万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

‘再教育’が必要なのは中国では?

2019年07月14日 15時10分50秒 | アジア
‘中国には再教育が必要’とでも言おうものなら、中国人であれば、烈火のごとくに怒り狂うかもしれません。‘中国を侮辱した’、‘お前は生意気だ’、さらには、物騒にも‘殺してやる’といった罵倒の声が返ってきそうです。‘再教育’という言葉には、優れた者が劣った者に、あるいは、正しい者が間違った者に対して教育を施すというニュアンスがあり、再教育の対象と見なされた側に不快感を与えるからです。

 その一方で、中国は、ウイグル人に対して強制収容所を設けて‘再教育’を実施しています。中華人民共和国憲法の第4条にあって全ての民族の平等を謳っているのとは裏腹に、中国は、ウイグル人の固有の文化、伝統、宗教等を消し去り、共産思想、並びに、漢人の風習に強制的に同化させようとしているのです。同化が完了すれば、もはや、ウイグル人と云う政治的独立を主張し得る集団は存在しなくなり、中国は、永遠にこの地を中国領として支配できるからです。内心では代々この地で生活を営んできた全住民を虐殺したいのでしょうが、それが不可能であるならば、漢人の大量入植を伴う強制同化政策が北京の中共政府にとりまして次善の策なのかもしれません。

 秦帝国の誕生以来、中国の歴代王朝には、周辺諸国を征服して支配下に置いてきた歴史があり、帝国こそ中国の統治体制の基本形態です。多民族を併呑する帝国の形態にあっては、住民の虐殺、並びに、強制同化は主たる支配の手段の一つであり、現代の中国もまた、この伝統的な手法を踏襲しているとも言えます。今日の共産党一党独裁体制も、絶対権力・権威者である皇帝を頂点に戴き、官僚制を領域一帯に張り巡らした帝政と然したる違いはありません。そして、帝国ほど、他の諸民族の主体性を一方的に奪い、征服地にあって住民虐殺や強制同化を実行した国家形態もないのです。

 中国やモンゴルをはじめ、帝国の建設者はそれを偉業として誇り、そこには反省や倫理上の後ろめたさなどはありません。情け容赦なく何百何千万の無辜の人々の命を奪ったとしても、帝国の輝きを損なうとは考えていないのです。そして、この無反省で他民族を見下す高慢な姿勢も、今日の中国は受け継いでいると言えましょう。

 しかしながら、民族自決と主権平等を原則とする国民国家体系が成立している今日の国際社会からしますと、帝国には殆ど存在する空間が残されていません。人類のコンセンサスとして、異民族支配を不当とし、住民虐殺や強制同化を人倫に悖る非人道的な行為と見なしているからです。これらの行為が道徳的に許されない時代を迎えた今日、中国のウイグル人に対する過酷な弾圧と同化の強制は、時代錯誤も甚だしいのです。

 以上に中共政府の反倫理・反道徳性について述べてきましたが、それでは、今日、再教育を受けるべきは、一体、誰なのでしょうか。他者の主体性や自立性を尊重すること、自らの利益のために他者の権利や自由を奪ってはならないこと、他者に苦痛を与える残虐な行為をなしてはならないこと等々、これらは人類社会の倫理・道徳の基本でもあります。このように考えますと、道徳、そして、文明の証でもある法の支配の理解という面において再教育を必要としているのは、中国共産党政権自身ではないかと思うのです。

よろしければ、クリックをお願い申し上げます。

にほんブログ村 政治ブログへ
にほんブログ村
コメント (9)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする