ザ・コミュニスト

連載論文&時評ブログ 

奴隷の世界歴史(連載第4回)

2017-08-02 | 〆奴隷の世界歴史

第一章 奴隷禁止原則と現代型奴隷制

性的奴隷慣習の遍在
 旧奴隷制では、奴隷に家事や何らかの生産労働を強制することが目的であったが、現代型奴隷制の中心を成すのは、性的サービスをさせるために人間を隷従させる性的奴隷慣習である。
 こうした性奴隷制にも商業的な性サービスを提供させる商業性奴隷と戦時に兵士の性的欲求を充たすための性サービスを提供させる戦時性奴隷の二種があるが、圧倒的なウェートを占めているのは前者の商業性奴隷である。性的サービスもある主の「労働」だが、商業性奴隷はサービス産業が経済の中心となってきた現代資本主義社会の特徴に沿っている。
 そのため、こうした商業性奴隷は途上国のみならず、称先進国にも及び、世界に遍在しており、闇の人身売買市場で中心的な「商品」となっている。商業性奴隷の大半は男性客向けの少女を含む女性であるが、一部に同性愛サービスのために少年男子が奴隷化される場合もある。
 もっとも、商業性奴隷の労働形態は曖昧化しており、有償の労働契約により任意性が担保されている場合もあるが、雇い主に借金を負っていたり、厳しいノルマを課せられたりしているならば、形式上の任意性にもかかわらず、その性労働者は奴隷に準じた状態に置かれていると言える。
 国際法上はつとに1949年の「人身売買及び他人の売春からの搾取の禁止に関する条約」が存在しているが、取り締まりは行き届いておらず、冷戦終結後、女性の最低限度生活保障を担保していた社会主義体制が崩壊した旧東欧圏を中心に人身売買組織の暗躍が広がっていったと見られる。
 そのため、2000年には「国際組織犯罪防止条約」に付随して、これを補完する「人身取引議定書」が国連で採択され、加盟国に対し人身取引行為を犯罪化することを義務づけている。これは、上記49年条約のさらなる補完的意義を持つ条約とも言えるものである。
 これに対し、戦時性奴隷は性格を異にする。かつては公式の政府軍が設営する軍用慰安所制度が世界に遍在していたこともある。しばしば先鋭な論争の的となる旧日本軍によるものは、その一例にすぎない。このような制度は、公的に容認された性奴隷制とも言える公娼制度の軍事版として、すでに過去の遺制となっている。
 しかし、近年でも、中東やアフリカなどの内戦紛争地域で、戦闘員の性的欲求を充たすための奴隷として女性を集団的に拉致するような行為が見られる。前回見たISの復刻奴隷制もこうした戦時性奴隷の性格が濃厚である。
 これら現代の戦時性奴隷慣習は民間武装組織によるものであり、管理統制が利かなくなりやすい点で、旧軍用慰安所制度と比べてもいっそう人身への危険性の高いものである。 

コメント