梅雨がこないまま夏がくるようだ。
今のところ神奈川のダム貯水率は平年を上回っていて少し安心だが
油断はできない。
かと言って自分たちにできることもない。
ただ、宮ケ瀬湖の周りを単車で走って満足するだけだ。何の役にも
立たないだけでなく、逆に化石燃料を無駄燃やしているだけだ。
小学生のころ、大気汚染がひどくて「光化学スモッグ」という得体
のしれないものに脅かされていた。
光化学スモッグ注意報や警報が発令されると、グランドには黄色や
赤色の旗が立てられ、児童はグランドに出られなくなる。
自分の周囲には、光化学スモッグにやられて苦しむ人もいなかった
のでどうも不思議に思っていた。
校舎の中や木陰から無人のグランドを見て、なんだか残念な気持ち
でいたのを覚えている。
それくらい夏が好きだった。
光化学スモッグが出てしまうとプールにも入れず、ただただ日陰にいるだけ。
なんともつまらない夏休みになってしまう。
なので今度は早朝に遊びに行くことを考えたのだが、これには難点があった。
つきあってくれる友人がいなかった。
最初は、朝5時に起きて虫取りにいくことで同行してくれる友人もいた。
朝寝坊してゴロゴロしない、且つ元気に出かけてリスクも少ないので母親たち
からの評判は良かった。
ただ、毎日朝寝坊していた友人たちにとって「早起き」を続けることは至難で
あり、まったく続かなかった。
仕方ないので自分ひとりで出かけていったりしたのだが、街には早朝散歩老人
しかいないので、たいして楽しいものではなかった。
結局、早朝に起き出して誰もいない玄関の小あがりでひとり新聞を眺めていた。
自分でも、少し変だとは思っていた。
その後も早起きはクセになっていて、高校生になってもやたら早起きだった。
クセなのだがヒマなので、この頃から早朝に試験勉強をするようになった。
勉強しながら?聴いていたラジオは22時台の毎日放送系のものから、「オール
ナイト日本」第2部や「走れ歌謡曲」に変わった。
それらが終わってしまうと宗教系の番組になる。
ここでようやくラジオから切り離されてより集中できる時間になった。
そのまま、学校まで自転車ででかけて試験を受けられるので、恐らく成績も少し
上向いたのだと思っている。
「早起きは三文の得」とはよく言ったものだ。
高校2年の2学期だったと思うが、突然に数学に目覚めたことがあった。
当時の数学担当はカブトヤ先生といってトツトツと淡白に授業を進めていかれる
先生で、もともと数学が不得意な自分は1学期の間は授業を聴いてもよく理解でき
ないので諦めていた。
ところが「微分・積分」のセクションとなったとたん、なぜだかどんどん面白く
なり、教科書の説明がすごくわかるようになった。
何がきっかけだったかは覚えていないが、よくいう神が降りてきた状態になった。
そうなるとほぼ無双で、2学期の中間試験ではとうとう90点を超えてしまうという
奇跡が起こった。
採点後に解答用紙を返却する際、カブトヤ先生が「このクラスにすごく理解の進んだ
人がいますぅ。90点越えてますぅ。」といい、「**君っ、よくできてます。」と
自分の名前を呼んだ。
周囲の反応は「?」のみだった。
自分ではすらすらと解答できたのでそこそこ良いだろうと思っていたので、そんなに
びっくりしなかったのだが、悪友たちはキョトンとしていた。
そんなこともあった。
長い柄の捕虫網でセミを採りつくした夏休み
早朝の砂浜にオキゴンドウの死骸が流れ着いていた夏休み
テトラポッドの海岸で毎日のように飛び込んでいた夏休み
冷房の効いた港のゲーセンに入り浸っていた夏休み
土管に手足をもいだ蟹を入れてひと泳ぎすればタコが獲れた夏休み
夕立ちに濡れ、女友だちのブラウスが透けて少し緊張した夏休み
花火大会のあと、彼女の後姿を見つめていた夏休み
もうじき夏がくる