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スウェーデン憲法読解(連載第8回)

2015-01-03 | 〆スウェーデン憲法読解

第二章 基本的自由及び権利(続き)

欧州人権条約

第一九条

法律又は他の法令は、人権及び基本的自由の保護のための欧州条約に基づくスウェーデンの義務に反する規定を設けてはならない。

 本条は、欧州人権条約の遵守を宣言する規定である。これは、次条以下に定める基本的人権の制限が欧州人権条約に反することのないようにする歯止め規定の意味もある。

自由及び権利の制限のための条件

第二〇条

1 次に掲げる自由及び権利は、第二一条から第二四条までの規定において認められた範囲内で、法律により制限することができる。

一 表現の自由、情報の自由、集会の自由、示威運動の自由及び結社の自由(第一条第一項第一号から第五項まで)

二 第四条及び第五条以外の身体的侵害に対する保護、身体検査、家宅捜索及び類似の侵入に対する保護、内密な送付物及び通信への侵害に対する保護並びに他の私的事情の監視及び調査を含む侵害に対する保護(第六条)

三 移動の自由(第八条)

四 裁判所の審理の公開(第一一条第二項第二文)

2 法律における許可の後、第一項に掲げる自由及び権利は、第八章第五条に掲げる場合[評者注:政令に委任される場合]及び公共の役務において、又は役務義務の遂行中に知り得たことを明らかにすることに対する禁止に関する他の法令により、制限することができる。同様の方法において、集会の自由及び示威運動の自由は、第二四条第一項第二文の規定に掲げる場合[評者注:国の安全・伝染病の予防]にも制限することができる。

 本条以下では、法律によって制限がかかる自由及び権利の種類とその根拠、限界、さらに議会手続きまでを総まとめしている。このような規定の仕方は、日本国憲法のように「公共の福祉」という包括的な文言で人権制限を課すやり方よりも、具体的で明確と言える。

第二一条

第二〇条の規定に基づく制限は、民主的社会において受け入れられる目的を満たしていることを理由としてのみ、実施することができる。当該制限は、制限するに至る目的に照らして必要である範囲を超えてはならず、民主的社会の一つとしての自由な意見形成に対する脅威となるほど長期間にわたって延長されてはならない。単に政治的、宗教的、文化的又は他の同様の意見を理由とする当該制限は、実施されてはならない。

 基本的自由の制限に対して、目的と手段の双方で、限界を設定し、かつ時間的にも時限法であることを要求している点で用意周到である。さらに、第二文では特定の意見を理由とする人権制限を禁止することで、スウェーデン民主主義の基礎とされる意見の自由を擁護している。

第二二条

1 第二〇条の規定に基づく法案は、議会により拒否されない限り、一〇名以上の議員の要求に基づき、当該法案に対する委員会による最初の意思表明が本会議に報告されたときから、一二か月以上未決としなければならない。ただし、投票者の六分の五以上が決定を承認した場合には、議会は、当該法案を直ちに採択することができる。

2 第一項の決定は、最長二年継続して効力を有する法律の法案については、適用されない。また、次の各号に掲げる事項のみを規定する法案についても適用されない。

一 公共の役務において、又は役務義務の遂行中に知り得たことで、その秘密を保持することが出版の自由に関する法律第二章第二条に掲げる利益[評者注:公文書アクセス権を制限する公益]に関して必要であるものを明らかにすることの禁止

二 家宅捜索又は類似の侵入

三 ある一定の行為の結果としての自由刑

3 憲法委員会は、ある一定の法案について第一項の規定が適用されるか否かについて議会を代表して審査する。

 本条は、基本的人権を制限する法律については、議会手続きにも制限を置き、発案者数に最低条件を課しつつ、拙速審議を避けるため、原則として本会議への報告から最低一年間の考慮期間を置くこととしている。ただし、これには第二項で所定の例外が定められており、スウェーデンの実際主義的な一面がここにも現れている。
 第三項により本条の制限をかけるべきかどうかを判断する憲法委員会とは、憲法問題を所管する議会常任委員会である。

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