万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

第2のヒトラーになれない金正恩氏

2013年07月01日 15時21分18秒 | 国際政治
正恩氏、ヒトラーに傾倒? 政策「研究せよ」 しぐさまね 青少年組織拡充(産経新聞) - goo ニュース
 北朝鮮の独裁者である金正恩氏は、ナチス・ドイツのヒトラーに傾倒しており、政策の研究まで命じたとされています。第一次世界大戦での敗北から、短期間でドイツ経済を立て直したことが理由として挙げられていますが、果たして、正恩氏は、第二のヒトラーになれるのでしょうか。

 ナチス・ドイツの経済政策の特徴とは、(1)反ユダヤ主義(反グローバリズム)(2)農業中心主義(3)略奪経済(4)民間企業の国策企業化(5)大衆主義…などを挙げることができます。これらの特徴は、政治や軍事とも密接に結びついており、国民経済の中心を農業に定めたことで、東方への領土拡張政策を計画してソ連と対立し(ソ連は、ユダヤ人のマルクスが主張した共産主義の国家でもあった…)、かつ、ユダヤ系の国際金融と対立した結果、米英仏をも敵に回すことになりました。そして、国内ではユダヤ人の資産を没収するとともに、占領地では、住民を強制労働に駆り立てたのです。その一方で、ドイツの民間企業は、ヒトラーの政策に協力する国策企業と化し、埋蔵していた豊富な石炭や鉄鋼は、軍事部門に優先的に投入されました。もっとも、ドイツ国民だけは、ゲルマン民族優越主義の下で生活水準の向上が図られ、フォルクスワーゲンの登場は、ヒトラーが国民的な人気を博すための政治的な人心掌握の手段でもありました。この方法を北朝鮮に当てはめてみますと、ナチス政権の模倣が、絶望的であることが分かります。(1)国際金融から切り離されているという点においては、北朝鮮は反ユダヤ主義ですが、建前としては共産主義国ですので、ヒトラーの理解からしますと、北朝鮮はソ連邦と同様のユダヤ主義の国です。(2)国内の農地さえ荒廃している状況にありつつも、北朝鮮が、それでも領土的野心を満足させようとすれば、侵略国家として叩かれることになります(中ロ韓と戦争に…)。(3)ヒトラー政権の資金源の一つは、裕福なユダヤ人からの資産没収でしたが、北朝鮮には、こうした富裕層が存在していません(在日朝鮮人の資産没収もあり得ますが、同民族からの搾取となる…)。(4)長らく統制経済を強いてきた北朝鮮では、既に全ての企業が”国策企業”であり(ただし、ドイツのような技術もない…)、また、軍需産業を支える天然資源が豊富というわけでもありません。(5)ヒトラーは、自らの贅沢は慎む一方で、ドイツ人には手厚い福利厚生を心がけ、国民が豊かになることを約束しましたが、北朝鮮の独裁者は、国民の飢餓を傍目に、国費で豪奢な暮らしを享受しております。ヒトラーには、ドイツ国民から支持される一定の理由がないわけではなかったのですが、金正恩氏には、国民からの人気も人望もないのです。

 敢えて両者の共通点を挙げるとすれば、時代錯誤と暴力主義です。もっとも、金正恩氏の時代錯誤は、軍事力による領土拡張をよしとしたヒトラーの時代錯誤に輪をかけていますので、はるかに深刻です(二重の時代錯誤…)。北朝鮮経済を立て直す最善の方法があるとすれば、それは、ヒトラー政権を真似ることではなく、金体制そのものが、歴史から退場することではないかと思うのです。

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コメント (2)
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