Stan Getz feat. Niels-Henning Orsted Pedersen / Live At Montmartre ( デンマーク SteepleChase SCS-1073/74 )
1977年、アメリカや日本でV.S.O.P.が盛り上がっていたその時、北欧でスタン・ゲッツはこういう演奏をしていた。
スティープルチェイスとしては自国の天才ベーシストの名前を表に出してはみたものの、ジョアン・ブラッキーンのピアノの存在感の大きさに終始押され気味。
それでも、ペデルセンのベースの音はしっかりと録られていて、ゲッツのレコードの中では少し珍しいサウンドカラーとなっている。 この人、ソロはあまり
面白くないけれど、ウォーキング・ベースは最高にいい。 こんなに正確なピッチを刻める人は他にいない。
それにしても、ブラッキーンのピアノはよく目立つ。 抒情味のかけらもない一定のテンションで弾き切っていく。 そのせいか、この時期のゲッツの演奏も
いつになくハード・ドライヴィングだ。 まろやかさや幻想味は封印してる。 だから、音楽家ゲッツというよりはサックス奏者ゲッツの姿が浮かび上がる。
歌物のスタンダードを排して、ジャズメンのオリジナルを中心にプログラムを組む。 この時期、ショーターの曲をよく演奏していたようで、特にお気に入りは
"Lester Left Town" だった。 私もこの曲は大好きで、ついついこの曲をやっているサイドCばかり聴いてしまう。
デンマークを訪れるミューシャンは必ずと言っていいくらいジャズハウス・モンマルトルでライヴをやるけど、ここはおよそライヴ・レコーディングには向かない所で、
せっかくレコーディングしても残響感ゼロのオーディオ的快楽度の低い録音になる。 だから、音楽を雰囲気だけで聴くリスナーには不評を買うことが多い。
でも、このスタン・ゲッツ・カルテットの演奏の集中度の高さと質の高さの前ではそんな感想は出てこない。 楽器の音はクリアで曇りもないので、演奏の
素晴らしさがよくわかる、いい録音だと思う。 LP2枚組の作品だけど、あまりに充実した演奏だから尺の長さなんて全然感じないし、もっと聴きたいとさえ思う。
70年代、アメリカではジャズはすっかり廃れてしまっていたけれど、北欧デンマークの中心地でジャズはちゃんと生きていた。 それはまるで近い将来、
息を吹き返すのをじっと待っているような感じだったのかもしれない。 スタン・ゲッツのこの演奏はそれを教えてくれる。