こころとからだがかたちんば

YMOエイジに愛を込めて。

2016年2月5日 金曜日 音楽備忘録 ルパート・ハイン

2016-02-05 23:18:39 | 音楽帳

ルパート・ハインと言えば“音の魔術師”という言葉が浮かぶ。
自分はその録音風景に立ち会ったわけじゃないから分からないのだが、80年代通して彼が関わった音楽は、スタジオエンジニアという職人芸と耳・センスの良さが合いまった独自の音として聴こえた。

彼のソロを初めて聞いたのは、教授のサウンドストリートだろうか?
1982年6月29日幸宏ゲスト回(新譜「What Me Worry?」紹介)の一曲目が「イレブン・フェイセズ」(「Waving Not Drowning」収録)だった。
(この曲を聴くたびに、翌年1983年[シックのリーダー]ナイル・ロジャーズのファーストソロアルバムに入った「ヤムヤム」を思い出す。
直接的な影響があったか否かは不明だが、彼がルパート・ハインを知らなかったはずもない。)

同じような時期、夏のじっとりした暑さの中、フィックスのデビューアルバム「密室」に収録された「ザ・フール」という曲を、クロスオーバーイレブンでエアチェックしながら聴いていた。この「密室」のプロデューサーもルパート・ハインだった。
「密室」が日本に紹介された1982年この時期は、ロキシーミュージックの「アヴァロン」やブロンディのシングル「Island of Lost Souls」をおさめた「ザ・ハンター」が横にあり、ファンカポリタン,ヘアカット100,ピッグバッグ,グレイス・ジョーンズ,デヴィッド・バーンのソロ,XTC・・・等々南洋楽園桃源郷へ向かう音楽たちがそばにひしめいて、私は電波のうねりに合わせて、カメに乗って一緒に回遊し、四六時中水のなかをゆらゆら踊っていた。めまうようなそのカラフルな風景が浮かぶ。

「ザ・フール」はひきつったリズムが空間の柱を構成し、その空間内にさまざまな音が立ち現れる。ルナティックなギター、ドアが開くギギギという音や子供の声、全体にもやを掛け覆いかぶさってくるシンセサイザーのアンビエンス。
ジャケットそのままを音にしたかのような「ザ・フール」はお気に入りの一曲で、夜にしか顔を出さない妖しい魔界を体現していた。
その不可思議な音像。

FIXX アルバム「密室」(1982)ジャケット写真
翌年1983年にはクロスオーバーイレブンで「サムサラ」という曲に出会う。これもルパート・ハインのソロ佳曲。

アジアのとある一角、人が往来し、露天商が立ち並ぶ雑踏。
それが脳裏に映像として浮かぶ。そんなざわめきの音が土着感を持ってテープループで繰り返される。実際はテープじゃないのだろうが、ループは切れ目がはっきりしたもので、YMOが「テクノデリック」(1981)で演じたような切れ目の分からない巧妙さ・緻密さはない。
長い曲「サムサラ」は、延々と続くループ音に木琴、シンセサイザー、ピアノ、乾いたヴォーカルが乗っかる。サビのときはエコーが掛かるが、それ以外のときは極力残響音がカットされ、そのくぐもった音が無国籍な異国の荒涼風景と雰囲気を醸し出す。

「サムサラ」は他で聞いたことのない曲。このどこにも属さない感覚はルパート・ハイン独自のもの。
とてももの悲しいが、とても好きな曲である。サムサラとは永遠にめぐり来たる生、つまり輪廻転生を意味し、曲の「ループ」することとダブル・ミーニングとなっている。

「サムサラ」をおさめたLP「イミュニティ」(1981年)は、タイトル曲含めて「一聴してポップ」な気がよぎったりもするのだが、A面1曲目「I Hang On to My Vertigo」を聴けばすぐ分かる通り、なにかがおかしいのである。
いわゆるロックの方々、旧態依然型バンドが踏む”ロック形式”の音の置き方がない。リズム1つ取っても、この人はどちらかというとロックでもポップスでもない拍子の置き方をする。曲創りのプロセスが分かったらもっと面白いのに、と思う。
「イレブン・フェイセズ」「サムサラ」のような成功例もあれば、駄曲もあるが、決まった枠に収まらない不可思議さが、彼の音楽にはある。

それは1983年プロデュースしたロバート・パーマーの名盤「プライド」でも、1984年ハワード・ジョーンズ「かくれんぼ(Human’s Lib)」にも現れてくる。
前者作品で例えれば「シルバー・ガン」におけるエスニックなポリリズムとうねり、それはPILの「フラワーズ・オブ・ロマンス」(1981)が持つゾーンへ突入していく音のパワーと同等なエネルギーに満ちている。後者は「コンディショニング」から始まりあちこちにルパート・ハインの隠しワザを見る。



■FIXX 「The Fool」1982■




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