フランスで開かれていたG7では、目下、全世界が注視している「リブラ」問題については、‘最大級の規制’をかけるとする方針のみが示されて閉幕したそうです。最終的判断は後日に持ち越されたわけですが、この言葉からは、‘規制さえクリアすれば「リブラ」の運営開始は認める’とするニュアンスが読み取れます。果たして、国家の諸権限の侵食を伴う「リブラ」は許可されるのでしょうか。
フェイスブック側の説明に依りますと、リブラ構想の主たる目的は、(1)銀行口座を持たない全世界の凡そ17億人にデジタル・ウォレットを提供する、(2)個人レベルでの国境を越えた送金・決裁を低コストで可能とすることにあるようです。今日の全世界の人口数は凡そ77億人と推定されていますので、この説明に従えば、人類の4分の1強の人々の利便性を高めるために国家の専属的権限であった通貨発行権が一私企業に認められ、かつ、国家の政策権限が侵食されることとなります。公平に比較考量すれば、「リブラ」が齎す金融秩序の崩壊リスクは利便性の向上を遥かに上回ると判断せざるを得ません。また、「リブラ」の発行のみが上記の問題に対する唯一絶対の解決手段ではありませんし、公共性の高い通貨発行を一般のサービス事業と同列に扱うこともできないはずです。リスクの未然防止の観点からは、禁止措置が最も有効な対策のように思えるのですが、G7では、何故か、禁止の方向性が示されていないのです。
そして、ここに、誰が「リブラ」の運営に条件付きであれ許可を与えるのか、という問題が浮かび上がってきます。リブラ構想とは、国際送金・決裁システムに他なりませんので、国際的な議論を要することは確かなことです。米ドルやユーロ等との交換、あるいは、送金や決済を介して「リブラ」を取得した人は、どこの国の人であれ、保有する「リブラ」を自国通貨に交換するか、あるいは、「リブラ」価格で表示された商品を購入するなど、「リブラ」を換金せずにそのまま使用するかの何れかの行動をとるはずです。「リブラ」の本質は流動性の高い投資信託類似商品とする説もありますが、元より「リブラ」は決済通貨として流通可能な‘通貨’として設計されています(価値尺度、支払手段、価値貯蔵手段という貨幣の三要件も満たしている…)。「リブラ」の流通が開始されれば、各国の政府は、自国の領域内において「リブラ」を‘通貨’として扱わざるを得ないのです。乃ち、世界レベルでリブラ構想を実現するためには、全ての諸国が「リブラ」に対して自国通貨との交換性を保障するとともに、自国内で流通可能な通貨としての法的地位をも与えなければならないのです。
となりますと、「リブラ」の運営主体がサービスを開始しようとすれば、全世界の諸国において法定通貨の地位を得る、あるいは、法定通貨の地位を得た国でした事業を行うことができないこととなりましょう。このことは、たとえG7において、厳格な規制の下であれ「リブラ」の運営を認めたとしても、必ずしもリブラ構想が実現するとは限らないことを意味します。先進国であるG7のメンバー国であっても、自国に合意案を持ち帰れば議会の強固な反対に遭うかもしれませんし、国民世論の強い反発を受けるかもしれません。フェイスブックは、アメリカに本拠地を置くIT大手ですが、同社に対する国内での風当たりも強く、国家の通貨発行権といった重要な権限にも関わるともなれば、同国でさえ許可が下りるかどうか行く先は不透明なのです。
このように考えますと、「リブラ」の命運を握っているのは国家であり、国家の承認なくして同構想は実現しないと言えましょう。もっとも、アメリカではフェイスブックの登録者が減少傾向にあるように、ユーザーにそっぽを向かれてしまう可能性もないわけではないようにも思えます。何れにしましも、リブラ構想は、国家と云う越え難い高い壁に阻まれそうな予感がするのです。
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フェイスブック側の説明に依りますと、リブラ構想の主たる目的は、(1)銀行口座を持たない全世界の凡そ17億人にデジタル・ウォレットを提供する、(2)個人レベルでの国境を越えた送金・決裁を低コストで可能とすることにあるようです。今日の全世界の人口数は凡そ77億人と推定されていますので、この説明に従えば、人類の4分の1強の人々の利便性を高めるために国家の専属的権限であった通貨発行権が一私企業に認められ、かつ、国家の政策権限が侵食されることとなります。公平に比較考量すれば、「リブラ」が齎す金融秩序の崩壊リスクは利便性の向上を遥かに上回ると判断せざるを得ません。また、「リブラ」の発行のみが上記の問題に対する唯一絶対の解決手段ではありませんし、公共性の高い通貨発行を一般のサービス事業と同列に扱うこともできないはずです。リスクの未然防止の観点からは、禁止措置が最も有効な対策のように思えるのですが、G7では、何故か、禁止の方向性が示されていないのです。
そして、ここに、誰が「リブラ」の運営に条件付きであれ許可を与えるのか、という問題が浮かび上がってきます。リブラ構想とは、国際送金・決裁システムに他なりませんので、国際的な議論を要することは確かなことです。米ドルやユーロ等との交換、あるいは、送金や決済を介して「リブラ」を取得した人は、どこの国の人であれ、保有する「リブラ」を自国通貨に交換するか、あるいは、「リブラ」価格で表示された商品を購入するなど、「リブラ」を換金せずにそのまま使用するかの何れかの行動をとるはずです。「リブラ」の本質は流動性の高い投資信託類似商品とする説もありますが、元より「リブラ」は決済通貨として流通可能な‘通貨’として設計されています(価値尺度、支払手段、価値貯蔵手段という貨幣の三要件も満たしている…)。「リブラ」の流通が開始されれば、各国の政府は、自国の領域内において「リブラ」を‘通貨’として扱わざるを得ないのです。乃ち、世界レベルでリブラ構想を実現するためには、全ての諸国が「リブラ」に対して自国通貨との交換性を保障するとともに、自国内で流通可能な通貨としての法的地位をも与えなければならないのです。
となりますと、「リブラ」の運営主体がサービスを開始しようとすれば、全世界の諸国において法定通貨の地位を得る、あるいは、法定通貨の地位を得た国でした事業を行うことができないこととなりましょう。このことは、たとえG7において、厳格な規制の下であれ「リブラ」の運営を認めたとしても、必ずしもリブラ構想が実現するとは限らないことを意味します。先進国であるG7のメンバー国であっても、自国に合意案を持ち帰れば議会の強固な反対に遭うかもしれませんし、国民世論の強い反発を受けるかもしれません。フェイスブックは、アメリカに本拠地を置くIT大手ですが、同社に対する国内での風当たりも強く、国家の通貨発行権といった重要な権限にも関わるともなれば、同国でさえ許可が下りるかどうか行く先は不透明なのです。
このように考えますと、「リブラ」の命運を握っているのは国家であり、国家の承認なくして同構想は実現しないと言えましょう。もっとも、アメリカではフェイスブックの登録者が減少傾向にあるように、ユーザーにそっぽを向かれてしまう可能性もないわけではないようにも思えます。何れにしましも、リブラ構想は、国家と云う越え難い高い壁に阻まれそうな予感がするのです。
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