万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

イランは核開発を止めないのでは?

2019年07月08日 14時10分39秒 | 国際政治
トランプ米大統領によるオバマ政権時の2015年に成立したイラン核合意からの離脱は、イランによる核開発の再開というリアクションを誘発したようです。同合意によって定められた上限を越えるウラン濃縮に踏み切ったのですから、これまで西側諸国でありながらイランを支えてきたさしもの英独仏、並びに、EUも顔色を失っています。そして、この展開から見えてくるのは、イランの核の開発・保有に向けた不変の意思なのではないかと思うのです。

 そもそも、トランプ政権がイラン核合意から撤退した理由は、同合意の内容が不十分であり、将来的にはイランに核保有の道を残していたからです。期限も15年と設定されておりましたので、同政権の懸念は合理的な根拠がないとは言えません。イランは、自らに課せられた制約が緩く、将来的な核開発・保有に含みを持たせていたからこそ、西側諸国との核合意文書に署名したとも言えるのです。仮に北朝鮮に対する核放棄の条件として示されたCVID方式であれば、イラン合意は決して成立することはなかったことでしょう。

 少なくともイラン側の核合意の理解が、西側諸国による同国の将来的核保有に対する暗黙の承認であり、開発プロセスにおける一時的な休止期間に過ぎないとすれば、この理解は、トランプ政権のものと奇しくも一致しています。イランにしてみますと、休止期間の間に原油の輸出を梃子に核開発に要する外貨や技術を獲得できれば御の字であり、この意味において、核合意には署名するだけの価値があったのでしょう。一時的な妥協がその後にあって重大な危機をもたらすことは、歴史においてはしばしば人類が経験してきた判断の誤りです。

 しかしながら、トランプ政権の合意からの撤退により石油取引に制限が課されますと、イランの上記のシナリオは大きく狂うこととなります。つまり、合意を維持するだけのメリットが失われるのです。中国を含む他の当事国の合意履行要請をあっさりと振り切ってイランがウラン濃縮を拡大させたのは、当初から核開発・保有を放棄するつもりは毛頭なかったからに他なりません。安倍首相のイラン訪問時にあって、同国の首脳は‘宗教的な信念からして核開発の意図はない’と説明したと報じられていますが、同国の行動を見る限り、この言葉には偽りがあったとしか言いようがないのです。

 イランには核放棄の意思が全くないとしますと、トランプ大統領がイランに対して交渉の席に着くように促したとしても、それは無駄な試みとなりましょう。再交渉によってイランがCVID方式の核放棄に応じるとは到底考えられないからです。否、イランは、アメリカの核合意撤退を核開発再開の口実とできるのですから、‘渡りに船’であった可能性さえあります。一方、中国やロシアはこの件に関して今のところは沈黙しており、あるいは、両国の助言とサポートの下でイランは核開発を再開させたかもしれないのです(両国はイラン産の原油を独占するかもしれない…)。

 このように考えますと、イランを核合意に復帰させる方向で働きかけるよりも、イランの核保有の意思は固いとみて対策を講じた方が賢明なようにも思えてきます。とりわけ、中ロがイランの核開発と保有を認めているとなりますと、NPT体制の根本に関わる問題ですので、国際社会は、核について抜本的な見直しを迫られることとなるように思えるのです。

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コメント (10)
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