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H23日医母子保健講習会報告3「産科医療補償制度の現状と課題」

2012年03月23日 | こども・小児科
シンポジウム
テーマ「産科医療補償制度の現状と課題」
1)産科医療補償制度とは
      後 信(日本医療機能評価機構医療事故防止事業部長)
2)原因分析について
      岡井 崇(昭和大学医学部産婦人科教授)
3)再発防止について
      池ノ上 克(宮崎大学医学部附属病院長)
4)見えてきたもの、見直しに向けて
      石渡 勇(茨城県医師会副会長)

 子ども支援日本医師会宣言に掲げられている「無過失補償制度の確立」の先鞭として平成21年から運用開始した産科医療保障制度の現状と課題に関する発表の要点をまとめて記す。

 この制度は日本医療機能評価機構が運営し、補償と原因分析・再発防止の機能を併せ持ち、紛争の防止・早期解決と産科医療の質の向上を目指す。対象は分娩に関連して発症した在胎33週・出生体重2000g以上の脳性麻痺(CP)の児で、先天的要因、新生児期の要因による場合は除外する。補償金額は20歳までに総額3000万円であり、審査では過失の有無は判断せず、約2ヶ月で一時金が支払われる。開始後2年半で274件中252例が補償されている。

 原因分析は、責任追及を目的とするのではなく、原因を明らかにして再発防止を提言するためのものである。医学的評価にあたり、発生時に視点を置いて分析するだけでなく、産科医療の質の向上に資するため、既知の結果から振り返る事後的検討も行い、課題を指摘している。原因分析報告書は約半年で作成され、ホームページに要約版が公表されている。報告書の内容について、家族と医療機関の対話の欠如、学会・医会による支援体制の不備が指摘された。

 第1回の再発防止報告書では、分娩中の胎児心拍数聴取、新生児蘇生、子宮収縮薬、臍帯脱出の4つのテーマについて提言がなされたが、不適切な報道により一般の方のみならず医師の間にも誤解が生じた。実際には補償対象事例における損害賠償請求等は数%に留まっており、訴訟を減少させる目的は果たしている。

 CPの7~8割は他の要因によるもので、分娩周辺に起因する割合は少ないが、原因分析を通してCPの発生防止への課題が見つかりつつあり、発生頻度を減少させ得る感触が得られた。

 制度開始5年を目処に見直しが図られる予定である。余剰金が今後も発生する見込みであり、出生体重・在胎週数の緩和、補償対象を妊産婦死亡に拡大すること、補償金額や支払方式の変更、原因分析完了後の紛争解決支援のための中立処理委員会(ADR)などが検討されていくことになる。当日の議論によると、妊産婦死亡にまで拡大するのは難しく、もう少しCPに限定して進化・定着させていく方向性になる見込みである。将来的には、同様の無過失補償制度が他の領域にも拡大されることが期待される。 

(この文章は講習会出席報告のために書かれたもので、文責は当方にあり、要約の内容が演者の意図を十分に反映していない可能性があります。八戸市医師会報に掲載予定)

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