万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

EUとの刑事共助協定の問題点

2010年01月05日 15時44分52秒 | ヨーロッパ
 本日の新聞記事によりますと、最近、日本国政府とEUとの間で調印された刑事共助協定に、「共助を要請した国で死刑の可能性がある犯罪については捜査協力を拒否できる」とする規定が盛り込まれているそうです(日経新聞朝刊)。公安委員会から異論も出てきているそうですが、この協定には、幾つかの問題点がありそうです。

(1)不平等条約
 捜査協力の拒否権は、死刑制度を廃止したEU側だけが実質的に持つことになりますから、当事国間の権利の平等という観点からは、不平等条約と言えそうです。特に、EU諸国出身者が日本国内で死刑相当の事件を起こした時に、この不平等性が際立つことになります。しかも、もし今後、EUが、他の死刑制度を存続させている諸国と同様の協定を締結するに際して、この規定を設けないとしますと、日本国だけを不平等に扱ったことにもなります。

(2)凶悪犯罪者のEUへの逃亡
 もし、EUが、死刑に相当する凶悪犯罪者に対する捜査に協力しないとなりますと、死刑判決を恐れた犯人は、EU諸国に逃亡する可能性が高くなります。いわば、EUが、凶悪犯罪者に対してアサイレム(避難所)を提供することになりかねません。 

(3)恣意的な捜査拒否の可能性
 この協定は、犯人引き渡しではなく、犯罪者の捜査協力に関するものですので、対象となる犯罪者は、死刑判決を受けるか否か分からない容疑者に過ぎません。この段階で捜査を拒否できるとなりますと、EU諸国の刑事当局の恣意的な判断が働く可能性があります(死刑の怖れを理由に捜査拒否ができる・・・)。

 死刑制度については、日本国では、利己的で身勝手な動機から尊い命を奪うことの罪を重く見て、死を以って罪を贖うことを許してきました。この考えが、道徳に照らして間違っているとは言い切れず、日本国の国会では、これらの点を考慮して、条約の修正を視野に入れた議論を行うべきと思うのです。

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