万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

虫が良すぎるフェイスブックのリブラ構想

2019年07月16日 19時09分33秒 | 国際政治
先日、フェイスブックが2020年に開始を予定しているリブラ構想は、華々しく打ち上げられたものの、アメリカでは早くも厳しい批判に晒されているようです。解決困難な問題が山積しており、政府からの許可が下りず、実現しないのではないかとする声も聞かれます。

 リブラに対する主たる反対理由は、共和党は国家の通貨発行権の侵害、並びに、セキュリティを、民主党はどちらかと言えば競争法上の独占や新興国通貨への影響等を問題としているようです。何れも重大問題であり、今後、G7やG20といった国際会議等において課題となる可能性もあります。かくしてリブラ包囲網が構築されつつあるのですが、どう考えましても、リブラ構想は虫が良すぎるのではないかと思うのです。

報道によりますと、リブラのシステムでは、ユーザーが米ドルやユーロなどの通貨をリブラに替え、交換されたリブラは、デジタルウォレットである「カリブラ」に保管されるそうです。この‘両替’の時点で、リブラの運営主体は、たとえ一切の準備がなくとも、事実上、通貨を発行していることとなります。否、リブラの運営主体は、この時、自らが提供するリブラと云う仮想通貨と引き換えに、労さずして米ドルやユーロ等の通貨を手に入れていることができるのです。この手法、かつてモンゴル帝国が、紙幣の発行と引き換えに住民から金を供出させた事例を思い起こさせるのですが、通貨発行益は、リブラの運営主体の懐に転がり込むのです。リブラの目的は、銀行口座を持たない全世界の17億の人々のために口座、即ち、デジタルウォレットを提供することあると説明されていますが、その真の目的は、莫大なる通貨発行益を得ることにあるのかもしれません。

 このことは、同時に、リブラの通貨発行によって、市中の通貨供給量が影響を受けることを意味します。本来、通貨供給量の調整は、国家の中央銀行のお仕事なのですが、リブラ構想が実現すれば、通貨発行権のみならず、通貨供給量を調整する権限をも手に入れることができるのです。しかも、中央銀行の買いオペでは、期間を定めて金融機関が買い戻す条件が付されていまが、リブラでは、こうした条件はありません。つまり、ユーザーの求めに応じて無制限にリブラを発行することができるのです。その一方で、ユーザーから集めた米ドルやユーロ等は、リブラの運営主体に蓄積されてゆくのです(フェイスブックを含むリブラの運営主体は、この資金を一体、何に使うのでしょうか…)。

ここまで述べてきただけでもリブラ構想は虫が良すぎるのですが、さらに驚くべきことに、ユーザーの口座開設に際しては、政府によるIDの発行が必要とされています。つまり、通貨発行権や通貨供給量の調整に関する権限をも政府から奪っておきながら、当の政府までをも利用しようとしているのです。あまりにも虫が良い故に、アメリカのみならず各国の政府もリブラ構想を易々と許可するとは思えないのです。

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コメント (12)
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