ザ・コミュニスト

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「9条加憲論」をめぐって

2017-05-04 | 時評

安倍首相が3日の憲法記念日に打ち出した新たな9条改憲提案は、軍の保持を禁止する現行9条2項を温存したうえで、自衛隊の規定を追加するというもので、首相が総裁を務める自民党が2012年に公表した9条2項廃止・国防軍の創設という改憲案とは大きく隔たる「9条加憲論」と呼ぶべき新提案であった。

しかしながら、改憲派集会向けビデオメッセージという形で提起された今回の提案は、内閣総理大臣としての演説・声明ではないことはもちろん、自民党総裁としての党内会議等での演説・発言ですらない、民間改憲団体に宛てた個人的なメッセージにすぎない。

つまり、一人の改憲論者安倍晋三としての私案である。本人の認識がどうあれ、公表の形式を客観的に見る限りそうである。そういう前提で、この提案をどう受け止めるかであるが、筆者はあえて是々非々としたい。

是とする条件は、9条に追加されるという自衛隊条項が、平和主義を指導原理とする自衛隊の任務や文民統制に基づく指揮系統について憲法上十分にこれを制約し、自衛隊に対する憲法的コントロールが及ぶ内容になるかどうかである。

その点、自衛隊は創設からすでに半世紀を越え、戦後日本の公式防衛組織として「定着」を見ながら、憲法に一行も規定がなく、すべてを憲法の下位法で規定する憲法上幻の組織であることにより、憲法的コントロールが効かないまま、なし崩しに権限や組織が拡大の一途をたどり、違憲状態になりかけている。

この状態を解消し、言わば「防衛立憲主義」を実現するために、自衛隊は9条2項が禁ずる陸海空軍に該当しないことを前提に、如上のような憲法上の根拠規定を適切に置くなら、ぎりぎりで賛同できる改憲案となり得るだろう。

一方、非となるのは、自衛隊条項を単純に追加するのみにとどまったり、あるいは改憲に乗じて自衛隊の任務をいっそう拡大し、自衛隊が文民統制を破って自立暴走しかねない内容が盛られるような場合である。

私案とはいえ、最長で2021年までの史上最長期政権を窺う首相が打ち出した以上、その方向での検討が進む公算は高い。感情的に反発するのでなく、具体的成案を見たうえで、理性的な討議がなされることを期待したいと思う。

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