廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

ゲッツの名演をどう克服するか

2020年06月23日 | Jazz LP (Steeplechase)

Lee Konitz / Windows  ( デンマーク Steeplechase SCS-1057 )


スティープルチェイスがジャズ界で果たした役割は大きかったと改めて思う。全盛期ととうに過ぎて、仕事を求めてアメリカからやってきた巨匠たち
を丁寧にサポートしていて、そのラインナップを眺めると今更ながら凄い。バド・パウエル、ケニー・ドリュー、デューク・ジョーダン、デクスター・
ゴードン、チェット・ベイカー、ジャッキー・マクリーン、と目も眩むようなラインナップで、このレーベルが受け皿となっていなければ、ジャズは
70年代で死滅したんじゃないかとさえ思えてくる。

ここではチックの "Windows" をやっているのが興味の中心となる。この曲には何と言ってもゲッツの名演が聳え立っていて、実際に録音に挑んだ
アーティストはほとんどいない。あの演奏を超える自信がある心臓の持ち主は中々現れないようだけれど、コニッツは堂々とアルバム・タイトルに
掲げている。

印象的なテーマ部をコニッツにしては珍しくきちんと吹いている。不思議な浮遊感を漂わせるコード進行に沿ってアルトは無理のないなめらかな
フレーズを紡ぐ。コード進行を丹念に追っていてトリッキーさはなく、できるだけ原曲の曲想を生かそうとしたようだ。この曲は元々が幻想的な
雰囲気を持っているから、コニッツとしてはそれを残したかったのだろう。ゲッツのように鋭く切り込んでいくアプローチではなく、あくまでも
楽曲をメロディアスに慈しむように演奏しているのが素晴らしい。コニッツの音楽的信条がよく表れていて、優れた先例を意識する必要はなく、
自分の音楽をやることが大切なのだと言っているような気がする。

ハル・ギャルパーとのデュオというシンプルな故に難しい構成だが、ピアノが徹底してコニッツを尊重してしっかりと支える立ち位置をとっている
ので、コニッツよりはギャルパーの方が大変だったろう。なにせ相手は生きる伝説のような人であり、大物だから、まあ順当なスタイルだ。
コニッツはそういう盤石な基盤の上で朗々とフレーズを紡いでいて、かつてのトリスターノの呪縛から解き放たれた、自由な姿を見せてくれる。
そういう雰囲気が聴き手に心地好い解放感を与えてくれるように思う。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ユセフ・ラティーフを見直す... | トップ | 普段はあまり見せない表情 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

Jazz LP (Steeplechase)」カテゴリの最新記事