踊る小児科医のblog

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小児救急電話相談の持つ意味合いは…

2006年11月21日 | こども・小児科
この件については県の地域医療フォーラムの中で発表されたようですが、
小児救急電話相談、来月2日開始(2006年11月20日)
>十二月二日からスタート
>土日・休日と年末年始の午後七時から午後十時半まで。
>看護師が相談に乗り、必要があれば医師がバックアップする。
>電話番号「#8000」
との報道の通りです。
ただし、ですね、記事には書かれていないいくつかの「ただし書き」が必要です。

まず、これは電話で診断したり指示したりするものではなく、あくまで相談を受けて「助言を行い、医療機関の適切な受診を支援する」ものであること。
電話診療ではありません。
基本的に、一晩様子を見ても心配なさそうなお話でも、直接みていない患者さんに「大丈夫」という言葉は使えません。
一般的なアドバイスはしますが、迷ったら、心配なら、受診するようにとしか言えません。
ただし、八戸や弘前のように小児救急のシステムが一応できているところならともかく、そうでない地域の場合は、無闇やたらに受診するようにとも言えない。
八戸でも深夜なら大病院の救急しかないし。(その時間は電話相談は受けていない)
ボーダーラインの微妙なケースが出てくると思いますが、最終的な責任は負えません。

それから、この事業はマスとしての効果はあまり期待できない上に、おそらく費用対効果が非常に小さく、将来に渡って継続していくには抱える課題が大きいこと。
効果というのは、例えば急病診療所ではなく直接大病院の救急外来を受診してしまう小児時間外患者の数が減るといった指標のことで、利用者のアンケートでの満足度などというものではありません。

必要性が高いと考えられるケースは、例えば急いで(あるいは救急車で)受診しなくてはいけない状態なのに、親が過小評価していて家庭での看護だけですませようとしている場合。
年に何人もいないとは思いますが、こういうケースは必ずあり得るので、この事業が役に立つでしょう。

私はこの事業の立ち上げに直接関わっていないので一般的なことしか言えませんが、
県が最初に何の相談もなく持ってきたのは全部小児科医がやれというプランで、とても実現できるとは思えないものでした。

先行する他県の実施経験を調べてみると、
・日中にかかりつけ医を受診している患者からの相談
・救急ではない、育児相談的なもの
などがかなりの割合であり、本来の目的から離れて育児不安の解消という面が目立ち、また、小児科医だけで対応するシステムで始めた県では、相談医が疲弊して脱落し継続できなくなっているところが多く、小児科医ではなく小児科の経験を有する看護師による相談を主体として、必要な場合にだけ待機小児科医に連絡してアドバイスをするというシステムに落ち着いたという経緯があります。

新聞は下記のように無責任なことを書いていますが、例えば八戸市の小児科医は毎日交代で急病診療所の当番を務めています。
これは当時県内のどこでも実現していなかったものを、小児科医の協力で2000年9月から開始したものです。
八戸と周辺地域の方は、この時間帯に急病診療所に行けばいいだけの話ですから、電話相談事業の必要性はほとんどありません。

しかし、内科や外科系の医師は大体月1回かそれ以下の回数ですが、小児科医は12名だけで当番を回しているので負担が大きく、現状でいっぱいいっぱいという状態です。
私も月2~3回出動していますが、平日しか引き受けない先生がいるので、私の当番は土日祝日が主になり、その他の学会・講演会などの用件を含めると、フリーの週末というのがなかなかとれません。

この事業への参加もどうしようかと最後まで迷ったのですが、引き受けることにしたのは、看護師の応対が主なので小児科医の追加負担はさほど大きくないだろうということに加えて、この事業や小児医療全般について県に対する発言権を確保しておきたいという気持ちがあったからです。

当初、この週末年末年始だけのスケジュールでも、無理なく回すには小児科医30名の参加が必要とされていましたが、結局最後に加わった私も含めて22名しか参加していません。
八戸では急病診療所に出ている12名のうち、たった3名だけです。
これで、下記の社説のような平日も全部やれなどということになれば、引き受ける小児科医が更に減って、継続不可能になるのは目に見えています。
「関係団体の責任は重い」などと書いているけれど、何のつもりで小児科医に喧嘩を売っているのか。
実情もよく把握せずに無責任な記事を書くのはいい加減にして欲しい。

いずれにせよ、定期的に協議して評価することになっていますので、また状況をお知らせできるかもしれません。

小児救急電話相談/まず始めることが大事だ(2006年9月6日 東奥日報社説)
>まずスタートして、走りながら、その時その時で直面する課題を解決し、
>内容を充実していくという。当面はそれもやむを得ないのかもしれない。
>ただ、いつまでも同じ内容であっては困る。看護師による電話相談の先進県である
>岩手県の場合、時間帯は本県とほぼ同じだが、平日も実施している。
>本県も内容を早く他県並みにし、ゆくゆくはその上を行くよう拡充していかなければ、
>県民は納得しないだろう。県や関係団体の責任は重い。