第一章 奴隷禁止原則と現代型奴隷制
児童奴隷慣習の遍在
低年齢の子どもを使役する児童労働は、主として後発国・開発途上国を中心に世界的になお遍在する労働形態である。ほとんどの場合、児童労働者は無賃ないし低賃金で使役され、その労働環境も隷従的であるため、実態としては現代型奴隷制の一種に数えてよいものである。
国際労働機関(ILO)によると、こうした児童労働者は減少傾向ながら、なお世界に1億7000万人近くいるとされるが、あくまでも推計にすぎず、潜在的にはより多数に上るだろう。その多くは農業を中心とする第一次産業に家族労働力として狩り出されているもので、こうした場合は必ずしも奴隷とは言い難いケースもあろう。
しかし、児童労働の一部は前回見た性的奴隷慣習とも重なり、先発国のツアー客を見込んだ少女・少年買春に使役されているケースもある。また多国籍資本が工場を展開するアジア諸国などで、児童が下請け労働に動員されているケースもあり、先発国も決して児童労働と無関係なのではない。
こうした児童労働が特に多いのは東南アジアや南アジア、アフリカ等の貧困層を多く抱える諸国で、それら諸国では児童の親も貧困ゆえにやむを得ず子どもを児童労働に供さざるを得ない事情もあり、構造的貧困とも関わる深い問題である。
一方、児童労働の特殊なケースとして、少年兵士の問題がある。これは低年齢の児童を徴用して兵士として前線に出すもので、アフリカや中東の紛争地域で武装勢力や時に政府軍によっても実施されている。少年兵士の多くは誘拐・拉致され、洗脳訓練されたうえ、成人兵士が躊躇するような残虐な殺戮作戦に動員される。
国連児童基金(UNICEF)によると、こうした少年兵士は世界で25万人と推計されている。かれらは紛争が終結し、解放されても、心身の成長を阻害するトラウマに苦しみ、社会参加に困難が伴うため、充実した再教育のプログラムを必要としている。
国際社会は、このような児童労働に関しても、つとに1989年の「国連児童の権利条約」をベースに、2002年の「武力紛争における児童の関与に関する選択議定書」及び「児童の売買、児童買春及び児童ポルノに関する選択議定書」を通じて、児童労働を禁ずる国際的な法体制を整備してきたが、根本にある貧困問題―そのさらなる基底にある資本主義―を解決しなければ真の解決にはつながらない。