万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

インフラ関連分野の自由化は‘隠れた植民地’への道?

2019年07月05日 11時25分53秒 | 日本政治
本日の日経新聞の朝刊一面には、英蘭ロイヤル・ダッチ・シェル社が日本国の電力小売市場に参入するとする記事が掲載されておりました。行く行く先には日本国の電力市場は外資系で占められてしまう可能性も否定はできないのですが、‘隠れた植民地’化のリスクを考えてもよい時期に差し掛かっているようにも思えます。

日本国の電力自由化は、2011年に発生した東日本大震災を機に一気に推進されたため、十分な国民的な議論を経ずして既成事実化が積み重ねられてきました。地域分割型の独占の緩和、再生エネ法に基づく電力買い取り制度、電力小売市場の開設…といった国内的な自由化のみならず、これと同時に外資の参入を凡そ全面的に認め、対外開放としての自由化政策も進めてきたのです。いわば、東日本大震災は、電力事業の‘ビッグバン’となったのですが、このため、今では、日本国のエネルギー事業における外資参入の勢いは止まりません。

メガ・ソーラの太陽光パネルを見ましても、安価な中韓製品に押されて国産パネルは総崩れとなり、かつて同分野を先駆的な技術開発において牽引してきた日本企業は見る影もない状態に至っています。こうした製品輸入の拡大に増して問題となるのは、事業そのものの開放です。伊豆高原の森林伐採において問題視された事業者が韓国系であったように、発電装置ののみならず、発電事業そのものが外資系というケースも珍しくないのです。

こうした全面的な自由化政策については、これまでそれに潜む問題点については無視されがちでした。安全保障等を根拠とした中国系事業者や韓国系事業者に対する警戒感はあったとしても、民間事業者であること、そして、グローバリズムを理由に是認されてきたのです。今般報じられている英蘭ロイヤル・ダッチ・シェル社も、自由主義国の企業ですので、おそらく問題なしとみる意見が多数を占めることでしょう。しかしながら、東インド会社の歴史等を振り返りますと、そうとばかりは言えないようにも思えます。

東インド会社と言えば、最もその名が知られているのは、イギリス東インド会社とオランダ東インド会社であり、双璧を成していると言っても過言ではありません。これらの会社は、アジア諸国との貿易の独占で莫大な利益を上げてきましたし、それと同時に、政治分野にあっても、一先ずは民間企業でありながら、現地において統治に関する諸権限を手に入れてきました。関税権、徴税権、財政権、インフラ敷設・運営権、警察権限…などなど、すなわち、サラミ戦術の如く、漸次的に国家運営に必要となる様々な権限を手中に収めることで、最終的に領域や国民支配を含む植民地化に成功しているのです。英蘭ロイヤル・ダッチ・シェル社と云う社名を聴くと、否が応でも東インド会社が思い浮かびます。そしてそれが、単なる製品輸入ではなく事業運営をも意味するとなると、同社に対する警戒感はさらに強まるのです。

もちろん、鉄道、水道、電気、ガス、情報通信といったインフラ事業における外資系事業者の参入に関するリスクは、英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルに限ったことではありません。インフラ事業には時空における制約がありますので、他の製品市場とは異なり、長期的な独占が生じやすい傾向にあるからです。しかも、規模の大きな企業ほど、競争上、有利となります(EUでは、エネルギー市場を単一化した結果、大手企業しか生き残れず、多くの加盟国が、他の加盟国の大手企業に自国の市場を席巻されてしまった…)。言い換えますと、自国の領域内における国民の経済活動や日常生活から、外国企業が恒常的に利益を吸い上げるシステムが内在化しかねないのです。

この問題は、日本国のみならず、全ての諸国が直面する隠れた植民地支配のリスクなのではないでしょうか。インフラ事業に関する外国企業の参入については、杓子定規な自由化よりも、国家レベルでの規制強化、並びに、国際レベルでの一定の規制を設ける方向でのルール造りが求められているように思うのです。

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コメント (12)
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