報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

特別読切!“私立探偵 愛原学” 1

2016-06-09 22:54:49 | 私立探偵 愛原学シリーズ
(※この作品は私が高校時代に校内コンクールに出品して、入賞したものです。しかしながら、現在の私の目で読むと、とても稚拙なものです。従いまして、公開するに当たり、今の私の技量でリメイク&アレンジしたものをお送りします)

 私の名前は愛原学。
 東京都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今日は仕事で長野県、山奥の村までやってきた。
 仕事の依頼さえあれば、どこにだって行くつもりである。
 クライアントの元へ到着した時には、既に21時を回っていた。
 何故そんな時間なのか。
 答えは簡単。
 クライアントがこの時間に来てほしいと依頼したからである。
 現場は長野県の山奥の村の更に村はずれ。
 確かに、洋風のペンションなどが途中で散見されてはいたが、クライアントの家はそれにもっと輪を掛けたものだ。
 はっきり言って、西洋の洋館風。
 幸い今の天気は晴れで、上空には東京では見られない美しい星空、そして月が煌々と輝いている。
 これで雷雨なんかあった日には、間違い無くホラーチックな佇まいであろう。
 そんな雰囲気を放っていた。
 大きな屋敷である。
 いかに地方の山奥とはいえど、こんなに大きな洋館を建てられるのだから、クライアントはよほどのセレブに違いない。
 これは高額な依頼料が期待できる。
 天候が悪ければホラーチックと言ってしまったが、正門の門扉やそこからエントランスに通じる中庭には煌々と明かりが灯り、そして館内にも照明が灯っているのが分かる。
 だから決して、廃屋ではないことが分かる。
 明らかに、クライアントは私を待ってくれている。
 そう確信した。
 正門から敷地内に入り、玄関へ向かう。
 クライアントが私の元に寄せて来た依頼内容は、とても不可解なものだった。
 長野県内にも探偵事務所はあろうに、それが悉く断ったが故に、ついに回り回って私の所に依頼が来たという次第だ。

「何者かに命を狙われている。それが何者なのかは分からない。どうか、私の命を狙っている者が誰なのかを突き止めてくれ」

 というもの。
 もしこれが本当だというのなら、もう私立探偵を通り越して警察の出番となるであろう。
 だがクライアントはその疑問を見越してか、

「警察は私が死体にならないと動いてくれない」

 と、言っていた。
 結構その通りかもしれないので、クライアントの気持ちは分かる。
 私も命の危険にさらされる恐れはあるが、しかし実はハードボイルド系の探偵に憧れている所があり、また、高額な依頼料も約束してくれるとのことだ。
 また、それにクライアントの被害妄想などで、実は犯人だと最初からいなかったという場合も考えられる。
 とにかく、私は他の探偵達が断る中、あえてこの仕事を受けてみることにした次第である。

 玄関前に到着し、私はベルを押した。
 しばらく経ってから、ドアが開けられた。
 出て来たのは歳の頃、60歳から70歳くらいと思しき老人。
 だが、クライアントである屋敷の主人ではなさそうだった。
 白髪頭のてっぺんは禿げ上がっており、まるで河童のようである。
 タキシードにネクタイを着けていることから、恐らく執事か何かであろう。
「……どちら様ですか?」
「あ、私、東京から参りました探偵の愛原と申します。クライアント様からこの時間に来るように依頼されて、伺ったのですが……」
 私が自己紹介していると、ふと何やら違和感を覚えた。
 この老執事らしき男から、血の匂いがしたのだ。
 よく見ると、黒いタキシードに、所々シミがついているうな気がする。
 黒いタキシードに赤黒い血がついても、乾いてしまえば、薄暗い屋敷内だ。
 パッと見、分かりはしないだろう。
 だが、私の探偵としての鼻は誤魔化せない。
 言葉に気をつけないと、私も酷い目に遭わされる恐れがある。
 どうもこの執事、クライアントから聞いていないのか、それとも聞いていて忘れているのか、何だか私を警戒するような目つきで見ている。
 何だか気まずい。
 ここは1つ、何か話しかけなければならない。
 私は言葉を選んだ。

(以下、愛原の妄想劇。
「こんにちは」
「今は夜じゃああああぁぁぁぁっ!!」
 男は上着のポケットからジャックナイフを取り出すと、いきなり私の心臓に突き立てた。
 何度も、何度も……私の心臓を抉り出すかのように……。
 咄嗟のことで成す術の無い私……。
 段々と私の意識は薄れていった……。 完)

 いかんいかん!
 狂った殺人犯に、揚げ足を取られる言葉は御法度だ!
 そ、それならば……。

(以下、愛原の妄想劇。
「河童くん、こんばんはw」
「怨嫉謗法はやめろォォォォォォッ!!」
 男は上着のポケットからジャックナイフを取り出すと、いきなり私の心臓に突き立てた。
 何度も、何度も……私の心臓を抉り出すかのように……。
 咄嗟のことで成す術の無い私……。
 段々と私の意識は薄れていった……。 完)

 だ、ダメだ。
 某サウンドノベルゲームのような展開しか思いつかん!
「どうかしましたか?」
 老執事が更に警戒するように私を見据えて来る。
 いい加減答えないと、やはり時間切れで私の命が危ない。
「ぱ、パンツはかせてください!!」
 咄嗟に言ってしまった。
 何故か、頭の中に浮かんでしまったのだ。
 こ、これもマズいのではないか……!?
「……ああ、確かご主人様が来客があるからと仰せでした。あなたがそうでしたか。これは失礼しました。どうぞ、中でご主人様がお待ちですので」
 男は私を屋敷内に招き入れた。
 さっきの私のセリフは大正解だったのか?
 それとも、華麗にスルーされてしまったのか?……家令なだけにw
 屋敷の外観はとても古い造りだったが、中も相当年季が入っている。
 それに拍車を掛けているのが、やはりアンティークな家具や調度品だ。

(以下、愛原の妄想劇。
「古い家具ですね」
「古くて悪かったなあぁぁぁぁッ!!」
 男は振り向き様、鬼のような形相になり、上着のポケットからジャックナイフを取り出すと【以下略】 完)

 だから!
 殺人鬼に常識的な声がけは、却って危険であるって!

(以下、愛原の妄想劇。
「壁に死体が塗り込められているんじゃないですか?」
「塗り込んで何が悪い!!」
 男は振り向き様、鬼のような形相になり、【以下略】 完)

 壁が一部新しくなっているので、ついそう思ったが、さすがにストレート過ぎるか。
 しょうがない。
 壁については、後で調べることにしよう。
 それにしてもこの男、必要なこと以外は喋るつもりが無いようだ。
 屋敷はとても広い。
 進んでいる間、無言はさすがに気まずい。
 何か、話し掛けないと……。
「あなたと一緒にスキーがしたいな」
「!」
 私が声を掛けると、男はビクッと体を震わせたが、何も答えずにスタスタと私の前を歩く。
 ……と、男の肩に糸くずがついているのが分かった。

(愛原の妄想劇。
 私は普通に糸くずを取ってやった。
「俺の糸くずを取るなァァァァァァァッ!!」
 男は振り向き様、鬼のような形相【以下略】 完)

 やはり、いくら何でも黙って取るのはダメか。
 それならば……。

(愛原の妄想劇。
 御本尊を巻いたもので取ってやった。
「御本尊はタダの物だァァァァァッ!幸福製造機だァァァァァァァァッ!!」
 男は振り向き様、【以下略】 完)

 いや、今さっき、仏間があって、そこに掛け軸が掛かっていたものだからね。
 しょうがない。
 私は後ろから抱きついたその瞬間に、サッと取ってやった。
「!!!」
 男はビックリした様子であったが、それでも平静を装い、スタスタと歩みを止めようとしない。
 ここまでしても平静を装うとは、やはりこの男、何か隠しているな。
 男はやっと屋敷の奥にあるドアの前で立ち止まった。
「どうぞ。こちらが、ご主人様のお部屋でございます」
 私は……。

(「ここまで加代わせてもらってありがとう」
「カヨって言うなぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 男は後ろから私の背中を心臓目掛けて突き刺した。何度も……何度も……【以下略】 完)

 ダメだな。

(「功徳の小噺は無いのかい?」
「俺の功徳を否定するなぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
 男は後ろから【以下略】 完)

 これもイマイチ。
「ありがとう」
 と言って、私は男の頬にキスをした。
「ううーん……」
 何故か男は泡を噴いて倒れてしまった。
 一体、何だと言うのだろう?
 はっ、まさか!?しまった!私は油断してしまった!
 クライアントたる屋敷の主人が命を狙われているということは、この屋敷の関係者のうち、誰かが犯人でもない限り、それ以外の人間もまた命を狙われているということだ!
 そして、必ずしも屋敷の主人が先に殺されるとは限らないことにどうして気づかなかったのか!?
 私は……私はぁぁぁぁぁぁッ!!orz

「あー、メイド長のガンコさん?執事君が倒れてしまったから、至急、医務室に運んであげて」
 フツーに無事の屋敷の主人。
「あと、何か頭のおかしいのが入り込んだみたいだから、大沢警備隊長とマイケル警備員に頼んでつまみ出して」

                                                       終
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“Gynoid Multitype Cindy” 「日本へ帰国。そして……」

2016-06-08 18:51:16 | アンドロイドマスターシリーズ
[5月26日15:20.天候:曇 千葉県成田市・成田空港]

 敷島達を乗せた飛行機はハイジャックに襲われることもなく、無事に成田空港に着陸することができた。
「社長、皆さん、お疲れさまです」
 到着ゲートに行くと、井辺が出迎えていた。
 それだけでなく、そこに巡音ルカもいた。
「ああ、出迎えありがとう。ルカも?」
「巡音さんは千葉でのイベントの打ち合わせがありましたので、その送迎も兼ねております」
 と、井辺が説明した。
「そうか。お前も頑張ってるな」
「はい!」
 ロングのストレートヘアーとはいえ、ピンク色の髪と、スリットの深いロングスカートということから、どうしてもマルチタイプをイメージしてしまう。
 だが、ルカは最初からボーカロイドとして製造された純正品である。
 左腕にペイントされた『03』(3号機)という数字が、それを表している。
「では、参りましょう。矢沢常務が色々と聞きたいことがあるとのことで……」
「たははは……。こりゃ、怒られそうだ」
 敷島は白髪に眼鏡を掛けたバイタリティ溢れる矢沢常務の顔を思い浮かべた。
「シンディ達は到着してるか?」
「はい。ご指示の通り、会議室の中に入れてあります」
「よっし」

 井辺が運転してきたミニバンに乗り込んで、事務所に向かう。
「デイライトさんの研究所に行かれたというだけでも危険なことでしょうに、ましてやアメリカ国内移動中の飛行機がハイジャックされたといったニュースが流れた時にはビックリしましたよ」
 井辺がハンドルを握りながら、後ろに座る敷島に言った。
「そりゃ驚くだろうさ。この時代にハイジャックだなんて、とんだ頓珍漢だよ。トンチンカッパの爺さんがリーダーで良かったよ」
「そう言う問題ではありません。社長の飛行機が墜落したなんてニュースが流れた時には、ボーカロイドが全員フリーズして仕事にならなかったものです」
「……マジ?俺のことは気にせず、仕事を続けてくれよ」
 と、敷島は隣に座るルカに言った。
「……そういうわけには行きません。特にミクなんか、収録中に大泣きしてたんですよ!」
 ルカが車内のモニターに、自分の右耳(ボーカロイドの耳はヘッドホンの耳のような形状をしている)からケーブルを接続した。
 ミクと一緒にテレビの収録をしていたルカは、その時のもようを記録していた。
 ミクが両膝をついて、わんわん泣いていた。
「後でミクにフォローしてあげてください」
「わ、分かった。分かったよ」
 アリスがルカとモニタに繋がったケーブルを外しながら、
「要はタカオ、もうタカオの存在は大きいってことよ。少なくとも敷島エージェンシーのボーカロイド、オーナー登録はタカオになってるんだからね。そこの所、忘れないように」
「わ、分かったよ」
 敷島は、ばつの悪そうな顔になった。
「あらっ?」
 ルカの右耳と繋がったケーブルを外すと、ヘッドホンの耳の形状をしたルカの耳がガタついているのに気づいた。
「ん?ちょっと固定悪くなってない?」
「……あ、はい」
「後で直しておくわ。他に体の具合の悪い所は?」
「ちょっと左腕の動きが……」
 ボーカロイドの整備はデイライト・ジャパンに委託していることになっているのだが、アリスが留守の間は疎かになっていたようだ。
 平賀が客員教授を務める大学の学生達が見学に来ることもあった。
「……油が切れてるわね。それでさっきから、ギィギィいってたのね」
「何か、ルカだけじゃなさそうだなぁ……」

 事務所に到着すると、早速、アリスと平賀はロイド達の再起動を行う。
 その間、敷島は矢沢常務から事情聴取を受けていた。
「社長に帰国の報告はいいのかい?」
「もう夕方ですから、明日改めて伺います。一応、伯父さんにはメールで伝えてあります」
「そうかね。とにかく、無事で何よりだった。キミの体はキミだけものではない。四季エンタープライズと同様、総合芸能企業“四季ホールディングス”の一子会社とはいえ、しかしその1社を任されているのだから、命は大切にしてくれ」
「分かりました」
「だがしかし、飛行機がハイジャックされたというだけでも命懸けなのに、操縦不能に陥った飛行機を操縦して見事不時着させるとは……」
「機体の外側はベッコベコになりましたけどね。さすがエアバスはボーイングより頑丈ですよ」
「いや、そういう問題じゃない。まあ、とにかく助かって何より。これでまた四季グループの株は上がったわけだ」
「株価は下落することもありますから、油断はしない方がいいですよ」
「まあな。とにかく、キミの無事を確認したことだし、私は本社に戻るからな」
「留守中、色々とありがとうございました」
 子会社の社長より、本社の常務の方が立場は上の四季エンタープライズである。
 もっとも、矢沢常務が役員の中で古参組というのもあるが。

[同日21:00.天候:晴 東京都江東区豊洲・敷島エージェンシー]

 アリスはシンディの再起動を行った。
 平賀はエミリーの再起動を行った。
 その後でリンとレンの再起動を行う。
 その間、敷島は心配を掛けたボーカロイド達と懇談する。
 特に泣きじゃくったというミクには、敷島も時間を取った。
 敷島が1番最初にプロデュースしたボーカロイドが、ミクだったというのもある。
「お前とは長い付き合いだったもんな」
「わたしは……たかお社長以外……(オーナーとして)考えられません」
「俺もミクを誰かに引き渡したりはしないよ」
 と、敷島は答えた。
「お前とはフィールドテストを行ってからの付き合い……」
 その時、敷島に何か違和感があった。
「たかおさん?どうかしましたか?」
 ミクが首を傾げて、敷島の顔を覗き込んだ。
「ミク。お前、最初からボーカロイドだったか!?」
「はい?」
 敷島は社長室を出て、会議室に向かった。
「あっ、敷島さん」
 ちょうど廊下で平賀と会った。
「ついでにボーロカイドも整備しています。何だか、整備をサボってた感じ……」
「あ、あの、平賀先生!」
「何ですか?」
「ミクって、最初からボーカロイドとしての設計でしたか?」
「な、何をいきなり!?」
「確か、ミクが歌を歌い出したのって偶然だった……はずですよね?」
「いや、歌も歌える設定でしたよ。それが結構上手く行って、ファンが付くようになったから、いっそのこと、アイドルとして売り出したら面白いんじゃないかってなったんじゃないですか。ここまで有名になれたのは、偏に敷島さんの商才ですよ」
「……私がフィールドテストやってた時、ミクは音楽すら知りませんでしたよ」
「そうでしたか。細かい点は南里先生が行っていたので、自分はよくは知りませんが」
「南里所長は、そもそもどうしてミクを製造したんですか?」
「あ、あの、敷島さん。一体何があったんですか?」
「アルバート常務の言葉が気になってました。たまたま彼はリンとレンを連れ去ろうとしていましたが、それがミクだったらミクを連れ出していただろうと……」
「そうですか。電気信号を歌に換えて歌うというアイディアは、マルチタイプからありましたからね。マルチタイプは結局歌を歌うことができず、楽器を弾くに留まりしたが」
 代わりにテーマ曲が定められ、ボーカロイドにはそれに歌詞を付けたものを歌わせている。
「……確かに、南里先生が設計したボーカロイド……MEIKO、KAITO、初音ミク、鏡音リン・レン、巡音ルカの全ての機能については、自分も分かりません」
「えっ?」
「ボーロカイドが有名になって、彼女らの派生機も造られるようになりましたが、実はミク達と根本的に違うものがあると自分は思います」
「やはり、そうですか」
「敷島さんだからこそ、彼女達を扱えるんですよ」
「……そうですか」
「自分は明日、仙台に帰ります。今日、泊まる所は……」
「ここでよろしかったら……」
「えっ?」
「この業界、業務の都合上、収録などが夜遅くまで掛かるということがあります。いざやっと帰れるって頃には、もう電車が無いということもあるんですよ。なもんで、新事務所になってから、仮眠室を設けました。今日は使用する社員がいないようなので、平賀先生が使っちゃってください」
「いいんですか?」
「シャワーもありますよ。うちの大事なボーカロイドの整備をして下さったんですから、どうぞどうぞ」
「では、お言葉に甘えて……。社員さん達が出勤してくる前には、出ようと思うので」
「ええ。どうも、今回はありがとうございました」
「いえ、こちらこそ。マルチタイプは何であるか、ということを考えさせてもらう良い機会になりました。研究者として、これは大きいです」

 鳥柴はエミリーとシンディ、そして鏡音リン・レンの再起動を確認した後、千葉に帰っていった。
 要は借り受けたロイド達を、無事に返納できたことを確認する義務があったからである。
 再起動に成功し、この時点で何の不具合も無いことを確認して、デイライトとしてはロイド達を敷島達に正式に返したということになる。
 敷島とアリスは最終の都営バスに乗って東京駅まで行き、そこから大宮まで帰ることにした。
 ボーカロイドのことで大きな謎が浮かんだが、それのことについては、また後日……。
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“Gynoid Multitype Cindy” 「機上の空論」

2016-06-08 15:52:49 | アンドロイドマスターシリーズ
[5月25日11:20.天候:晴 全日空173便777系300番台B777-300機内]

 ビジネスクラスに着席する敷島達。
「これだって、かなり広いじゃないか。十分だぞ?」
 と、敷島。
 搭乗時にファーストクラスの中を通ってやってきたので、それでも差はあるのが分かる。
 ではあるが、離陸前にやってみたのだが、ファーストクラス同様、シートをフルフラットにすることができた。
「おーい、アリス。聞いてるか?」
 敷島とアリスは中央の席に座った。
 エコノミークラス系が中央の席は4人掛けなのに対し、ファーストクラスとビジネスクラスは2人分である。
 それでも、隣に座るアリスに話し掛けるには、身を乗り出さなければならないほどだった。
「うるさいわね。いいから早くシートベルトしなさいよ」
 ファーストクラスの中を通ってきただけに、それがお預け状態になったアリスは御不満のようである。
「もっとボーカロイドが売れるようになったら、ファーストクラスで旅行させてやるよ」
 と、敷島。
 これで喜んでくれるかと思ったが、
「アタシがサンダーバード作って、自分で乗るわよ」
 と、返された。
「いや、だからさ、サンダーバードよりターミネーターの方が売れるって」
 敷島夫婦の会話に、通路を挟んで窓側に座る平賀は、
(奇しくも“ターミネーター”やるみたいだ……)
 と、機内映画のパンフレットを見てそう思った。

 こうして、飛行機は10分ほど遅れてヒューストンの空港を離陸した。
「やっと日本に帰れるぜ……」
 機外カメラの映像と、これからのフライトプランのお知らせがモニタに映し出される。
 それを見ながら呟くと、
「敷島さん、またハイジャックは勘弁ですよ?」
 と、平賀にからかわれた。
「私のせいじゃないですよ。ま、ヤング・ホーク団が壊滅したことだし、他のテロ組織が警戒してくれたみたいですけど?」
「ま、『不死身の敷島』さんと一緒なら、何が起きても大丈夫な気がします。『テロリストを泣かせる男』ですもんね」
「ヤング・ホーク団は誰1人泣いてませんでしたから」
 もっとも、あの墜落劇の最中、生き残れたことに対する大泣きはしていた。
 で、何故か敷島が『神の化身』『神の御使い』だとされて、拝まれた。
「ジャックの爺さんは、完全にボスの地位から失脚したっぽいですがね」
 敷島は皮肉るような笑みを浮かべた。

 12時台になって最初の食事が運ばれてくる。
 最初にスッチーCAが和食がいいか洋食がいいかを聞いて来る。
 メンバー全員が和食を希望した。
「アリス。お前だけ洋食頼むかと思ったが……」
 敷島が声を掛けると、
「アタシも日本食食べたい」
 とだけ答えた。
 アリスは手持ちのノートPCで、ロイド研究に関するレポを書いていたようだ。
 もちろん英文であるが、扱いを間違えると、マルチタイプが優秀なロイドなだけに、人間をナメることがあるという観察についてであったようだ。
 これは平賀も同様であり、今後の傾向と対策について学会(SGではない)で発表する予定とのこと。
 もっとも、前期型のシンディだって人間を見下す行動をしていたことがあるが、あれはウィルス感染による制御不能状態の為とされている。
 制御不能に陥った前期型シンディは、ついに製作者のドクター・ウィリーまでも惨殺してしまう。
 実際に起きた事件なだけに、対策は必要だった。
 実はエミリーとシンディを2機稼働させている理由は、どちらかが制御不能で暴走状態になった場合、止める役を必要とする為という理由もある。
 その為、2機同時に一括制御にはしていない。
 使役する人間をオーナーとユーザーに分散させているのも、人間側の悪意を阻止する為である。
 このように、日本では二重三重の対策は取っているのだが、研究者達からすれば、まだ不十分であるという。
「おっ、来た来た」
 エコノミークラス系だと機内食はトレーに乗せられて1度に運ばれるが、ビジネスクラスはちゃんとした食器で運ばれる。
 ファーストクラスだと、完全にコース料理になるようだ。
「久しぶりに和食食べたなぁ……」
 敷島はズズズと味噌汁を啜った。
「日本の航空会社で良かったわね」
 と、アリス。
「おっ、確かに」
 ヒューストン〜成田間を飛ぶ航空会社は、他にアメリカン航空もある。
「確かに行きのプレミアム・エコノミーより、ランクが上だな」
 敷島は久しぶりの和食を平らげた。
「シンディ達は先に到着するんでしたよね?」
 敷島は席を立って、トイレに行きがてら、平賀とは反対側の窓側席に座る鳥柴に聞いた。
「はい。ご希望通り、敷島エージェンシーさんの事務所宛で全て送りました」
 と、鳥柴。
「ありがとうございます」
 フェデックスの伝票を持っていたことから、往路と同じ会社に依頼したようである。
 それとも、デイライトが専属契約でもしているのだろうか。
 尚、ビジネスクラス・ファーストクラス用のトイレはウォッシュレットである。

 成田までは約14時間掛かる。
 この間、睡眠の時間があるわけだが、ビジネスクラスではファーストクラスと同様、座席をフラットにすることができる。
 アメニティとしてはブランケットやピローの貸し出しがある。
 他にも細かいものがあるのだが、それについては【webで確認!】。
 敷島はアイマスクに耳栓まで着けて仮眠モードに入ったのだが、ここで変な夢を見た。
 南里研究所時代に起きた事故のことである。
 マルチタイプの暴走というと、直近ではジャニスとルディ、その前では前期型のシンディが挙げられるが、エミリーは一切暴走しなかったのかというと、そうではない。
 緊急離脱用の超小型ジェットエンジンを開発した南里は、早速それをエミリーのブーツに取り付け、その実験を行っていた。
 当時、研究所の事務員兼ボーカロイド・プロデューサーだった敷島は、それを見学するに留まっていた。
 この時の季節は夏。
 その為、ゲリラ豪雨が発生しやすい季節であった。
 鉄腕アトムがそんな雷雨でも平気で飛行するシーンがあった為、エミリーが実際それが可能なのかの実験を行っていたところ、結果的には失敗した。
 落雷を受けたエミリーは、ボディの損傷自体はそれでも小さかったものの、内部のデータやプログラムがメチャクチャになってしまった。
 敷島を『寵愛されるべき存在』として、フランケンシュタインの怪物の如く追い回し、それは南里の停止命令をも無視するほどであった。
 当時、緊急停止装置はエミリーの体内にあったものの、落雷の衝撃で遠隔での操作が効かない状態になっていた。
 エミリーに組みつかれたら命が無いのは当時から知られていた。
 最終的には、平賀が仕掛けた高圧電流のトラップに追い込んでやっと停止させたほどだ。
 この時、メイドロイドの七海も参加していたが、エミリーを取り押さえる際、抵抗されて右腕を引きちぎられた。
 しかし夢の内容は逃げきれずに、エミリーに組み付かれてしまうというもの。
「わあーっ!」
 慌てて飛び起きる敷島。
「お客様、どうなさいました!?」
 CAが急いでやってくる。
「……あ、いや、何でもないです」
「大丈夫ですか」
 通路を挟んだ隣にいる平賀は、
「敷島さんが見る悪い夢というのは、アリスに直接マシンガンで蜂の巣にされるという内容ですか?」
 と、聞いた。
「い、いや!……暴走したエミリーに組み付かれる夢です」
「それは怖いですね。昔の、あの事件のヤツですか?」
「はい」
 それ以来、ロイド達には『落雷の恐怖』という感情をインストールさせた。
 雷注意報が発令された場合には空を飛ばない。
 警報発令の際は、なるべく屋内に待避するというもの。
「ちょっと、トイレ行ってきます」
 敷島はトイレに向かった。
(シンディの銃口を直接掴める男、かつてはマルチタイプに殺されかけた経験があるってか……)
 エミリーが敷島のユーザー登録が解除になっても尚、敷島の命令を聞こうとするのは、そういった負い目を感じているからとされている。

(ボツネタでは、まだ敷島達と敵対していた頃のアリスがエミリーを暴走させて敷島達を襲わせるシーンもあった)
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“Gynoid Multitype Cindy” 「最後のヒューストン」

2016-06-07 21:18:38 | アンドロイドマスターシリーズ
[5月25日08:00.天候:晴 アメリカ合衆国テキサス州ヒューストン市・市街地のホテル]

 ダブルルームで寝泊まりする敷島夫妻。
 枕元のアラームが鳴る。
「うー……」
 敷島は手を伸ばしてアラームを止めようとしたが、何故だか障害物がある。
「……?」
 寝ぼけ眼で見ると、アリスの足がそこにあった。
「いつものことだが、何つー寝相の悪さだ。全く!」
 敷島はアメリカ人妻の足をどかして、アラームを止めた。
「おい、アリス、起きろ。時間だぞ」
「うーん……あと5分……」
「それを1時間以上繰り返す余裕は無いぞ!」
 アリスの寝相の悪さは今に始まったことではなく、ドクター・ウィリーの『復讐者』として敷島達の前に現れた時から、それは露呈していた。
 どうもロボット科学者としての最後の夢は、テレビドラマ“サンダーバード”に出てくるサンダーバード機を作ることらしい。
 で、その試運転をしている夢である為、寝相が悪くなるのだと言い訳していた。
(デイライトさんとしては、“サンダーバード”より“ターミネーター”を作る方に腐心していると思うんだが……)
 もっとも、ジャニスとルディで懲りただろうから、ターミネーターは日本に任せるつもりかもしれない。

 何とかアリスを起こし、レストランに向かう敷島夫妻。
「サンダーバード〜♪あおくひかる、ひっろーい……♪」
 エレベーター内で口ずさむアリス。
「何でお前、日本語版知ってんだよ?てか、それ相当昔のテーマソング……」
 敷島は呆れた。
 レストランに到着すると、既に平賀と鳥柴が朝食を取っていた。
「おはようございます」
「おはようございます」
 敷島達の姿を見つけると、平賀と鳥柴が挨拶してきた。
 敷島もすぐに返すが、
「何だか怪しいわねぇ……」
 と、アリスは平賀と鳥柴を距離を怪しんだ。
「何の話だ!?」
「帰国後、ドクター奈津子が爆発するような事態にはならないでしょうね?」
「大丈夫です。そのような事実は一切ありません。今回は偶然です」
 鳥柴がやんわりと否定した。
「そうだよ、アリス。昨日までボカロの梱包で忙しかったじゃないか」
「ヤング・ホーク団での爆弾発言については、日本に帰ってから説教だからね」
「いや、だから、あれは言葉のアヤで……」
(敷島さん達が乗った飛行機をハイジャックした時点で、テロリスト達の運命は決まっていたわけか……)
 平賀はズズズとコーヒーを啜りながら、敷島夫妻のやり取りを見て確信した。
「それより、早く注文を」
 ウェイターが敷島夫妻の着席を待っていた。
「おっ、そうだった。ジャパニーズ・スタイル(和食)は……無いよね。じゃ、アメリカン・ブレックファーストで」
「アタシも」
 ウェイターに注文を告げると、ウェイターはにこやかな顔で立ち去った。
「まあ敷島さん、これが最後のアメリカンブレックファーストですよ」
「だといいんですけどねぇ……」
「ビジネスクラスの機内食だと、和食も選べますよ」
「本当ですか。じゃあ、そうしようかなぁ。それにしても井辺君、エコノミークラスでアメリカに行ったって言うから凄いよなぁ……。あれだと、腰が痛くなってしょうがない」
「ミスター井辺は体も大きいから、尚更でしょうね」
 と、アリス。
 尚、帰国時においては、KR団に協力した礼としてプレミアム・エコノミーに乗せてもらったらしいが。
 そのプレミアム・エコノミーのシートピッチは、JR東日本・中距離電車の2階建てグリーン車と同じであるというから、それでも広いとは言えない。
 何しろ、東海道・山陽新幹線の普通車にも及ばないのだ。
「……だな。ボカロがもっと海外でも売れるようになって、海外出張が増えたりしたら、考えなくてはならないな」
 と、敷島。
 実は巡音ルカなど、海外レコーディングに赴いたことがある。
 その時は普通に、飛行機の荷物室に乗せた。
 これはボカロは銃火器を装備しておらず、シャットダウンして梱包するだけで輸送可能だったからだ。
 Pepperを飛行機で輸送するようなものである。
 但し、銃火器が標準装備のマルチタイプともなると、そうはいかない。
 出入国手続きでさえ、かなり猥雑なのである。
 これはやはり、過去にエミリーやシンディが密輸同然で入国してしまったことが大きい。
 警視庁の鷲田警視などがそれを重く見て、入管関係機関に働きかけたとされている。
 昨日、鷲田警視に帰国の予告をしたのだが、
「あ?あんな物騒なロボットども、アメリカに置いて来いよ」
 と、冷たくあしらわれた。
 敷島が、
「うちのエミリーやシンディは役に立ってるでしょう?特にシンディなんか、前に銀行強盗捕まえたじゃないですか!」
 と、言い返した。
「まだ全て信用したわけではない。そこまで言うのなら再度の入国は認めてやるが、もし人間に迷惑を掛けるようなことがあったら、スクラップだぞ?」
 と、言われた。
 尚、偉そうに『入国を認めてやる』なんて言っていたが、鷲田警視に直接の権限は無い。
 それでも一応、日本の警察からはOKが出たということで。
 さすがにジャニスやルディが人間を見下すような行動を繰り返していたことが、大きなマイナスポイントであったようだ。
「分かった、分かりました」
 敷島は辟易して、鷲田警視との電話を切った。
 ジャニスとルディのせいで、奇しくもKR団の主張がある程度正しかったことが露呈してしまった為に、敷島達の立場も弱くなってしまった感はある。

[同日10:20.天候:晴 ヒューストン市内ジョージ・ブッシュ・インターコンチネンタル空港]

 退院したクエントのキャデラックで、ホテルから空港まで送られる。
「ありがとう。クエント」
「何ノソノ、コレシキデス」
「ヘリでの特攻、カッコ良かったよ。おかげでジャニスを倒すことができた」
「カミカゼ・トッコータイノ気持チデス」
 アリスと平賀により、頭部と胴体を切り離されたジャニスは、2度と襲って来ることは無かった。
 今現在、首と胴体を切り離しても元気に稼働できるのは、鏡音レンだけである。
 彼はミュージカルに出た関係で、そのように改造された。
 本来ならミュージカルが終わった時点で元に戻さなくてはならなかったのだが、当時はドクター・ウィリーからの攻撃が凄まじく、前期型のシンディがちょくちょく攻撃を仕掛けてきたこともあって、そのヒマが無かった。
 で、結局今に至っている。
「俺もバスで特攻したからな、そうかもしれん。日本に来る機会があったら、教えてくれ。秋葉原に連れてってやるぞ」
「ソレハ楽シミデス」
(何故、秋葉原?)
 平賀と鳥柴が変な顔をした。
(そう言えば、アタシと初めて東京に行った時も秋葉原に連れて行かれたような……)
 敷島に取って、外国人旅行者の案内先は秋葉原と決まっているようである。
「それより、そろそろ搭乗手続きをしませんと」
 と、平賀。
「おっ、それもそうですな」
 敷島達はクエントと握手を交わすと、ターミナルの奥へと進んだ。
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“Gynoid Multitype Cindy” 「つづきから」

2016-06-06 19:23:09 | アンドロイドマスターシリーズ
[5月22日11:00.天候:晴 東京都江東区豊洲・敷島エージェンシー 井辺翔太]

「えー、社長の安否につきましては大至急、確認しているところでございます。……はい」
 敷島夫妻が乗った飛行機がハイジャックされただけでもニュースなのに、墜落したとあっては、マスコミが駆け付けないわけが無かった。
 井辺を始め、手の空いている社員達はマスコミを含む関係各所への対応に追われていた。
「……ええ。今、孝夫社長の社員達が総出で対応に当たっていますがね、できれば、本社よりもう少し応援を頂きたいと……」
 事務室で井辺が場立ちのような対応をしているのを見ながら、矢沢常務が別の電話をしていた。
 矢沢常務は敷島エージェンシーの親会社である四季エンタープライズの役員で、敷島がアメリカに行っている間、社長代行として派遣されていた。
 今は敷島の伯父に当たる親会社の社長に、現況を報告している。
{「分かった。できる限りの応援をしよう」}
「ありがとうございます。こちらとしましても、精一杯の対応を致します」
{「ああ。そちらも大変だろうが、よろしく頼むよ」}
「はい。失礼します」
 矢沢常務は、敷島の代わりに詰めている社長室の電話を切った。
「失礼します、常務!」
 井辺が社長室に入って来る。
「常務、記者会見についてですが……」
「ああ。そこは本社の方で、何とかしてくれるらしい。それまでもう少し、時間を引き延ばしてもらってくれ」
「分かりました。……あの、敷島社長……四季エンタープライズの敷島社長も、とても御心配なさっておられるでしょうか?」
「そりゃ甥っ子のことだからね、心配はされているだろうさ。ただ……かなり落ち着かれてはいる」
「えっ?」
「もしかすると、甥っ子の生存をどこかで強く信じているのかもしれん」
「ですが、飛行機は墜落してしまったと……」
「カリブ海の無人島に不時着したという情報もあるから、墜落がどの程度のものなのかにもよるね」
 と、そこへ、
「た、大変です!」
 MEIKOが飛び込んできた。
「MEIKOさん!?」
「しゃ、社長が……!」
「!!!」

 井辺と矢沢は応接室に飛び込んだ。
 そこのテレビでは、

〔「いやー、視界が悪い中、いきなり無人島の岸壁が目の前に現れた時には死ぬかと思いましたよー。はっはっはー!」〕

 元気にマスコミのインタビューを受ける敷島の姿があった!
「しゃ、社長!?」
「……『敷島一族は殺しても死なん』と、前に社長が言っていたが……どうやら本当のようだな」
 古参ではあるが、敷島一族ではない矢沢常務は、経営者一族の生命力の高さに呆れ果てたという。

[5月23日13:00.天候:晴 アメリカ合衆国テキサス州ヒューストン市]

 ヒューストンの空港に降り立った敷島達を、平賀達が出迎えた。
「いや、さすが敷島さんですね。飛行機墜落の中、生き延びるとは……」
 平賀もまた嬉しさを飛び越えて呆れるほどだった。
 長い付き合いである為、彼もまた、心のどこかで生存を信じていた1人ではあったが、まさか本当に生き延びるとはと……。
「アリス博士、社長、よく御無事で……」
 シンディの目には涙が浮かんでいた。
「シンディ、ゴメンね。心配掛けちゃって」
「リン達も心配したんだYo!」
「生きてて良かったです」
 双子のボカロ姉弟も嬉し泣きだった。
「ああ。お前達を遺して逝けるか」
 敷島はリンとレンの頭を撫でながら答えた。
「敷島社長の・生存率が・98.24%・という数字が・出ていましたので・私は・確信して・おりました」
 エミリーが1番落ち着いていた。
「はははは!さすがエミリーだな。そんなに高かったか」
「姉さんだって、社長生存の一報が来た時、少し泣いてたじゃない!」
「頭部の・冷却水・オーバーフロー・だ」
「はいはい、照れ屋さん」
「シンディこそ・敷島社長達が・安否不明となった時・1番泣いていた」
「そ、そりゃ、悲しいに決まってるじゃないのよ!」
「そうか。俺達の為に、泣いてくれたか。お前も変わったな」
 敷島はシンディの頭をクシャクシャに撫でてやった。
「御無事で何よりです。まずは工場に向かいましょう」
 鳥柴も笑顔で言った。
「帰国の準備もできていますので、再びシンディさん達を梱包して、先に日本に送る必要があります」
「それもそうですね」

 空港ターミナルを出ると、キースが出迎えてくれた。
 キースもまた敷島達の生存を喜んでいた。
 自慢のベンツVクラス(キースのマイカーではないらしい)に乗り込むと、一路、工場を目指す。
「会社も相当心配しているだろうから、なるべく早く帰国したいな」
「ええ。そうですね」
 敷島の言葉に、平賀も大きく頷いた。
「帰国してから、またロイド達を再起動させる必要があるから大変ですね」
「鳥柴さん、日本に着いたら、また成田営業所に行って再起動の準備を?」
「はい。ただ、ヒューストンの空港から成田までですと、どうしても夕方近くの到着になってしまいます。ホテルをお取りしますので、長旅のお疲れを癒してから作業に入られても構いませんよ」
「いや、その心配は要りません」
「えっ?」
「さっきうちの井辺君……社員に電話したら、成田空港まで迎えに来てくれるので、私は帰国したその足で会社に寄る必要がありそうです。アリスはデイライトの社員ですから……」
「ちょっと待って、タカオ!」
 アリスが咎めるように指摘する。
「リンとレンを置いて行っちゃダメよ。ちゃんと連れて帰りなさい」
「リンとレンは2人でも行動できるぞ。現に、行く時、2人だけで成田駅まで来れたじゃないか」
「そういう問題じゃないって」
「?」
「リンとレンはあなたの会社の『商品』でしょ?ちゃんと面倒見なさい」
「……すっかり忘れてた。やっぱり、迎えには来てもらった方がいいな。ていうか、アレだ。いっそのこと、再起動作業、俺んとこの会社でやればいいんじゃないか?再起動した後はそこに置いとけるだろ」
「いいの?」
「鳥柴さん、うちの事務所を貸しますから、そこでいいですか?」
「あ、はい。敷島社長がよろしければ……」
「よし。そうしよう。平賀先生も」
「いいんですか。じゃあ、エミリーの再起動だけさせてください」
「そうと決まれば、井辺君に連絡だ」
 敷島はスマホを取り出すと、それで井辺に連絡した。

 因みに敷島の活躍で、飛行機はカリブ海の無人島に不時着。
 墜落というのはマスコミの誇大表現で、機体は損傷したものの、客室内は無事であった。
 その為、乗客達とヤング・ホーク団の多くがケガで済み、死者は1人も出なかったという。
 但し、当然ながらヤング・ホーク団は全員が治安当局に拘束され、連行されていった。
「怨嫉謗法はやめなさい!私に悪意の手を触れると、神罰が下りますよ!」
 とか何とか言ってた団長のジャック・シュラ・カッパーだったが、拘束されたからには【お察しください】。
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