ザ・コミュニスト

連載論文&時評ブログ 

奴隷の世界歴史(連載第5回)

2017-08-07 | 〆奴隷の世界歴史

第一章 奴隷禁止原則と現代型奴隷制 

児童奴隷慣習の遍在
 低年齢の子どもを使役する児童労働は、主として後発国・開発途上国を中心に世界的になお遍在する労働形態である。ほとんどの場合、児童労働者は無賃ないし低賃金で使役され、その労働環境も隷従的であるため、実態としては現代型奴隷制の一種に数えてよいものである。
 国際労働機関(ILO)によると、こうした児童労働者は減少傾向ながら、なお世界に1億7000万人近くいるとされるが、あくまでも推計にすぎず、潜在的にはより多数に上るだろう。その多くは農業を中心とする第一次産業に家族労働力として狩り出されているもので、こうした場合は必ずしも奴隷とは言い難いケースもあろう。
 しかし、児童労働の一部は前回見た性的奴隷慣習とも重なり、先発国のツアー客を見込んだ少女・少年買春に使役されているケースもある。また多国籍資本が工場を展開するアジア諸国などで、児童が下請け労働に動員されているケースもあり、先発国も決して児童労働と無関係なのではない。
 こうした児童労働が特に多いのは東南アジアや南アジア、アフリカ等の貧困層を多く抱える諸国で、それら諸国では児童の親も貧困ゆえにやむを得ず子どもを児童労働に供さざるを得ない事情もあり、構造的貧困とも関わる深い問題である。
 一方、児童労働の特殊なケースとして、少年兵士の問題がある。これは低年齢の児童を徴用して兵士として前線に出すもので、アフリカや中東の紛争地域で武装勢力や時に政府軍によっても実施されている。少年兵士の多くは誘拐・拉致され、洗脳訓練されたうえ、成人兵士が躊躇するような残虐な殺戮作戦に動員される。
 国連児童基金(UNICEF)によると、こうした少年兵士は世界で25万人と推計されている。かれらは紛争が終結し、解放されても、心身の成長を阻害するトラウマに苦しみ、社会参加に困難が伴うため、充実した再教育のプログラムを必要としている。
 国際社会は、このような児童労働に関しても、つとに1989年の「国連児童の権利条約」をベースに、2002年の「武力紛争における児童の関与に関する選択議定書」及び「児童の売買、児童買春及び児童ポルノに関する選択議定書」を通じて、児童労働を禁ずる国際的な法体制を整備してきたが、根本にある貧困問題―そのさらなる基底にある資本主義―を解決しなければ真の解決にはつながらない。

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農民の歴史・総目次

2017-08-06 | 〆農民の世界歴史

本連載は終了致しました。下記総目次より(一部記事以外は系列ブログへのリンク)、全記事をご覧いただけます。

 

序論 ページ1

第一部 農民階級の誕生

序章 最初の階級分裂 ページ2

第1章 古代文明圏における農民 

(1)メソポタミア文明圏及びインダス文明圏 ページ3

(2)エジプト文明圏及び黄河文明圏 ページ4

(3)メソアメリカ文明圏及びアンデス文明圏 ページ5

第2章 古代ギリシャ/ローマにおける農民

(1)古代ギリシャ ページ6

(2)古代ローマ〈1〉 ページ7

(3)古代ローマ〈2〉 ページ8

第2章ノ2 イスラーム世界における農民 ページ8a

第二部 農民反乱の時代

第3章 中国の農民反乱史

(1)歴史的動因としての農民反乱 ページ9

(2)佃戸制の出現 ページ10

(3)貧農出自王朝・明 ページ11

(4)太平天国の夢 ページ12

第4章 ヨーロッパの農民反乱

(1)農奴制の濃淡 ページ13

(2)仏英の農民反乱 ページ14

(3)ドイツ農民戦争 ページ15

(4)ロシア農民戦争 ページ16

第5章 日本の農民反乱

(1)日本における農民階級の分裂 ページ17

(2)農民自治と土一揆 ページ18

(3)農民出自豊臣政権 ページ19

(4)近世農民一揆 ページ20

第6章 民族抵抗と農民

(1)近代セルビアの農民出自王朝 ページ21

(2)近代朝鮮の農民反乱 ページ22

(3)清末の義和団事変 ページ23

第三部 農地改革の攻防

第7章 ブルジョワ革命と農民 

(1)英国の社会変動と農民 ページ24

(2)フランス革命と農民反乱 ページ25

(3)ドイツ・ユンカー改革 ページ26

(4)ロシアの農奴解放 ページ27

第8章 社会主義革命と農民

(1)仏農民の政治的保守化 ページ28

(2)農奴解放後のロシア農村 ページ29

(3)ロシア革命と農民 ページ30

(4)農業集団化と農村生活 ページ31

(5)中国共産党と農民 ページ32

(6)人民公社と農村生活 ページ33

第9章 南北アメリカの大土地制度改革

(1)北アメリカの奴隷制プランテーション ページ34

(2)ラテンアメリカの半封建的大土地制度 ページ35

(3)メキシコ革命と農民 ページ36

(4)キューバ革命と農民 ページ37

(5)南米諸国の状況 ページ38

(6)コカ農民と山岳ゲリラ活動 ページ39

第10章 アジア諸国と農地改革

(1)戦後日本の農地改革 ページ40

(2)朝鮮半島の農地改革 ページ41

(3)フィリピン農地改革と共産ゲリラ ページ42

(4)インド農地改革と共産党 ページ43

(5)西アジアの農地改革 ページ44

(6)ケシ黄金地帯と内戦 ページ45

第10章ノ2 イスラエルのキブツ農場(準備中)

第四部 農業資本主義へ

第11章 農民の政治的組織化


(1)英米農民の状況 ページ46

(2)北欧の農民政党 ページ47

(3)日本の農協政治 ページ48

第11章ノ2 社会主義農業の転換 ページ49

第12章 グローバル化と農民

(1)モノカルチャーの盛衰 ページ50

(2)農業食糧資本の攻勢 ページ51

(3)農業の商業化 ページ52

(4)農業の工業化 ページ53

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奴隷の世界歴史(連載第4回)

2017-08-02 | 〆奴隷の世界歴史

第一章 奴隷禁止原則と現代型奴隷制

性的奴隷慣習の遍在
 旧奴隷制では、奴隷に家事や何らかの生産労働を強制することが目的であったが、現代型奴隷制の中心を成すのは、性的サービスをさせるために人間を隷従させる性的奴隷慣習である。
 こうした性奴隷制にも商業的な性サービスを提供させる商業性奴隷と戦時に兵士の性的欲求を充たすための性サービスを提供させる戦時性奴隷の二種があるが、圧倒的なウェートを占めているのは前者の商業性奴隷である。性的サービスもある主の「労働」だが、商業性奴隷はサービス産業が経済の中心となってきた現代資本主義社会の特徴に沿っている。
 そのため、こうした商業性奴隷は途上国のみならず、称先進国にも及び、世界に遍在しており、闇の人身売買市場で中心的な「商品」となっている。商業性奴隷の大半は男性客向けの少女を含む女性であるが、一部に同性愛サービスのために少年男子が奴隷化される場合もある。
 もっとも、商業性奴隷の労働形態は曖昧化しており、有償の労働契約により任意性が担保されている場合もあるが、雇い主に借金を負っていたり、厳しいノルマを課せられたりしているならば、形式上の任意性にもかかわらず、その性労働者は奴隷に準じた状態に置かれていると言える。
 国際法上はつとに1949年の「人身売買及び他人の売春からの搾取の禁止に関する条約」が存在しているが、取り締まりは行き届いておらず、冷戦終結後、女性の最低限度生活保障を担保していた社会主義体制が崩壊した旧東欧圏を中心に人身売買組織の暗躍が広がっていったと見られる。
 そのため、2000年には「国際組織犯罪防止条約」に付随して、これを補完する「人身取引議定書」が国連で採択され、加盟国に対し人身取引行為を犯罪化することを義務づけている。これは、上記49年条約のさらなる補完的意義を持つ条約とも言えるものである。
 これに対し、戦時性奴隷は性格を異にする。かつては公式の政府軍が設営する軍用慰安所制度が世界に遍在していたこともある。しばしば先鋭な論争の的となる旧日本軍によるものは、その一例にすぎない。このような制度は、公的に容認された性奴隷制とも言える公娼制度の軍事版として、すでに過去の遺制となっている。
 しかし、近年でも、中東やアフリカなどの内戦紛争地域で、戦闘員の性的欲求を充たすための奴隷として女性を集団的に拉致するような行為が見られる。前回見たISの復刻奴隷制もこうした戦時性奴隷の性格が濃厚である。
 これら現代の戦時性奴隷慣習は民間武装組織によるものであり、管理統制が利かなくなりやすい点で、旧軍用慰安所制度と比べてもいっそう人身への危険性の高いものである。 

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奴隷の世界歴史(連載第3回)

2017-08-01 | 〆奴隷の世界歴史

第一章 奴隷禁止原則と現代型奴隷制

残存奴隷制と復刻奴隷制
 第一章では、国際的な奴隷禁止ルールをかいくぐって伏在する現代型奴隷制について記述する予定であるが、その前に、現代にあって旧制的な奴隷慣習がなお続いている不幸な事例を紹介しなければならない。その一つは、西アフリカはモーリタニアの残存奴隷制である。
 モーリタニアとは、その国名に由来でもあるアラブ系と混血し、イスラーム化したモール人(アマジグ人)が社会の上層階級を占め、アフリカ黒人系の諸民族を従属化させてきた歴史的構造を持つ。まさにこの非対称な構造から、奴隷制が発生してきた。
 黒人系の多くは、かつてモール人が奴隷狩りによってサハラ以南から連行してきた住民の子孫と見られ、ハラティンと称されている。かれらはモール人の主人の間で売買や相続すらされ、無償で使役されるまさに旧時代的な奴隷そのものである。
 その歴史は古く、イスラーム到達以前から存在すると言われるが、アラブ人がイスラームを持ち込むと、イスラーム的な理念に基づく異教徒・戦争捕虜の奴隷が制度化され、定着されたと見られる。
 モーリタリア奴隷制はフランス植民地時代の20世紀初頭に禁じられ、独立後の政府も1981年には名目上奴隷制廃止を宣言し、1986年には前回見た「奴隷制度廃止補足条約」に加入したにもかかわらず、2007年に至るまで実質的には奴隷所有を禁じていなかった。
 その後も、政府の公式的な否定にもかかわらず、モーリタニアでは依然として人口の20パーセントから最大推計40パーセントもの国民が奴隷状態にあると見られている。国の歴史的根幹に関わる民族的階級構造が土台にあるだけに、容易に解決しない課題であるかもしれない。
 もう一つ、2014年にイラクとシリアにまたがって占領した地域でイスラームに基づくカリフ国家樹立宣言を行なった武装勢力イスラーム国(IS)による奴隷制復活宣言がある。この唐突かつ奇異な宣言は世界を驚愕させ、多くの非難を巻き起こしたが、イスラームの伝統的な奴隷制擁護論に基づくものと説明されていた。
 実際のところ、IS占領地域におけるこうした復刻奴隷制の実態はその閉鎖性による情報不足のため不詳であるが、体験者の証言などによれば、IS奴隷制は主として少数民族クルド人の一部に見られるヤジディ教徒を対象としたもので、同教徒の少女を含む女性を戦闘員に慰安婦的な存在として「配分」するというシステムであり、そのための人身売買市場すら構築されているという。
 これが実態とすれば、ISの復刻奴隷制はイスラーム的伝統である異教徒の奴隷化と現代型性奴隷―中でも戦時性奴隷―の新旧要素が複合されたシステムを成すように見える。そこで、次節では現代型奴隷制の代表格とも言える性的奴隷慣習について概観する。

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