廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

モンクへの接近

2017年04月23日 | Jazz LP (Steeplechase)

Paul Bley / My Standard  ( デンマーク SteepleChase SCS-1214 )


セロニアス・モンクが80年代まで活動してスタンダード集を録音したら、きっとこんな感じの作品になったんじゃないか。 

ポール・ブレイの音楽の異化の仕方は明らかにモンクのやり方に近い。 だから、このピアノを聴いてエヴァンスの名前が出てくるのはよく理解できない。
ここに並んだタイトルを見た時に連想する演奏と、実際に流れてくる音楽のギャップは相当大きい。 私が長らくこのアルバムを聴いてこなかった理由は、
どうせ退屈なスタンダードものなんだろうという間違った先入観からだった。 でも、実際に聴いてみると全然違っていた。

モンクのような先天的な異化の感覚とは違い、ブレイのそれは長年の研鑽による後天的なものだろうけど、それでも音楽のことを深く考えることでこういう
演奏になっていくというのは私には自然なことに思える。 剽窃としての、ギミックとしての演奏とは質的に違うこらこそ、繰り返し聴こうと思えるのだろう。

そういう解釈の中で原メロディーの断片が現れると、その本来の美しさはより一層際立つ。 崩れたメロディーと整ったメロディーの対比が一定の速度の
中で絡み合う様子は妖しい。 「私のスタンダード」とは、「私の演奏のいつものやり方」という意味合いなのかもしれない。

ECMほどではないにせよ、このレーベルのデジタル録音はなかなか健闘している。 控えめな残響の中で楽器の音は輪郭が明確で、ベースの音が前に出てくる。
こちらのほうが機械を通さずに聴く生音に近いように思う。 そういう音場感が音楽の良さを大きく後押ししてくれている。

見かけに惑わされてはいけない、きちんと意味のあるピアノ音楽になっていると思う。


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