万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

TPPは大丈夫?-関税政策と為替政策の封印問題

2013年10月31日 15時13分05秒 | 国際経済
 本日、NHKのニュースによりますと、アメリカ政府による各国の為替政策に関するレポートが公表され、その中で、日本国の円安誘導に対する懸念が表明されているそうです。中国に対しては、人民元のさらなる上昇を、韓国に対しては、不透明な為替操作の公開を求めていますが、TPPやRCEPといった貿易自由化を進めるに先立って、今一度、為替政策の重要性について考えておく必要があるように思うのです。

 貿易自由化が進めば進むほど、実のところ、為替政策の重要性が高まることは必至です。何故ならば、貿易自由化によって関税障壁を設けることができなくなりますと、自国経済を維持・発展させたり、貿易不均衡を是正する手段として、政府は、為替政策に頼らざるを得なくなるからです。関税がゼロなのですから、為替相場の変動が、ストレートに輸出入価格に反映されてしまうのです。このことは、反面、広域的な自由貿易圏を設立しても、為替政策の分野において、共通ルールを設けずに各国の政策権限に全面的に任せるとしますと、”純粋な自由貿易”は実現しないことを意味しています。中国が”調整可能な変動相場制”という名の元安政策を維持し、韓国が、常習的なステルス介入国家であることを考慮しますと、RCEPのリスクは、TPPの比ではありません。RCEPにおいて中韓が主導権を握れば、民主党政権時代のように、両国の積極的な為替操作により、”超円高”に誘導されてしまうかもしれないのです(その外にも、中韓は、協定を締結しても、ルールを守らないという問題もある…)。

 それでは、各国が、関税政策と同様に、為替政策の権限の不使用をルールとすればよいのか、と申しますと、それほど問題は単純ではないようです。為替相場は、市場介入のみならず、中央銀行の量的緩和政策の経路からも影響を受けますし(デフレ対策が目的であっても通貨安を併発する…)、政府が自らの手を縛っても、民間の金融機関や投資家の投機的な行為によって誘導されるからです。そして、何よりも、政府が関税政策と為替政策(相場に影響を与える金融政策も?)という政策手段を封印した場合、経済的な危機に陥った国は、もはや、自己救済が目的であっても、なす術を失う可能性も否定できないのです。TPP交渉は、年内の妥結を目標としているようですが、その先のリスクや危機を見越した慎重な議論も必要なのではないかと思うのです。

 よろしければ、クリックをお願い申し上げます。


にほんブログ村 政治ブログへ
にほんブログ村
コメント (14)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする