万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

ムシャラフ大統領の責任とは

2008年01月06日 17時44分30秒 | アジア
暗殺はブット氏の不注意 ムシャラフ大統領、米テレビで(共同通信) - goo ニュース

 国家の基本的な役割の一つは、言わずもがな、人々の生命、身体、財産を守ること、すなわち治安の維持です。ホッブスに始まる個人主義的な政治思想にあっては、この役割は、国家の存在理由そのものとさえ見なされてきました。ムシャラフ大統領が、暗殺は暗殺された側の不注意に原因があると考えているとしますと、この発言は、かなり無責任な響きを持つことになりましょう。

 もちろん、テロが横行する状態を考慮すれば、暗殺の危険性に備えるに越したことはありません。しかしながら、その反面、国民に直接指示を訴えるというパキスタンの政治スタイルから見ますと、暗殺を怖れては、政治活動は何もできないことになってしまいます。ですから、おそらく、ブット元首相は、暗殺される可能性を自覚しながらも、民主化のための活動を続けることを選択したのでしょう。つまり、遺書に残されているように、ブット元首相は、自らの命を賭してパキスタンに帰国したことになります。

 ムシャラフ大統領は、軍部をバックに政権を維持しているのですから、本来ならば、テロリストに対して強硬な対策が採れたはずです。それにもかかわらず、自らの責任を転嫁するとは、軍人としても、潔くありません。少なくとも、犯人の逮捕に全力を尽くし、暗殺事件が再発しないような国造りに努めることこそ、為政者の責任ではないか、と思うのです。

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