万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

日韓‘無礼合戦’から見える韓国の‘メビウスの輪戦略’

2019年07月20日 13時24分37秒 | 日本政治
 昨日、日本国の河野太郎外相が韓国の南官杓駐日大使を呼んで会見した際に、外相が大使の発言を遮り、韓国側の態度は‘極めて無礼’であるとして声を荒げたそうです。それもそのばず、国際法に従おうとせず、かつ、既に日本国政府が拒絶した案を韓国側が素知らぬ顔で再度持ち出そうとしたのですから、堪忍袋の緒が切れる気持ちも理解できます。ところが、日本側の無礼発言に対して、韓国側は、河野外相の態度こそ無礼であるとして遺憾の意を表明したと言うのです。

 さながら日韓‘無礼合戦’の様相を呈しているのですが、日本国に対する韓国側の反論の主たる主張は、「根本的に強制徴用という反人道的不法行為で国際法に違反したのはまさに日本だ」というものです。しかしながら、この主張、事実誤認が甚だしいように思えます。

 何故ならば、第一に、当時、韓国併合条約によって朝鮮半島は日本国の一部となり、その住民も日本国民であったからです。日本国内では、朝鮮半島に先駆けて国家総動員法が施行されており、日本国民の大半が徴用され、軍需工場等で勤務していました。それ自体は国際法に違反しておらず、況してや、朝鮮半島出身の人々が無給で強制労働を強いられたわけでもありませんでした(東京裁判でも、この点は、訴因とはされていない…)。徴用によるものであれ、民間の公募によるものであれ、当時の日本企業は朝鮮半島の人々にも賃金を支払っており、戦争末期の混乱期にあって未払いが生じた分については、1956年の日韓請求権協定で清算されたのです(もっとも、この時、アメリカの意向を受けて日本国側は、法的根拠のある請求額以上の経済支援を韓国に提供している…)。

 しかも、日韓請求権協定は、日韓相互の請求権の処理を定めたサンフランシスコ講和条約の第4条に基づくものであって、当時にあっては、日韓両国とも、同条約が求める平和的な解決手続きに従っています。近代以降の講和条約には、一般的には個人を含む財産請求権の相互清算の条項が設けられますので、同条約も、この国際法上の形式に従ったものでした。言い換えますと、両国の合意による日韓請求権協定の成立こそ、国際法遵守の証とも言えるのです。

 これらの諸点に鑑みますと、国際法に基づく日韓請求権協定において解決されたはずの問題を蒸し返す韓国の態度こそ、国際法に反するものと言わざるを得ません。そして、韓国は、ここでも「メビウスの輪」戦略の応用を試みようとしているように見えるのです。最初の時点に戻してしまうという…。今般の‘無礼合戦’のケースでは、日本側の事実に基づく時間軸の流れでは、請求権の清算問題⇒請求権協定の成立⇒問題の解決となるのですが、韓国側は、請求権の清算問題の前に‘日本国側の国際法違反’という事実に反する仮定を捻じ込むことで、日本国側の直線的な解決の流れを逆転させているのです。つまり、前提を変えることで直線をねじり(意図的な事実誤認?)、スタートラインに戻す時系列操作により、韓国側は、日本国側の国際法違反⇒韓国側の被害⇒不当な請求権協定⇒問題の未解決という裏面の流れを作りたいのでしょう。

 日韓関係が拗れる理由の一つとは、韓国側が多用するメビウスの輪戦略にあるように思えます。韓国は、常々‘ゴールポスト’を動かすとも批判されてきましたが、韓国は、しばしば‘スタートライン’をも動かすのです。韓国に配慮したり、迂闊に譲歩すれば、何時の間にか自らが不利な立場に置かれてしまうのですから、日本国側としては心の休まる時がありません。日本国政府は、韓国の戦略を熟知した上で、同国が仕掛ける罠に嵌らないように十分に警戒すべきではないかと思うのです。

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コメント (8)
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