万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

ホルムズ海峡問題-日本国は有志連合に参加すべきか

2019年07月21日 15時11分16秒 | 国際政治
 国連海洋法条約では、国際海峡については、無害通航である限り全ての諸国の船舶に対して航行の自由を認めています。しかしながら、イランは、同条約の締約国でありながら、ホルムズ海峡を国際海峡とは認めず、自国の領海とした上で、同海峡の外国船舶の無害通航に対して厳しい要件付ける国内法を制定しています。つまり、外国船舶の航行がイランの国益に反すると同国が判断した場合には、イランは、何時でもホルムズ海峡を封鎖できる主張しているのです。実際に、イラン・イラク戦争など、同地域で紛争が発生した際には、イランは、しばしばホルムズ海峡の封鎖を示唆してきました。そして、今般、イランの革命防衛隊はイギリスの船舶を拿捕し、再度、アメリカをはじめ国際社会に対して海峡封鎖という脅しをかけているのです。封鎖には封鎖を、つまり、イランを包囲する経済封鎖に対してホルムズ海峡封鎖を以って対抗しようとしているのです。

 この問題は、アジア向け中東産原油の80%以上が同海峡を通過して輸出されますので、日本国にとりましても他人事ではありません。イランに拿捕されたのがイギリスの船舶とはいえ、先立っては日本国の船舶も同海峡で攻撃を受けており、ホルムズ海峡が封鎖される事態に至れば、欧米諸国よりもアジア諸国の方が遥かにダメージを受けます。日本国にとりましては、東シナ海から南シナ海を経てインド洋に向かい、そして中東に至るシーレーンに位置しているのですから、アメリカの有志連合の呼びかけに対して‘知らぬ存ぜぬ’の態度をとるわけにはいかないのです。それでは、日本国政府は、どのように対応すべきなのでしょうか。

 まず確認すべきは、この問題は、国際法上の航行の自由の原則、即ち、国際海洋法秩序に関わることです。仮に、イランの言い分を認め、国際海峡における封鎖の権利を沿岸国に広く認めますと、他の諸国も同様の措置を取り始める可能性もあります。例えば、中国は、不法に軍事拠点化した南シナイ海において自国の‘領海’を主張し、外国船舶の無害通航を妨害するかもしれません。あるいは、ボスポラス海峡やダーダネルス海峡等の他の国際海峡にあっても同様の事態が発生し、現行の国際海峡制度がなし崩しになるリスクさえあります。石油を中東に依存し、かつ、イランとも友好関係を構築してきた日本国はアメリカの要請に応じる必要はないとする意見もありますが、国際法の原則を曲げてはならず、日本国政府は、イランを非難して行動の是正を求める共に、国際海洋法秩序の維持に努める責務がありましょう。

 国際法に違反する行為に対しては、国連安保理を開催して対策を協議し、国際的な合意の上でボスポラス海峡の治安維持部隊を結成するのが正道です。あるいは、被害国が加害国を相手取って国際司法機関に提訴する方法もないわけではありません。しかしながら、トランプ政権は、イランと友好関係にある中ロのみならずフランスも拒否権を有する安保理での決議成立は困難と見て、このステップを踏まずに早々に有志連合を呼びかけたのでしょう。となりますと、日本国政府は、(1)日米安保の枠組、(2)独自の安全保障政策、(3)活動資金提供国として有志連合への参加を検討することとなります。

(1)については、現行の安保関連法にあっては、日米安保協力の条件となる武力攻撃事態や存立危機事態には当たらないとされ、自衛隊の参加には消極的な識者の見解も見られ、政府も有志連合への参加には及び腰です。もっとも、先日の日本船舶に対する攻撃がイランによるものであったことが判明する、あるいは、存立危機事態の定義にある‘密接な関係にある他国’をイギリスと解釈すれば、自衛隊の派遣は絶対に不可能であるとは言い切れないかもしれません。

(2)の選択肢については、日米安保とは別の文脈において自衛隊が国際治安維持活動に参加するケースとなります。アメリカから有志連合参加の呼びかけを受けたのは、同国の同盟国のみではありません。つまり、アメリカとの同盟関係は有志連合参加の前提条件はなく、このことは、日米同盟の枠組を離れた海外派遣もあり得ることを意味します。今般のホルムズ海峡の一件が、国際法秩序の問題にあるならば、むしろ、有志連合の活動は、国家防衛よりも、国際社会における警察活動としての性格を持ちます。日本国内では、自衛隊の海外派遣は日米同盟、あるいは、国連の平和維持活動等の問題とする先入観がありますが、国際法秩序の維持を目的とした国際協力への独自参加もあり得る選択肢と言えましょう。仮にアメリカとイランとの間で軍事衝突が発生した場合、第三次世界大戦を誘発するとの懸念がありますが、日米同盟の別枠での参加であれば、日本国が自動的に交戦国となる事態を防ぐメリットもあります。

それでは、残る(3)の選択肢はどうでしょうか。湾岸戦争時にあって、日本国には自衛隊を派遣せずに資金のみを拠出したため、国際的な批判を招いた苦い経験があります。今般も同様の対応をとるとすれば、常々日本国の負担の軽さに不満を抱いてきたトランプ大統領からは不評を買う可能性はありましょう。それでも、相応の資金負担を表明すれば、米軍を始めとした他国の軍隊に自国のシーレーンを護ってもらいながら、何もせずに傍観を決め込むよりは、遥かに‘まし’なように思えます。

なお、イランのホルムズ海峡封鎖につきましては、その効果については疑問もあります。何故ならば、対岸のオマーン側を通行すれば、イランの封鎖活動を逃れることができるからです。あるいは、日本国政府は、国際社会に対してイランの封鎖策を無力化する方法を提案するのも一案となるかもしれません。

以上に日本国政府の対応について述べてきましたが、国際法秩序から受ける恩恵は、イランとの交易から生じる経済的な利益を遥かに上回ります。国際社会における警察活動であり、その枠内に現地での自衛隊の活動が留まるならば、日本国政府は、有志連合への積極的な参加を検討して然るべきではないかと思うのです。

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コメント (12)
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