私の名前は私立探偵、愛原学。
東京都内で小さな探偵事務所を営んでいる。
今日のところは依頼が無い為、私は住居部分の居室の整理をしていた。
と、そこへ1枚の写真がヒラヒラと落ちて来た。
「?」
私は何だろうと思って拾い上げてみると、それは若かりし頃の私の写真。
若いも若い、高校生時代に撮ったものだ。
何でそんなものがここにあるのか不明だが、恐らく実家から持ってきた物の中に紛れ込んでいたのだろう。
(学生時代か……)
こんな私でも、甘酸っぱい思い出はあるものだ。
高校時代の私は当時、好きな同級生がおり、何とか振り向いてもらおうと努力していた。
いや、今から思えば本当に恥ずかしい。
そしてどうにか、声を掛けることには成功したものの……。
「愛原君と一緒に帰るの?……でも、誰かに見られたりしたら恥ずかしいし……」
「えっ、そんな……!どこが恥ずかしいってのさ!?」
(↑ブレザーの上からアイドルヲタが着ている法被を着用し、しかもそこには『沙織命』と書かれている。沙織とはこの愛原が今誘っている女子高生の名前。ご丁寧に『沙❤織』という鉢巻きまで巻いている。しかも、後ろにはリアカーを改造した人力車を引いており、屋根やら電飾やら提灯やらを飾りつけている。更にその提灯には『沙織専用』とか『沙織以外乗車禁止』と書かれている)
「さよならっ!」
「あっ、待ってよ!」
(↑沙織、当然ながら脱兎の如く逃げてしまう)
「ったくもう!女ってのは全然わかんねーや!」
「俺はお前がよく分からん……」
そこへ現れたのは、同じクラスの男子で吉田。
中学の時からの付き合いである。
「よー、吉田ァ。一緒に帰ろうぜー」
(リアカー改造人力車をギシギシ引きながら寄って来る)
「恥ずかしいからヤダねっ!」
(同じくドン退きする吉田)
「えー?」
吉田は腕組みをしながら呆れて私に言った。
「全く。お前って奴ぁ、女ってもんが全然分かっちゃいねぇ」
「そうか……」
ガックリ来る私。
「やっぱり餌付けの仕方が悪かったか……」
「人間ってもんも全然分かってねーな、おい!?」
「だって、こんなに工夫してるんだぜ?それなのによォ……」
「いや、だからさ!お前は『押す』ことにばっかり気を取られてるんだって!『押す』だけじゃなくて、たまには『引いて』みなきゃ!」
「そ、そうか。それなら……」
ちょうどすぐ近くに野良猫がいた。
リアカー改造の人力車でもって突撃。
「ギニャァァァッ!」
リアカーに轢かれる猫。
「『ひいて』みたぜ?こっからどうすんだ?」
「『轢く』んじゃねぇ!『引く』んだ!ってか、オマエ、ワザとやってんな!?あ!?そうだろ!?」
「えっ?えっ?えっ?」
「……ってか、待てよ。愛原のお目当ては、今のコだけだよな?」
「もちろん!」
「しかも、俺よりずっと長い顔見知りじゃなかったか!?」
「近所に住んでるもんで、幼稚園から知ってる」
「おぉぉぉい!それを早く言えっ!それを使わねぇ手はねぇじゃん!?」
「そ、そう?でも、どうすりゃいいんだ?」
「そこはラブレターでいいだろう!」
当時、まだケータイすらそんなに普及していなかった。
ガラケーどころか、PHS(ピッチ)を持っているだけで自慢できた時代だ。
「思い出話の1つでも書いて、懐かしい気持ちにさせるんだよ。それから……」
「わ、分かった!ちょっと書いてみる!」
私は早速、下書き用に鞄の中からノートを取り出し、白紙を1枚破った。
「えーと……。じゃあ、『オレはお前の恥ずかしいネタを知っている。例えば小1の時、トイレが間に合わず、校舎裏でお漏らしした件だ。ちゃんと証拠も押さえている。それらをバラされたくなければ……』」
「そうそう。『オレと付き合え』って書けばもうシメたもん……って、コラァッ!!」
「……先生、先生!」
「フフ……。その後、中1の時、生理用ナプキンを忘れて……」
「先生、何がですか!?」
「……って、おおっ!?」
過去の思い出に浸っていたら、強制的に現実に戻されてしまった。
私を過去の思い出から引き戻したのは、助手の高橋正義。
まだ20代半ばだが、私の所に押し掛け助手となった。
その経緯はまた後程。
「先生、ボスから電話ですよ?」
「ボスから?ちょっと待て!」
私は急いで事務所に戻った。
そこで保留になっている電話の受話器を取った。
「も、もしもし!?お待たせしました!」
「私だ」
電話の向こうからバリトンボイスが聞こえて来る。
「ボス!」
「仕事の依頼だ。また地方の仕事になるが、良いか?」
「はい、もちろんです!どこへでも行きます!」
「今度はキミの望む通り、“名探偵コナン”や“金田一少年の事件簿”のような仕事になりそうだ」
「本当ですか!?」
「場所は◯×県霧生市。そこの郊外にクライアントは住んでいる。報酬はキミの言い値で良いという大盤振る舞いだ」
「おおっ!」
「その代わり、危険が伴う仕事となろう。心して掛かるように」
「分かりました!すぐに向かいます!」
「明日には到着してくれ。では」
ボスからの電話が切れた。
「高橋君!明日、出発するぞ!仕事の依頼だ!」
「はい!」
高橋君は私がとある事件を解決した際、容疑者候補にいた若者だ。
年齢は20代半ばで、その事件が起きた時、彼はニートであったが、私の事件解決ぶりに感動し、私の所で働きたいとこの事務所にやってきた。
彼がどうしてニートをしていたのかが分からないが、元ニートであった割には事務の仕事をそつなくこなした。
その為、今では私の助手として働いてもらっている。
こうして私達は現場に向かったわけだが、まさかあんなことになるとは……。
東京都内で小さな探偵事務所を営んでいる。
今日のところは依頼が無い為、私は住居部分の居室の整理をしていた。
と、そこへ1枚の写真がヒラヒラと落ちて来た。
「?」
私は何だろうと思って拾い上げてみると、それは若かりし頃の私の写真。
若いも若い、高校生時代に撮ったものだ。
何でそんなものがここにあるのか不明だが、恐らく実家から持ってきた物の中に紛れ込んでいたのだろう。
(学生時代か……)
こんな私でも、甘酸っぱい思い出はあるものだ。
高校時代の私は当時、好きな同級生がおり、何とか振り向いてもらおうと努力していた。
いや、今から思えば本当に恥ずかしい。
そしてどうにか、声を掛けることには成功したものの……。
「愛原君と一緒に帰るの?……でも、誰かに見られたりしたら恥ずかしいし……」
「えっ、そんな……!どこが恥ずかしいってのさ!?」
(↑ブレザーの上からアイドルヲタが着ている法被を着用し、しかもそこには『沙織命』と書かれている。沙織とはこの愛原が今誘っている女子高生の名前。ご丁寧に『沙❤織』という鉢巻きまで巻いている。しかも、後ろにはリアカーを改造した人力車を引いており、屋根やら電飾やら提灯やらを飾りつけている。更にその提灯には『沙織専用』とか『沙織以外乗車禁止』と書かれている)
「さよならっ!」
「あっ、待ってよ!」
(↑沙織、当然ながら脱兎の如く逃げてしまう)
「ったくもう!女ってのは全然わかんねーや!」
「俺はお前がよく分からん……」
そこへ現れたのは、同じクラスの男子で吉田。
中学の時からの付き合いである。
「よー、吉田ァ。一緒に帰ろうぜー」
(リアカー改造人力車をギシギシ引きながら寄って来る)
「恥ずかしいからヤダねっ!」
(同じくドン退きする吉田)
「えー?」
吉田は腕組みをしながら呆れて私に言った。
「全く。お前って奴ぁ、女ってもんが全然分かっちゃいねぇ」
「そうか……」
ガックリ来る私。
「やっぱり餌付けの仕方が悪かったか……」
「人間ってもんも全然分かってねーな、おい!?」
「だって、こんなに工夫してるんだぜ?それなのによォ……」
「いや、だからさ!お前は『押す』ことにばっかり気を取られてるんだって!『押す』だけじゃなくて、たまには『引いて』みなきゃ!」
「そ、そうか。それなら……」
ちょうどすぐ近くに野良猫がいた。
リアカー改造の人力車でもって突撃。
「ギニャァァァッ!」
リアカーに轢かれる猫。
「『ひいて』みたぜ?こっからどうすんだ?」
「『轢く』んじゃねぇ!『引く』んだ!ってか、オマエ、ワザとやってんな!?あ!?そうだろ!?」
「えっ?えっ?えっ?」
「……ってか、待てよ。愛原のお目当ては、今のコだけだよな?」
「もちろん!」
「しかも、俺よりずっと長い顔見知りじゃなかったか!?」
「近所に住んでるもんで、幼稚園から知ってる」
「おぉぉぉい!それを早く言えっ!それを使わねぇ手はねぇじゃん!?」
「そ、そう?でも、どうすりゃいいんだ?」
「そこはラブレターでいいだろう!」
当時、まだケータイすらそんなに普及していなかった。
ガラケーどころか、PHS(ピッチ)を持っているだけで自慢できた時代だ。
「思い出話の1つでも書いて、懐かしい気持ちにさせるんだよ。それから……」
「わ、分かった!ちょっと書いてみる!」
私は早速、下書き用に鞄の中からノートを取り出し、白紙を1枚破った。
「えーと……。じゃあ、『オレはお前の恥ずかしいネタを知っている。例えば小1の時、トイレが間に合わず、校舎裏でお漏らしした件だ。ちゃんと証拠も押さえている。それらをバラされたくなければ……』」
「そうそう。『オレと付き合え』って書けばもうシメたもん……って、コラァッ!!」
「……先生、先生!」
「フフ……。その後、中1の時、生理用ナプキンを忘れて……」
「先生、何がですか!?」
「……って、おおっ!?」
過去の思い出に浸っていたら、強制的に現実に戻されてしまった。
私を過去の思い出から引き戻したのは、助手の高橋正義。
まだ20代半ばだが、私の所に押し掛け助手となった。
その経緯はまた後程。
「先生、ボスから電話ですよ?」
「ボスから?ちょっと待て!」
私は急いで事務所に戻った。
そこで保留になっている電話の受話器を取った。
「も、もしもし!?お待たせしました!」
「私だ」
電話の向こうからバリトンボイスが聞こえて来る。
「ボス!」
「仕事の依頼だ。また地方の仕事になるが、良いか?」
「はい、もちろんです!どこへでも行きます!」
「今度はキミの望む通り、“名探偵コナン”や“金田一少年の事件簿”のような仕事になりそうだ」
「本当ですか!?」
「場所は◯×県霧生市。そこの郊外にクライアントは住んでいる。報酬はキミの言い値で良いという大盤振る舞いだ」
「おおっ!」
「その代わり、危険が伴う仕事となろう。心して掛かるように」
「分かりました!すぐに向かいます!」
「明日には到着してくれ。では」
ボスからの電話が切れた。
「高橋君!明日、出発するぞ!仕事の依頼だ!」
「はい!」
高橋君は私がとある事件を解決した際、容疑者候補にいた若者だ。
年齢は20代半ばで、その事件が起きた時、彼はニートであったが、私の事件解決ぶりに感動し、私の所で働きたいとこの事務所にやってきた。
彼がどうしてニートをしていたのかが分からないが、元ニートであった割には事務の仕事をそつなくこなした。
その為、今では私の助手として働いてもらっている。
こうして私達は現場に向かったわけだが、まさかあんなことになるとは……。