踊る小児科医のblog

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『シッコ SiCKO』-すべての市民・政治家に観てほしい

2007年09月14日 | こども・小児科
 マイケル・ムーアがアメリカの医療問題を取り上げた話題作『シッコ SiCKO』を一足早く試写会で観てきました。
 『ボウリング・フォー・コロンバイン』『華氏911』で、アメリカ社会の暗部を突撃取材と笑いの渦で全世界にさらけ出してきたマイケル・ムーアの3年ぶりの新作。
 チラシには「医療関係者は、絶対に、絶対に、観てください」と書かれていますが、これはすべての市民、特に政治家や役人に観てもらって、現在進められている「小泉・安倍改革」で日本の医療にこれ以上市場原理を導入するとどのような未来が待ちかまえているのかを、アメリカの惨状から学んでほしいと思います。

 シッコ(sicko)とは sick からきたスラングで「病人」あるいは「精神病患者」という意味だそうですが、もう少し調べてみると、変質者や狂人、頭のおかしなヤツといった意味合いが強いようで、キャッチコピーの「アメリカの医療制度はビョーキ(sicko)だ」がカタカナになっているのがニュアンスとしては近いのかもしれません。

 ご存じのようにアメリカには医療保険に入っていない人が5千万人もいて、先進国で唯一国民皆保険の制度がない国なのですが、これはその無保険者ではなく、ちゃんと保険に加入している2億5千万人に実際に起きているお話です。

 以下は内容について触れているのでご注意いただきたいのですが、まさしくアメリカの医療制度はクレイジーで、交通事故で意識不明になって救急車で運ばれたのに事前に保険会社に申請していなかったという理由で保険の支払いを拒否されたり、指を2本切断したときに1本ずつの支払額(6万ドルと1万2千ドル)が提示され、やむなく1本だけつなげてもう1本はあきらめざるを得なかった例、入院中の患者が医療費を払えなくなると、行き先も告げずに患者をタクシーに乗せて貧民施設の前の歩道にゴミのように投げ捨てていく病院。。この映像はある程度の予備知識があってもさすがにショッキングでした。

 それとは対照的に、カナダ、英国、フランスへと取材を続けていくと、病院待合室のインタビューでも、どの国でも自己負担はゼロ(欧州ではこれが一般的)で、誰もが医療に満足している素晴らしい制度としてとして紹介されていきます。ここらあたり、いずれの国も一長一短あり100%の制度はどこにもないというこれまでの認識からすると「本当かな?」と疑問に思うところですが、笑顔の下に隠れている基礎的な情報を意図的に伝えていない面もあると考えた方がよさそうです。

 英国の医療制度も、「揺りかごから墓場まで」の社会保障はサッチャー改革でズタズタに崩壊して、現在でもその後遺症が残っているという認識だったのですが、この映画ではそういった面は描かれていません。
 ただし、フランスに住む米国人の集まりでワインを飲みながらフランスにおける医療、教育や子育て支援の体験を語り合う場面をみても、誰もがフランスでの暮らしに満足している様子に嘘はなさそうです。アメリカだけでなく日本と比べても、フランス人の方がずっと豊かな暮らしをしていて、正直うらやましく感じました。

 後半のやや感動的とも言える展開については省略しますが、このアメリカの惨状は他人事(ひとごと)ではありません。
 日本は先進国の中では対GDP比の医療費は低く、トップクラスの平均寿命、乳児死亡率を達成してきたWHOも認める世界の優等生でした。
 しかし、この十年間で社会保障の予算は切りつめられて患者の自己負担は増え続け、医療の地域格差は拡大して必要な医療が受けられない医療崩壊が現実のものとなり、無保険者が急増して国民皆保険は事実上崩壊しつつあります。
 年金生活者などで、具合が悪くても我慢しつづけて、医療機関に受診したときには病気が進行していたという話は珍しいことではなくなっています。
 その上、政府はさらに医療費を更に毎年2200億円(予算ベース)で削り続け、混合医療を拡大して民間の保険会社の参入を促し、金持ちでなければ十分な医療が受けられない社会をつくろうとしています。
 最初に書いたような「将来」の話ではなく、現在進行形でアメリカの状況に近づいているのです。

 その先の議論は、各国の医療制度の比較から始まって、医療や社会保障制度と財源の話など、難しくて私自身もきちんと論じられない領域に入ってしまいますが、まずこの『シッコ SiCKO』をできるだけ多くの方に観てもらって、現実に起きている「テロより恐ろしい世界」をご自分の目で確かめてほしいと思います。

 『シッコ SiCKO』は八戸フォーラム、イオン下田TOHOシネタウン、青森コロナシネマワールドで10月6日より上映される予定です。

『シッコ SiCKO』公式サイト
http://sicko.gyao.jp/

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2 コメント

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甘い汁を吸う党は、ぶっ潰せ (さざなみ農園)
2007-09-15 14:59:57
昔社会党が随分時間と論議を掛けて勝ち取った制度はバブル崩壊にて甘い汁を飲み続ける為に、改革と言う名の元に、ことごとくつぶして来た。
バカな国民は、この会社が潰れたら君たち飯食っていけんだろう、と脅かされ、自民党に票を投じる。
そして、甘い汁を与え続ける。
この悪循環が分からないのです。
会社が潰れた今、やっと気づいたようです。
今からでも遅くない。
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Sicko (Teddy)
2007-10-09 10:27:55
Sickoは面白そうですね。私も経験から米国での医療事情は少しは判ります。現在Electronic Healthcare Recordの推進とともに最低限の医療保障での検査・診断・治療の場所や時間帯、医師の技量による不公平感を少しでもなくすべく青森県としても色々と施策を展開していますが(青森県・健康福祉部長の難波さんは元々東京大学付属病院・加齢医療研究センター講師)、アメリカではお金を出せば死なずに済む事が多いですね、確かに。でも、Private-paymentでの個人的な保険で(私は、勤務作の保険でしたが)の治療は、最新のものでしたね。この部分のみが喧伝されて渡米による臓器移植などが米国で出来ると云う事で、何でもかんでも反対ではないのですよ、私は。処で、渡米して臓器移植を行った小児患者の主治医をお勤めになった松本ゆーたろー先生は2005年でしたかにご逝去されていたんですね、知らなかった。腸のカルチだったそうですね。便潜血などで定期的に見れたものをと思うと残念です。Stage-IVだったそうですね。それこそ、日本でまだ許可されていない種々の治療を米国で施してもらえばよかった、とおもいます。
先生は、松本勇太郎先生のご逝去、ご存知でしたか。
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