廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

デックス・ミーツ・ミケルボルグ

2015年11月08日 | Jazz LP (Steeplechase)

Dexter Gordon & Orchestra Arranged and Conducted by Palle Mikkelborg / More Than You Know  (Steeplechase SCS-1030 )


きりっと冷たい空気が漂うのは何もECMだけの専売特許ではありません。 もう一つの北欧の雄、スティープルチェイスにもそういう作品があります。
欧州に拠点を移したデックスをフォローして支え続けたのもこのレーベルでした。 アメリカのジャズミュージシャンが渡欧した場合、大抵はその後の
様子がわからなくなってしまうものですが、この大物はさすがにそうはならなかった。 ライヴ活動をきちんと追いかけて録音し続けたし、こういう
入念に準備されたスタジオ録音も用意されたところを見ると、その待遇は破格のものだったようです。

先のディノ・サルージの作品でも素晴らしい演奏を残したパレ・ミケルボルグがアレンジャーというもう1つの顔でデックスを支えたこの作品は、後期の
デックスの代表作。 総勢20名を超えるオーケストラ編成のスコアを書いて指揮することに専念し、トランぺッターの席はアラン・ボッチンスキーや
ベニー・ベイリーに譲っています。 ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロという弦楽器やハープ、オーボエを前面に押し出した独特のオーケストレーションは
優雅で落ち着いた雰囲気を作りだしていて、その中からまるで浮かび上がってくるようにテナーの音が鳴る。 この感じが堪りません。

愛らしいワルツであるデックスが作曲した "Tivoli" が雄大な大曲となってそびえ立つ様は圧巻だし、"More Than You Know" では朗々と歌うテナーが
大オーケストラをゆったりと引っ張って進んでいくようで、こんなことができるのはこの人だけなんじゃないでしょうか。

1975年の2月に録音された本作はその時の冷たい空気も同時に封じ込められたかのようで、そういうところもこの音楽の一部になっているかのよう。
そういうことを感じることができる作品が一体他にどれだけあるだろうか、と考えてみると、この作品の重みは更に増すように思えるし、デックスは
渡欧して本当によかったんだな、と改めてうれしい気持ちになります。


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