万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

テンセントの日本上陸の危機

2019年07月26日 17時21分15秒 | 日本政治
本日7月16日付の日経新聞朝刊の記事に依りますと、中国系IT大手であるテンセントは、クラウドサービス事業の分野で日本市場に参入する計画を明らかにしたそうです。しかしながら、この計画、テンセントの経営戦略通りに実現するのでしょうか。

 テンセント側は、その規模において優位な立場を過信して日本上陸を楽観視しているのでしょう。しかしながら、‘情報を制する者は世界を制する’と評されるように、情報・通信の分野は、‘支配’の問題と深くかかわっています。言い換えますと、国内の情報が海外の国、個人、あるいは、企業に握られますと、それは、これらの支配権が自国内に及ぶことをも意味しかねないのです。逆から見れば、情報・通信分野において他国での事業展開に意欲を有する者は、他国支配の野望を秘めているとも言えるのです。

民間ビジネスと雖も防衛、安全保障、市場の独占・寡占、個人情報の保護…等々に関わる故に、何れの諸国も、同分野を一定の規制の下に置いています。その最たる国が閉鎖的な全国民監視システムをほぼ完備させた中国であり、その中国が他国の政府に対しては規制の緩和を要求することはできないはずです。ところが、日本国政府の従来の対応を見ておりますと、あまりにも甘いとしか言いようがありません。配車アプリやスマホ決済等を含め、何らの警戒感を示すこともなく、中国企業に対して日本上陸を許してきたのですから。本格参入に先立って、テンセントも、既に日本のゲーム大手に対してクラウドサービスの提供を開始しているそうです。

もっとも、米中貿易戦争がエスカレートする中、さしもの日本国内でも対中警戒論が強まり、上述した記事に依れば、テンセントの参入計画に対しては情報漏洩が危惧されるようにはなりました。こうした日本国側の懸念に対して、同社担当幹部は「各地の法律法規を尊重する。顧客データを顧客の許可なしに扱うことはしない」と説明し、その払拭に努めています。また、アリババがソフトバンクと組んで設立した合併会社をモデルに、テンセントも日本国内に専用のデータセンターを設けると共に、‘中国企業隠し’のために日本の大手システム企業と連携する道を探っているともされます。

幾度となく裏切られてきた過去の前例をみれば、テンセントの説明を言葉通りに信じるわけにはいきません。また、たとえ国内にデータセンターが設けられていたとしても、サイバー技術が高度に発達し、かつ、記憶媒体も小型化した今日では、データの不正な国外持ち出しを完全に防ぐことも困難です(合弁会社からテンセントへの情報提供は容易では…)。ましてや、日本企業との合併会社設立による‘中国企業隠し’は、たとえ合法行為であったとしてもユーザーを欺く一種の‘偽装作戦’でもあります。

 米欧では、IT大手に対する規制強化が議論されておりますが、共産党一党独裁体制を敷く中国の企業ともなりますと、中国共産党のコントロール下にもあり、政治的リスクも増大します。日本国は、GAFAを想定した対策に留まらず、中国IT企業をターゲットとした規制の強化にも動くべきであり、安易に事業許可を付与してはならないと思うのです。

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コメント (22)
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