シンポジウム「小児保健法をめぐって」
1)「小児保健法」とは
松平隆光(日本小児科医会会長)
日本の家族関係社会支出は米国に次いで低く、高齢者給付費に比べるとほとんど増加していない。世代間格差も大きく貧困率も高い。子どもへの公的支出と出生率は直線的な関係にあり、日本は共に最低レベルにある。フランス並のGDP比3%に引き上げるには、さらに2%(約10兆円)の子育て支援費用が必要である。
小児保健法とは、子どもの権利を認め、健全に成長するための環境づくりと、それを社会で支えるシステムを制度化するための、子どもに関する諸法規の隙間を埋める法律である。子ども家庭省への行政一本化、高齢者偏重の社会保障給付から子育てへの財源確保、地域格差や世代間格差の是正、全てのワクチンの無料化などを盛り込んでいる。1991年以来検討を重ね、2008年に日医委員会報告を答申し、当時の自公政権下で法制化の動きもみられたが、民主党への政権交代後は足踏み状態にあった。
→小児保健法検討委員会(プロジェクト)答申(平成20年1月 日本医師会)
2)英国の小児保健政策
森 臨太郎(国立成育医療研究センター成育政策科学研究部長)
英国の小児保健・医療政策はブレア、ブラウン、キャメロン政権により大きく変換した。三代首相の家族の事情も後押しした政治主導と、虐待死事件などを背景とした世論の高まりにより、他の欧州各国に比べて劣悪とされていた小児保健の構造的問題が改善した。11項目に及ぶ10か年計画が2004年から実施されている。
医療から福祉・教育を含めた保健や予防医学へという流れが明確となり、古典的な母子保健から、今ある問題をベースとした根拠に基づく評価と政策策定、導入という枠組み(診療ガバナンス)が取り入れられ、小児保健政策に反映されていった。子ども家庭関連社会保障支出が低く、新生児死亡率が最低であるにも関わらず幼児死亡率の高い日本の小児保健政策の改善に向けて、英国の経緯は示唆に富んでいる。
3) 育児保険(子育て基金)構想
山崎泰彦(神奈川県立保健福祉大学名誉教授)
現在の子育て支援策は社会福祉と社会保険システムが併存しており、介護保険導入前の介護に類似している。介護と同様に「育児の社会化」をはかり、財政基盤を強化し、自立・権利・参加意識を高めるために、子どもの有無に関わらず現役世代が負担する保険料に加えて租税を重点配分する育児保険構想を提唱し、小児保健法では長期的課題として位置づけられた。
保育などのサービス(現物給付)中心の地域保険(介護保険)モデルと、児童手当などの現金給付中心の国民保険(年金保険)モデルの両面を併せ持つ総合保険モデルが考えられている。
新たな保険料負担、単身者・高齢者や事業主の理解、女性の意識の二分化、厳しい財政状況や政治への影響力不足などの課題が山積しているが、社会保障国民会議でも将来世代に負担を先送りしないという方向性では一致している。
4) 「子ども子育て支援新制度(関連三法)」について
橋本泰宏(厚生労働省雇用均等・児童家庭局保育課長)
子ども・子育て支援法、認定こども園法、関係整備法の三法制定により、内閣府に体制が一本化され、消費税の使途も年金・医療・介護に加えて子育てが明記された。安定財源として0.7兆円を確保し、残り0.3兆円の財源確保に「最大限努力する」と三党合意で確認された。
認定こども園には既存の幼稚園・保育所からの移行は義務づけず、株式会社の参入は不可とされた。小規模保育などの地域型保育給付に加えて、地域の実情に応じて市町村が実施する地域子ども・子育て支援事業として、一時預かりや乳児家庭訪問、養育支援訪問事業などの13事業を位置づけた。本格始動は平成27年度からの予定で、26年度から一部先行実施される。
(山崎泰彦先生の崎の字は上が大ではなく立です)
1)「小児保健法」とは
松平隆光(日本小児科医会会長)
日本の家族関係社会支出は米国に次いで低く、高齢者給付費に比べるとほとんど増加していない。世代間格差も大きく貧困率も高い。子どもへの公的支出と出生率は直線的な関係にあり、日本は共に最低レベルにある。フランス並のGDP比3%に引き上げるには、さらに2%(約10兆円)の子育て支援費用が必要である。
小児保健法とは、子どもの権利を認め、健全に成長するための環境づくりと、それを社会で支えるシステムを制度化するための、子どもに関する諸法規の隙間を埋める法律である。子ども家庭省への行政一本化、高齢者偏重の社会保障給付から子育てへの財源確保、地域格差や世代間格差の是正、全てのワクチンの無料化などを盛り込んでいる。1991年以来検討を重ね、2008年に日医委員会報告を答申し、当時の自公政権下で法制化の動きもみられたが、民主党への政権交代後は足踏み状態にあった。
→小児保健法検討委員会(プロジェクト)答申(平成20年1月 日本医師会)
2)英国の小児保健政策
森 臨太郎(国立成育医療研究センター成育政策科学研究部長)
英国の小児保健・医療政策はブレア、ブラウン、キャメロン政権により大きく変換した。三代首相の家族の事情も後押しした政治主導と、虐待死事件などを背景とした世論の高まりにより、他の欧州各国に比べて劣悪とされていた小児保健の構造的問題が改善した。11項目に及ぶ10か年計画が2004年から実施されている。
医療から福祉・教育を含めた保健や予防医学へという流れが明確となり、古典的な母子保健から、今ある問題をベースとした根拠に基づく評価と政策策定、導入という枠組み(診療ガバナンス)が取り入れられ、小児保健政策に反映されていった。子ども家庭関連社会保障支出が低く、新生児死亡率が最低であるにも関わらず幼児死亡率の高い日本の小児保健政策の改善に向けて、英国の経緯は示唆に富んでいる。
3) 育児保険(子育て基金)構想
山崎泰彦(神奈川県立保健福祉大学名誉教授)
現在の子育て支援策は社会福祉と社会保険システムが併存しており、介護保険導入前の介護に類似している。介護と同様に「育児の社会化」をはかり、財政基盤を強化し、自立・権利・参加意識を高めるために、子どもの有無に関わらず現役世代が負担する保険料に加えて租税を重点配分する育児保険構想を提唱し、小児保健法では長期的課題として位置づけられた。
保育などのサービス(現物給付)中心の地域保険(介護保険)モデルと、児童手当などの現金給付中心の国民保険(年金保険)モデルの両面を併せ持つ総合保険モデルが考えられている。
新たな保険料負担、単身者・高齢者や事業主の理解、女性の意識の二分化、厳しい財政状況や政治への影響力不足などの課題が山積しているが、社会保障国民会議でも将来世代に負担を先送りしないという方向性では一致している。
4) 「子ども子育て支援新制度(関連三法)」について
橋本泰宏(厚生労働省雇用均等・児童家庭局保育課長)
子ども・子育て支援法、認定こども園法、関係整備法の三法制定により、内閣府に体制が一本化され、消費税の使途も年金・医療・介護に加えて子育てが明記された。安定財源として0.7兆円を確保し、残り0.3兆円の財源確保に「最大限努力する」と三党合意で確認された。
認定こども園には既存の幼稚園・保育所からの移行は義務づけず、株式会社の参入は不可とされた。小規模保育などの地域型保育給付に加えて、地域の実情に応じて市町村が実施する地域子ども・子育て支援事業として、一時預かりや乳児家庭訪問、養育支援訪問事業などの13事業を位置づけた。本格始動は平成27年度からの予定で、26年度から一部先行実施される。
(山崎泰彦先生の崎の字は上が大ではなく立です)