妊娠中絶・堕胎をテーマにした作品
作者は「嫌われ松子の一生」で強くて弱い不思議な女性像を描いていたひと
天使すなわち赤ちゃんの代理人と称して堕胎希望の妊婦を説得していく活動を
描きながら、人間はどこからどこまで人間であるのか
生まれるということは幸せなことなのか、不幸なことなのかと問う
人生が誰にとっても楽しいもので、「能除一切苦」と唱えずとも
懺悔の言葉を口にせずとも生きていけるのならばよいのだろうけど
なんだか今の世の中を見ていると、また実際に生きていると
生きてくるということ、生まれるということを単純に賛美する気持ちにはなれない
昨日も3歳の男の子が餓死していたことが報じれていた
体重はわずか5kg前後で、平均的な3歳児の1/3程度だという
恐らく満足に食事を与えられていなかったのだろう
理由はわからないが、幼い子どもが長時間にわたってひもじい思いを
続けていたということだけでやるせない気持ちになる
この小説の先には、生まれてきた子どもに対する厚い社会の保護が
続いているのだろう
小説の中でも福祉について記載されてはいるが
「生ませる」には生ませるだけの環境が必要なのだ
南木佳士の作品が好きでよく手にする
彼は現役の医師ながら芥川賞作家であり
その人生において病いに冒されてもいるという
このエッセイでも、疲れた心が山に向かい
少しづつ開放されていくところが感じられる
遠く信州にいる作家の快復など関係ないと
云えば関係ないのだが、彼のエッセイなどを
読んでいると同じような病いの入り口に立つ
自分を感じ、自分の肩をなんとか娑婆の方に
向けさせることができるので離れられない
作者には申し訳ないのだけれど
拝金・独善の世の中にいて、なんとか立って
いる自分にそっと「おまえはまだまし」と囁ける
ように利用させていただいている
とかくこの世は窮屈だ
① 尋ね人の時間/新井満
ずいぶん以前に芥川賞となった作品
作者は「千の風になって」で有名
小生にはなかなか読解できない作品
②町長選挙/奥田英朗
精神科医/伊良部一郎シリーズ
この年注目を集めた人物を題材に相変わらずの
珍治療を続ける伊良部博士・・・・ということで
一級の娯楽作品
モデルとなった「ホリエモン」も収監の憂き目に
遭ってしまい、ハッピーエンドとはいかなかったが
父はいまだに、ライブドア事件というものがよく
咀嚼できていない
主人公/千利休は秀吉に命じられて切腹する
小説は、この切腹の日から時間を逆回しにして展開する
利休の美学が、儚い恋により開眼し
儚い恋の美学ゆえに、秀吉を許せず死に至る
父に美学はわからないので、茶の湯の世界など
さらさら自分の銀河の外側の話のように思えるが
高麗の、高貴な美人との恋・・・・とされると
評判の韓流アイドル系を思い出し、利休居士も
なかなかやるのだなと大きく勘違いしてしまう
いずれにせよ
前回読了した「竜馬」の時代もひどいが、この戦国末期の
描写でも、平然と腹を切らせ、首を刎ねる
人ひとりの命の軽さに腹が立つ
ウチの王子様も適齢になり戦隊モノとヒーローものにご執心で
あるが、一緒にテレビやビデオをみていて少し感じるのは
少しずつ言葉が過激になっていること
父の時代の「ぶっ飛ばせ」(実は意味不明)から「ブッ殺す!」など
キツい言葉に変遷しているように感じる
最近は、ふざけて父に飛びかかってくるときも平然と
「ぶっ殺してやるっ!」と叫びながらやってくる
いつか本当にぶっ殺されないように、慈愛とともに育てたいものだ
アンパンマンでは作者のアイデンティティによる制限があるのか
悪者も「ばいばいきーん」と懲らしめられ、何度も復活するのだが
戦隊シリーズになると最後に爆破しないと気がすまない
ちなみに、幕末のヒーロー/坂本竜馬は、「(司馬の設定では)免許皆伝の
腕前をもち、拳銃を常備していたものの、最後まで「人」を殺していない」と
いうところが隠れた主題となっていた
関連グッズ販売のために、説明のつかない意味不明の設定で
「海賊」までヒーローにしだして「宇宙一のお宝」などと云うまえに
製作側もあまり手を抜かずに、もそっと夢のある設定、科学につながる
設定を考えてほしいものだな
長かった
単行本5冊が各100円で売っているのを見つけて即購入したのが3月の震災直後
1 | 立志編 | 383 |
2 | 風雲編 | 346 |
3 | 狂瀾編 | 361 |
4 | 怒涛編 | 373 |
5 | 回天編 | 456 |
1919 |
都合、約1900ページを1ヶ月あまりで読了した感じだ
実は、この小説自体は父が生まれたころに書かれたものであり
既に発表から約50年経過していることを考えれば古典の部類なのだ
今回、廉価に出回っていたのは、恐らくNHKの「竜馬伝」にあわせて
購入した人が手放したものだろう
司馬遼太郎は、小説の初稿から脱稿まで竜馬のことを歴史が必要とした人物
であり、それ故に歴史に名を残す傑物であるものとしている
混乱の世において、彼を含めた数名のみが「日本」を見ていたのだといい、彼らの中で
彼のみが、形骸化した制度の隙間を行き来しできた
そして、その旧態を叩き壊せたのだといっている
さて、父は学生時代から数十年、坂本竜馬に関する小説は避けてきた
その理由は、あまりにも坂本竜馬が魅力的に位置づけられすぎていることだ
どの小説もフィクションではあるものの、一種の海賊である彼を美化し続けて英雄にしてしまう
そして、その源は恐らく昭和38年頃から書き始められたこの小説によって、
あるいはこの小説に感化された様々な作品によって、数多くの凡人たちが天命を大きく
甚だしく勘違したことを思うためだ
この作品自体は、その考証や検証において一級の歴史小説であるかと思われ傑作ではあるが
その反面、描かれた竜馬の人物が魅力的すぎて人心を惑わせたのも事実ではなかろうか
父はこの小説を読了したその翌日に、子どもたちと釣りに出かけた
家族で、いわしを20匹ほど釣り上げた幸福感にひたっていた
「あぁ、やっぱり俺は歴史なんぞ変えるような、たいそうな人物でなくてよかったなぁ」と感じた
少々頭髪が薄くなっても、平和で大過なく過ごせる世の中が一番だ
姫さまも王子も、歴史に名を残したりせんでええからな