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共通世界語エスペランテート(連載第6回)

2019-06-20 | 〆共通世界語エスペランテート

第1部 エスペランテート総論

(5)習得容易性

習得容易性の要件
 以前、世界語の相対条件として、習得容易性ということをあげた。これは、文字どおり、当該言語が習得しやすい性質をそなえていることをさすが、このばあいの習得しやすさとは、別言語を母語とするものが後天的に習得しやすいことを意味する。
 ただ、言語の習得しやすさは母語体系の習得自体が途上のために柔軟な他言語学習能力をもつこどもと、母語体系を完全に習得しているためにその干渉をつよくうけやすく、他言語全般の習得が困難な成人とではことなるが、ここでいう習得しやすさとは、成人もふくめた他言語使用者にとっての習得しやすさとおおまかにとらえておく。
 こういう観点で習得容易性をとらえたばあい、その要件は一体なにか。といっても漠然としているので、ここでは文字体系・文法構造・語彙・発音体系の各項目ごとにわけて検証してみよう。
 上記項目のなかでもっとも重要なのは、文字体系の習得容易性である。世界語は絶対条件として文字言語でなければならないから、文字言語の学習上最初の関門となる文字でつまずくことは習得を困難にするからである。
 したがって、文字体系が簡素であることが習得容易性の要件である。逆にいえば、複雑な文字体系は言語習得のたかいかべとなる。その点、アジアの諸言語にはアラビア語やヒンディー語など独自の複雑な文字体系をもつ言語がすくなくなく、これらの言語の習得を困難にしている。中国語の漢字も文字数の膨大さがかべとなる。日本語の場合も漢字に加え、ひらがな、カタカナをふくめた異例の三重文字体系が習得を困難にしている。
 つぎに、文法構造は、はなすこともふくめた言語運用上の基本ルール群であるから、文字についで習得容易性の重要な要素である。
 文法構造のなかでも、語形変化は言語習得上の主要なかべとなる。語形変化には動詞を中心とする品詞の活用変化と名詞の単複や性による変化とがあるが、これらが複雑であればあるほど習得は困難になる。よって、語形変化は一切ないことが理想ではあるが、あってもそれは限定的かつ規則的であることが習得容易性の要件となる。
 この点では、多岐にわたって不規則変化をふくむ語形変化をする言語―印欧語族に代表される屈折語系統の言語におおくみられる―は、文法構造面からの習得を困難にする。
 これに対して、語彙に関しては、語彙のすくなさが習得を容易にするかにみえる。たしかに語彙が限定されているかぎり、語学学習上の定番である単語のまる暗記の負担は軽減されるだろう。実際、英国のチャールズ・オグデンが開発したベーシック英語(Basic English)はわずか850語限定の簡易化によって英語をより普及させようとした先駆的なこころみであった。
 しかし、語彙の限定性はかえって基礎単語をくみあわせた代替表現のむずかしさというあらたな問題をうみだし、表現のはばをせばめ、かえってコミュニケーションを困難にするおそれもある。したがって、語彙の限定性についてはこれを習得容易性の要件とまではみなすべきでなかろう。
 最後に発音体系であるが、世界語は文字言語であると同時に音声言語としてもそれを使用して世界のひとびとがコミュニケートする手段であるから、発音体系も習得容易性の重要な要素であり、それは単純であるほどよい。
 その点、まず母音のすくなさと明瞭さは重要な要件となる。すなわち母音のかずがおおいとその発音上の区別も微妙で困難となるので、曖昧母音のない5個以下の母音体系が理想的である。一方、子音は多種類をさけがたいが、複雑微妙な発声を要する子音はすくないほどよい。
 さらに中国語に代表されるような声調も習得上のかべとなるため、世界語の発音体系には存在すべきでない。つまり声調で区別する同音異義語はあるべきでないということになる。

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