万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

中国が一人勝ちする自由貿易主義という難題

2009年09月13日 15時21分01秒 | 国際政治
米、中国製タイヤに緊急輸入制限 保護主義に懸念も(朝日新聞) - goo ニュース
 国家間で貿易摩擦を解決する手段として、関税引き上げや輸入制限などが実施される度に、自由貿易の精神に反するとする反対論が展開されるものです。しかしながら、中国が参加した現在の国際貿易体制を、古典的な自由貿易論で正当化することはもはや困難になっているように思えるのです。

 自由貿易の基礎理論であるリカードの比較優位説では、二国間で生産費を比較して、相互に優位となる産業に特化すれば、相互に利益をもたらす垂直的国際分業が成立するとしています。しかしながら、一方の国が、極端に労働力が廉価である場合には、両国の間で生産費を比較をするまでもなく、この国が、全ての産業において競争力を持つことになります。つまり、相互利益は成立せず、生産費の主要部分を占める労働コストが低い国の一人勝ちとなるのです。この見解に対しては、廉価な輸入製品は消費者の利益になりますし、垂直的な国際分業が成立すれば問題はない、とする反論はあるかもしれません。しかしながら、労働力が全て人口大国である中国に集中すれば、他の国の雇用はそれだけ減少し、当然に購買力も低下します。また、中国が全生産工程を自国内で行うようになれば、垂直的な国際分業も成立しなくなります。 

 市場におけるフェアな競争を考える場合、双方の競争条件が公平でない場合には、それなりの配慮が必要です。一国が、労働コストにおける圧倒的な競争力を備え、かつ、輸出に有利な方向に為替操作を行っている現状を、フェアな貿易関係と言えるのか、疑問なところなのです。

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コメント (30)
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