly, efficiently, systematically."
「僕たちは、それぞれがかけがえのない魂を持った、脆い卵だ。そして、程度の差こそあれ、みんな壁の前に立っている。壁の名はシステムだ。システムは僕たちを守るはずだが、時としてそれは僕たちを傷つける」


このスピーチを聴いて、僕は、佐野元春の「愛のシステム」という楽曲を思い出した。

   そこにあるのはシステム 君はいつもはずれてる
   そこにあるのは力 いつも負けてしまう
   そこにあるのは数 いつも押されてしまう
   そこにあるのはユニフォーム スピリチャルなペチコート
   愛はフラスコの中 君を怖がらせてる
   さよならのくりかえし 君は無口になる
   アメリカの清らかな海 それは君の果てしない砂漠


佐野さんがこの楽曲のなかで言う「システム」も、春樹氏の言うそれと同じものだろう。
そしてこの「愛」とは、好いた惚れたの愛じゃなく、
キリスト教で God が説くところの大文字で始まる「 Love 」のことだと思う。
日本語には訳しにくいが、辛うじて「慈愛」がちかいだろうか?


文学にしろ、音楽にしろ、
僕は同時代に春樹氏や佐野さんような表現者を得たことに感謝したいし、
アーティストでありながらジャーナルな視点を持ったこの二人を日本人として誇りに思う。


P.S. ちょっと興奮してはりきって書きはじめたんだけど、
なんか最後はとりとめなくなっちゃいました。
スイマセン...

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コメント一覧

存在する音楽
骨のある
http://yaplog.jp/danke-moon-s0/
骨のある
事実を伝えるだけに終始しがちなジャーナリスト以上に
明確なメッセージを伝えた村上春樹の受賞スピーチに感激しました。

不合理な死
不合理な怪我
不自由な人生
を与えられた人々

卵の側に立ち
自分達が自分達のために作り出した壁が自分達を崩壊させることに おかしいと正面きって抗議する。

人ががん細胞のように
出生成長消滅していくのなら
避けては通れない歴史的な社会の変化
と言えるのかもしれませんが、
他人を尊重しないことが神の教えにあるとしたら、残念なことです。

アンダーグランド以来、彼の作品は読んでなかったですが、文学の示す一側面を単に一作家の行動で終わらせて欲しくないです。
mf >> そばころ さん
春樹氏のエルサレム賞受賞については、
http://www.kiribako.net/
春樹氏のエルサレム賞受賞については、
そばころさんがきっとブログにエントリーすると思ってましたので、2~3日温めてました。
  
この春樹氏の受賞インタヴューはあまりにも素晴らしく、
一部のみを抜粋して載せるとことには怯みをおぼえました。
しかし拙いながらも、感じたことをブログに載せたいという衝動を抑えきれずに書くことにしました。
もう少しうまく表現したかったのですが…。
そばころ
作家がことばを選んだ結果、
http://sobakoro.blog.ocn.ne.jp/blog/
作家がことばを選んだ結果、
壁と卵という表現になってしまったことに
この国の悲しさを感じます。
 
人間が卵が割れるように、命を落とす現実。
 
アラファトが亡くなる直前でしょうか、大きな目を剥きながら、
イスラエルの攻撃に抗議するする姿が
強烈な記憶として残っています。
 
「愛のシステム」、久しく聴いていなかったです。
You Tubeで再確認しました。
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