報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「魔王城新年会」

2019-01-09 18:56:41 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月1日16:30.天候:晴 東京都江東区森下 ワンスターホテル]

 藤谷:「えーと……ここか?」
 稲生:「そうです!」

 稲生は車を降りた。

 稲生:「送ってくれてありがとうございました」
 藤谷:「おう。マリアさんとイリーナ先生によろしくな」
 稲生:「はい」
 藤谷:「支部総登山、2月にあるからな。なるべく参加してくれよ?」
 稲生:「はい、班長。前向きに検討します」
 藤谷:「じゃあな」

 藤谷のシルバーのベンツGクラスは、持ち前の排気量を駆使して稲生の元を走り去った。

 稲生:「さて……と」

 稲生はホテルの中に入った。

 稲生:「こんにちはー」
 オーナー:「これはこれは稲生さん、いらっしゃいませ」
 稲生:「マリアさんは来ていますか?」
 オーナー:「はい。先ほどそこのロビーにいたのですが、恐らくお手洗いに……」

 と、奥からマリアが出て来た。

 マリア:「勇太」
 稲生:「マリアさん、お待たせしました」
 マリア:「あとは師匠だけか……」
 稲生:「えっ?先生、先に行ってらっしゃるんじゃ?」
 マリア:「まだなんだ、それが」
 稲生:「意外ですね」
 マリア:「魔王城の新年会開始まで、もう少しあるけどさ。それとも先に行く?」
 稲生:「いえいえ、そこは師弟の節目というものが……。日蓮正宗でもそこは厳しく指導されて……」
 マリア:「ダンテ一門だって、ここでは」
 稲生:「ま、ちょっと一息させてください」
 マリア:「ああ」

 稲生もトイレに行った後、自販機コーナーでジュースを買い、ソファに座って待つことにした。

 マリア:「クリスチャン共は寺に来たのか?」
 稲生:「来ましたよ。嫌な予感が的中しましたね。マリアさんには、ここにいてもらって良かったですよ」
 マリア:「うん。それにしても、破門団体から嫌がらせされたり、クリスチャンから嫌がらせされたり、忙しい宗派だな」
 稲生:「広宣流布の道は長くて険しいということですよ」

 と、そこへエントランスの前に1台の黒塗りの高級車が停車した。
 どうも、ロールスロイスっぽい。

 稲生:「誰か来たみたいですよ。アナスタシア組かな?」
 マリア:「いや、アナスタシア組は基本、日本では日本車しか乗らないはずだから……」
 稲生:「そういう拘りが!?」
 マリア:「あいつらが1番、日本かぶれになってるんだよ」
 稲生:「ということは、誰でしょうねぇ?」

 ヤクザA:「ど、どうぞ。先生」
 イリーナ:「ありがとさん」

 何故かケガをしている暴力団員と思しき男達が、恭しくイリーナを車から降ろした。

 イリーナ:「いい?このことは全て忘れるのよ?さもないと、あなた達の組長さんに……」
 ヤクザA:「へ、へい!もちろんです!」
 ヤクザB:「絶対に口外致しません!」
 ヤクザC:「ですからどうか、お許しを!」
 イリーナ:「よろしい。じゃあね」

 イリーナは颯爽とホテルの中に入った。

 イリーナ:「ハーイ、お待たせー」
 稲生:「先生!?何ですか、今の!?」

 逃げるように急発進で立ち去って行くロールスロイス。
 よく見たら、車もあちこち傷だらけである。

 イリーナ:「ま、ちょっと色々ね。ロシアンマフィアの怖さをレクチャーしてあげただけよ」
 マリア:「騒ぎは程々にしてくださいよ」

 アナスタシア組を『ロシアンマフィア』と揶揄するイリーナであるが、本人自身もまたロシアの裏社会とパイプがあるようである。

 イリーナ:「それじゃ、魔王城へ行きましょう。私達が最後になるかしら?」
 マリア:「いつも私達が最後ですよ」
 オーナー:「地下階へは行けるようにしてありますので」
 イリーナ:「ありがとう」

 稲生達は小さなエレベーターで地下階へと下りて行った。

[同日17:00.天候:晴 魔界王国アルカディア 王都アルカディアシティ 魔王城]

 稲生:「魔王城も久しぶりだなー」
 イリーナ:「あまりウロウロしてはダメよ」
 稲生:「はーい」

 大ホールを通過する稲生達。
 かつてこの大ホールで、『魔王城決戦』が行われた。
 即ち、新政府軍と旧政府軍の戦争である。
 女王ルーシー・ブラッドプール1世を現魔王として担ぎ上げる新政府側(魔界共和党)と、前魔王バァル大帝にあくまで付く者達(旧・魔王軍閥)との最後の戦闘がここで行われた。

 稲生:「あの時の大時計もまだある」

 高さ30メートルの大時計。
 その振り子はとても大きく、コーンコーンという規則正しい振り子の音がホール内に響いている。

 イリーナ:「稲生君を地獄界から連れ戻すのに凄い苦労して、1度は失敗して、マリアったら大泣きしたもんね」
 マリア:「そ、そりゃ泣きの1つでも入りますよォ……」

 魔王城の中では明るい大ホール。
 しかしそこを抜けると、また薄暗い廊下が続く。
 いかにも、勇者一行が通れば高いエンカウント率を誇りそうな廊下である。
 だが、首相・安倍春明主催の宮中新年会に正式に招かれているイリーナ達を襲おうとする魔族達は誰1人としていない。
 衛兵として雇われているモンスター達も、イリーナ達には敬礼をくれるだけだ。
 その安倍も、かつてはこの魔王城を目指す魔王討伐隊の勇者の1人であった。
 そんな彼は非公式であるが、日本の内閣総理大臣の遠い親戚に当たるらしい。

 稲生:「うっ……!」

 控え室に向かう稲生達の所に、ある人物が現れた。

 横田:「クフフフフフ……。イリーナ組の皆さん、明けましておめでとうございます」
 イリーナ:「おめでとさん」
 横田:「クフフフフ……。今年もよろしくお願いしますよ。先生方の控え室は、あちらになります」
 イリーナ:「分かってるわ」
 横田:「そうそう、稲生さん」
 稲生:「な、何だ?」
 横田:「うちの顕正会員がとんだ御迷惑をお掛けしましたねぇ。彼らはすぐに除名処分にしましたからね。どうか、それで穏便に……」
 稲生:「それってつまり、あの事件を顕正会内部で『無かったこと』にしたいだけだろ!?」
 横田:「おやおや……」
 稲生:「会員を尻尾切りにしただけじゃないか!」
 横田:「クフフフフフフ……。何を勘違いされておられるか分かりませんが、あれは一部会員の単なる暴走です。それに団体組織として処分しただけのこと。何も問題は無いはずですが?クフフフフフ……」
 稲生:「ま、待てっ!」
 イリーナ:「稲生君」
 稲生:「先生!」
 イリーナ:「ここではあなたは、ダンテ一門イリーナ組の見習弟子よ?日蓮正宗法華講信徒としての顔は忘れてちょうだい」 
 稲生:「……!」
 イリーナ:「横田理事も、ここでは顕正会の理事ではなく、魔界共和党の理事としているんだから」
 マリア:「スケベオヤジである点に、変わりはありませんがね」

 マリアは吐き捨てるように言った。
 マリアに言わせると、ずっと横田はイリーナの豊かな胸や尻にエロい目を向けていたというが、当のイリーナ本人は気にしていなかった。
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“大魔道師の弟子” 「新年早々」 2

2019-01-09 10:13:23 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月1日14:00.天候:晴 東京都豊島区某所 日蓮正宗正証寺]

 藤谷:「はーい!元旦勤行に参加の方はこちらー!」

 ワイワイガヤガヤ、ワイワイガヤガヤ……。

 藤谷:「えー、このタイミングで御受誡、御勧誡を受けられる方はこちら」

 シーン……。

 藤谷:「ま、これが現実だ……」
 稲生:「班長!」
 藤谷:「うおっ!」
 稲生:「またこのネタですか」
 藤谷:「ほんと、作者も好きだねぇ。ま、法道院さんだったらガチで正月から御受誡、御勧誡はあるらしいけどな」
 稲生:「あそこは大規模ですから。うちみたいな小規模な所は……」
 藤谷:「まあな。……あ、そうそう。明けましておめでとう」
 稲生:「おめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
 藤谷:「こちらこそ。さ、早く中へ」

 境内に入ると、まだ規制線が張ってあった。

 稲生:(エレーナのヤツ、あそこでイオラを唱えたのか……)

 やむにやまれぬ事情があったとはいえ、イオラは少し強かったのではないかと稲生は思った。
 尚、ちゃんと鈴木はエレーナに契約通りの額を支払ったとのこと。

 藤谷:「あの魔女っ娘、『御本尊よりアタシとの契約の方が確実に願い事が叶えられて功徳〜〜〜〜〜〜!!』なんて言ってたけども……」
 稲生:「ま、ウソは言ってませんね。その代わり、契約者から金をふんだくるので、その分、罰も大きいですよ」
 藤谷:「これがホントの『魔の通力』ってか」
 稲生:「あ、班長、上手い!」

 稲生は集会室から座布団を1枚持って来た。

 藤谷:「こらこら。御本尊様の御前で座布団を使用するべからず」
 稲生:「分かってますよぉ……」
 藤谷:「俺は正座椅子だ。これは使っていい」
 稲生:「そんなに足が?」
 藤谷:「俺もトシかね」
 稲生:「イリーナ先生は正座なさっても、意外と大丈夫でしたね」
 藤谷:「ほお……。じゃあ、歳以外に原因があるのかな?」
 稲生:「どうでしょうねぇ……。(体型じゃないかなぁ……)」

 こうして2人は午後は行われた元旦勤行に参加した。

[同日15:30.天候:晴 正証寺境内]

 御住職:「稲生さんが来てから、このお寺では不思議なことばかり起こるようになったような気がします」
 稲生:「ぐ、偶然じゃないですかね。アハハハハ……」
 藤谷:「稲生君の縁で御受誡した者もそれなりにいますから、きっとそれは魔の揺さぶりですよ」
 御住職:「ですかねぇ」
 藤谷:「俺も彼も今年1年、魔に負けないように頑張りますから。な?」
 稲生:「そ、そうですよ」
 御住職:「それは頼もしい限りです」

 と、その時、外から街宣車の音がした。

〔「こちらは敬虔なるイエス・キリストの教団、聖ジャンジョン教会である。陰険なる魔女共に告ぐ。直ちに神への抵抗を止め、その汚らわしき魂を……」〕

 御住職:「昨年からあの邪教徒達は何を言ってるんですか?」
 稲生:「創価学会や顕正会ならよくあることだけど、まさかこっちはキリスト教に目を付けられるとは……」
 藤谷:「ったく、うるせぇヤツらだな!」

〔「……神は全てを御照覧あそばされている。邪な力を用い、この町に災厄を齎そうとしていることも全て把握している。我々は神の命により、その邪悪な野望を打ち砕くべく……」〕

 稲生:「本当だ!邪教を信仰するとこうなるんだな!」
 藤谷:「その通りだ!こっちはエレーナが魔法使ったくらいしかしてねーぞ!この邪教どもが!」
 稲生:「そうそう!……って、いやいやいや!それですよ、原因!え?なに!?もしかして、魔法使うところ、あいつらに見られた!?」
 藤谷:「いや、その時奴らはいなかったと思うが……」

 ザシャアァァァァァ〜ッ!(妙観講員達が教会の街宣車を取り囲む)

 稲生:「おおっ!ちょうどいいタイミングで妙観講の人達が!」
 藤谷:「ありがたい!あとは彼らにお任せしよう!」

 ↑他力本願な時点で、正証寺の今年の誓願達成率が【お察しください】。

 キリスト教徒A:「魔女だよ!魔女がこの寺にいるんだよ!」
 妙観講員A:「さっきからワケの分からんこと言ってるんじゃない!」

 稲生:「良かったぁ……、マリアさん連れて来なくて」
 藤谷:「そうだな。取りあえず、俺達も退散するとしよう。裏門から駐車場に行ける」
 稲生:「はい」

 キリスト教徒B:「魔女を匿うつもりか!神に仇なす者共め!」
 妙観講員B:「当たり前だ!いもしない神や魔女に踊らされる邪教徒共が!」

[同日15:45.天候:晴 東京都豊島区某所 首都高速内]

 稲生:「ふ〜、危なかったぁ……」
 藤谷:「あとはマリアさんをピックアップするだけだな」
 稲生:「はい、お願いします」
 藤谷:「どこにいるんだ?」
 稲生:「森下のワンスターホテルです」
 藤谷:「なるほど。『魔女の巣窟』だな。奴らに言わせればな」
 稲生:「ま、そういうことになりますかね」
 藤谷:「別に魔法を使うだけで、キリストをバカにするわけでもないだろうに、何であいつらはキレるんだ?」
 稲生:「分かりませんねぇ……」
 藤谷:「火病か?あの教団、朝鮮系だしな」
 稲生:「特殊な力を使えるのは神のみであり、神でもないのに特殊な力を使いやがって怪しからんということですかね」
 藤谷:「大きなお世話だっつーの」
 稲生:「多分、僕達からしてみれば、大聖人様でもないのに火球を飛ばして来てみたり、暴風雨を起こして船団を2回も潰したという奇跡を起こすようなものでしょう。因みにイリーナ先生のお力でしたら、どちらも可能です」
 藤谷:「……今度、ロト7の予知もお願いしようかな?」
 稲生:「大聖人様と似た力を持った人に、そんなことお願いするんですか?報酬は半分ですよ?」
 藤谷:「う、うん、そうだな。……ご、御供養だよ、御供養」
 稲生:「これから競馬で稼ぐお金も、ちゃんと宗門に御供養するんですよ?」
 藤谷:「ば、バクチで稼いだ汚い金を御供養するのは大聖人様に対する御不敬……」
 稲生:「何言ってるんですか!」

 変な所でケチる藤谷であった。
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“大魔道師の弟子” 「新年早々」

2019-01-07 18:48:38 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月1日06:30.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 稲生家]

 稲生勇太:「南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経……」

 初日の出に御題目を唱える稲生。

 イリーナ:「昇ったねぇ……」
 マリア:「ただの日の出ですよね?」

 マリアは大きな欠伸をして言った。

 イリーナ:「日本人にとって、初日の出はおめでたいんだよ」
 マリア:「師匠は何回目の初日の出ですか?」
 イリーナ:「えーと、1000……ま、そんなことどうでもいいじゃないか。少なくとも、日蓮上人よりは年上さね」
 勇太:「初日の出も見れたことだし、朝食にしましょうか」
 イリーナ:「うん、そうしよう。マリアの人形達が作ったお節料理、早速頂こうじゃないか」
 勇太:「お雑煮も作ってましたね」

 家の中に入るダンテ一門イリーナ組の面々。

 勇太:「マリアさんは料理をしないんですか?」
 マリア:「Huh?なに?私の作ったの食べたいの?」
 イリーナ:「勇太君、魔道師に料理を作らせてはダメだよ」
 勇太:「え?どうしてですか?」
 イリーナ:「えーと……昔からそう決まってるんだよ」
 マリア:「初めて聞きましたよ、私?」
 勇太:「それに、ポーリン組を卒業したキャサリンさんは魔法料理レストランのオーナーシェフじゃないですか」

 表向きは創作料理ということになっており、『洋風の薬膳』とか『薬膳洋食』といった口コミで通っている。

 イリーナ:「いや、ま、そうなんだけどね。ほら、うちはあくまでオーソドックスな魔法を究める方針だからさ。マリアは最近、サイキック的な魔法を身につけつつあるみたいだから、その力を伸ばすことに専念しなさい」
 勇太:「あ、そういえば何だか最近、エスパーみたいなことができるようになったらしいですね。テレポートは前々からでしたが、テレキネシスとかテレパシーとか」
 マリア:「それと料理は別だと思います。勇太のリクエストを前向きに検討したいと思います」
 イリーナ:「あたしゃ知らないよ」
 勇太:「え、先生?」
 イリーナ:「さーて、お節料理頂こうかね。稲生ファミリーでは、お雑煮にお餅は入れない方針なんだって?」
 勇太:「あ、はい。親戚の中に、その餅で喉を詰まらせて臨終を迎えた者がいまして、それ以来、稲生家ではお雑煮に餅は入れないことが家訓になりまして……」

 ※作者の実家における実話です。

 イリーナ:「なるほど」
 勇太:「僕がバリバリの顕正会員の時でした。顕正会本部会館の元旦勤行に行く気満々だったんですが、行く直前に仙台の大叔父さんがそれで亡くなったとの電話がありました」
 イリーナ:「なるほど。それで急きょ、仙台支部……だっけ?そっちの方で勤行をしたわけか」
 勇太:「仙台会館ですね。でも、違います」
 イリーナ:「違う?」
 勇太:「『これも魔のしわざだ!』ということで、僕は威吹を連れて無理やり本部会館に行ったんですよ」
 稲生宗一郎:「あの時は本気の親子ゲンカでしたよ。勘当させる一歩手前で」
 勇太:「これで僕も顕正会で体験発表できると思ったものです。『両親からの大怨嫉で勘当されてこそ一人前の顕正会員』みたいな所がありましたからね」
 イリーナ:「あちゃー。で、今のお寺はどうだい?」
 勇太:「親孝行も仏法のうちですから、それはタブーですよ。少なくとも勘当されるような信仰姿勢は、却って罪障を積むだけだと御住職様に言われました」
 イリーナ:「うん、そうだねぇ」
 宗一郎:「先生、それよりお節料理を」
 イリーナ:「おや、そうですわね。不肖の弟子の人形が作ったものですけど、味は保証しますわ。どうぞ召し上がれ」

 稲生家の面々、お節料理やお雑煮に箸を付ける。

 勇太:「美味い!」
 宗一郎:「素晴らしい味付けですな!」
 佳子:「まるで料亭か旅館で出されたみたいですね」
 イリーナ:「お気に召して頂けて良かったですわ」
 宗一郎:「そう言えば昔は、年末年始を温泉旅館に泊まって過ごしたことがあったな」
 佳子:「あなたの会社の保養所?」
 宗一郎:「その手をまた使ってみるか。もちろん、先生方も御一緒に」
 イリーナ:「楽しみですわね」

 勇太はピッとテレビのスイッチを入れた。

〔「……東京都豊島区××の寺院で、車が境内に突入するという事件がありました。事件があったのは東京都豊島区××にあります日蓮正宗正証寺で……」〕

 勇太:「ブッ!」
 宗一郎:「勇太のお寺か!?」

〔「……この事件で車に跳ねられるなどした参拝客15名が軽いケガを負いました。尚、この事件の不思議なところは、突入した車が突然謎の爆発によって吹き飛ばされ、境内の外に落ちたということです。参拝客等は軽いケガで済みましたが、この謎の爆発により、突入した犯人達が全員重傷、うち1人は頭を強く打つなどして意識不明の重体です」〕

 勇太:「謎の爆発?」

〔「……尚、車に乗っていた犯人達は全員、宗教法人顕正会の信者達と見られますが、警察の事情聴取に対し、黙秘をしているもようです。警察では全員の傷の回復を待って、詳しい取り調べを行う方針です」〕

 勇太:「顕正会員か!」
 宗一郎:「落ち着きなさい。本人達は黙秘してるんだよ」
 勇太:「で、でも……」
 イリーナ:「それより勇太君、今日そのお寺に行く予定だったんでしょ?あんなことがあって、初詣は行えるのかしら?」
 勇太:「そ、そうだ!すぐに確認して来ます!」

 勇太は席を立つと、急いでスマホを手にダイニングの外に出た。

 イリーナ:「あー、車を吹き飛ばしたのはエレーナみたいだねぇ……」

 イリーナは水晶球を取り出して占っていた。

 マリア:「あいつですか」
 イリーナ:「鈴木君がコミックマーケットの手伝いの報酬を踏み倒しかかったんで、取り立てに行ってたみたいだね」
 マリア:「魔道師と契約して報酬を踏み倒そうとは、フザけた野郎だ!」
 イリーナ:「ま、そのおかげでお寺の人達は助かったわけだし、敵対団体関係者にとっては災難だったわけだね」
 マリア:「全く」

 一応、元旦勤行午前の部は警察の捜査の関係で中止。
 午後の部からは何とか開催できるとのことであった。
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“魔女エレーナの日常” 「このまま行くと、いずれ暴走会員がテロを起こしに来るかもしれないという想定図」

2019-01-07 10:33:12 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月1日00:00.天候:晴 東京都豊島区某所 日蓮正宗正証寺]

 藤谷:「はーい!元朝勤行に参加の方はこちらー!」

 ワイワイガヤガヤ、ワイワイガヤガヤ……。

 藤谷:「えー……このタイミングで御受誡並びに御勧誡を受ける方はこちら」

 シーン……。

 藤谷:「ま、これが現状だ……」

 溜め息をつく藤谷。

 藤谷:「今年こそは『宗内一の誓願未達成支部』『いつ支部認証外されるか分からない不良寺院』『法華講傍観勢代表』のレッテルを剥がさなければ!」

 寺院参詣者はそれなりに多い為、自行はできている信徒が多いと思われるが……。
 化他は懈怠しているのであろう。
 何しろ班長職を拝命している藤谷ですら、街頭折伏先は場外馬券場で馬券を買いながらの折伏だ。
 右手に競馬新聞、左手に大白法という正に顕正会ガチ勢から『堕落した法華講員!』と言われたら返す言葉が無いほどだ。

 鈴木:「班長、お疲れさまですー」
 藤谷:「おおっ、鈴木君!キミは来てくれたか!」
 鈴木:「大晦日は電車も終夜運転しますからね。一瞬、車で行こうかとも思いましたけど」
 藤谷:「いいんじゃないの。駐車場なら空いてる」
 鈴木:「稲生先輩は来てますか?ていうか、マリアさんは!?」
 藤谷:「残念だ。稲生君達は基本的に元朝勤行には来ない。明るくなってからの元旦勤行には来るけどな」
 鈴木:「え?え?え?元朝勤行と元旦勤行って違うんですか?」
 藤谷:「そうか。顕正会じゃ、『元旦勤行』だけか」
 鈴木:「昔は特盛やエリと一緒に、こんな時間から本部会館の入口に並んだものです。懐かしいなぁ」
 藤谷:「元旦のこの日だけは、法華講員も自分が参加する行事で忙しいから、誰も顕正会員を折伏しには行かないだろう。今日だけは顕正会員も安泰だな」

 あとは御講日とか……。

 鈴木:「そうかぁ……。俺がこうして元朝勤行に来ているように、特盛やエリも大石寺でこういうことをしているわけか」
 藤谷:「その2人は塔中坊の信徒さん達だな?」
 鈴木:「ええ。俺と違って、あの2人はどこかの宿坊の人に折伏されて入ったんで、向こうの所属です」
 藤谷:「宿坊の信徒さん達は、また俺達末寺の信徒とは違う動きをする」
 鈴木:「そうなんですか」
 藤谷:「大石寺で毎日2時半に行われている丑寅勤行。これが本日における元朝勤行だ。この時点で違うだろ?」
 鈴木:「そうですね」
 藤谷:「だからまだ宿坊で寝てるんじゃないか?」
 鈴木:「宿坊で子作り……ゴクッ!」
 藤谷:「いや、寝る場所は既婚者であっても男女別に分けられるからな?それよりほれ、寒い中、駅から歩いて来たんだろ?甘酒でも飲めや」
 鈴木:「マジっすか!?……去年みたく、アルコール入りではないでしょうね?」
 藤谷:「大丈夫だ。そこは任務者の俺がまず毒味をしてみた。そんなものは入ってなかったよ」
 鈴木:「それなら、お言葉に甘えまして……」
 エレーナ:「……不味い!もう一杯!」
 所化僧:「青汁じゃないんですから……」
 鈴木:「エレーナ!?何やってんの!?」
 エレーナ:「あぁ?アンタがまたアタシにコミケ手伝いの報酬払い忘れてるから、取り立てに来てやったんだよ」
 鈴木:「あ……ヤベ。忘れてた」
 藤谷:「まさか、御供養も忘れて来たんじゃねーだろうな?」
 鈴木:「ちょっと銀行行ってきます」
 藤谷:「開いてねーよ!」
 鈴木:「それじゃカードで……」
 エレーナ:「いいから現金で払えよ、現金で。あ!?」
 鈴木:「す、すいません。顕正会じゃ御供養いらなかったもんで……」
 藤谷:「いや、そりゃそうだけどよ!」
 エレーナ:「こりゃ1度、痛い目見させなきゃ分かんないみたいだねー」
 藤谷:「やはり元顕は1度罰が当たらないと分からないわけか……」

 エレーナは魔法の杖、藤谷はバールのようなものを構えた。
 エレーナはともかく、藤谷のバールのようなもについては、何故かあったのだ。
 気にしないでくれ。

 鈴木:「ひー!正月早々罪障消滅できて、功徳〜〜〜〜〜!!」
 所化僧:「あの、甘酒のお代わり……」
 エレーナ:「あざーす!」
 藤谷:「こらこら、信徒用だぞ」
 所化僧:「どうせ例年余りますから」
 藤谷:「余る?……おかしいな。俺の計算が何故か合わない」
 鈴木:「顕正会もそうですが、別に信徒全員が必ず今日参詣するとは限らないでしょう?」

 新入信者に突っ込まれる古参信徒の藤谷。

 鈴木:「甘酒はどこのお寺でも配ってるんですか?」
 藤谷:「いや、大石寺と一部の末寺くらいだろう。うち程度の規模のお寺で、甘酒を振る舞うのはうちくらいだろう」
 鈴木:「そりゃまたどうして?」
 藤谷:「そりゃあ、俺が飲みたいからこんな寒い中、参詣してくださる信徒の皆さんにという御住職様以下御所化さん達の温かい気持ちだよ」
 鈴木:「顕正会じゃ絶対やらないし、やっても一杯100円くらい取りそうです」
 藤谷:「だろ?」
 エレーナ:「……!!」

 その時、エレーナが何かに反応した。

 鈴木:「どうしたの、エレーナ?」
 エレーナ:「あそこの……通りの……車が……こっちに向かって来る!!」
 鈴木:「な、何だってー!?」

 正証寺の三門は大通りから一歩入った路地の所にある。
 1車線ほどの道で、制限速度30キロという標識と駐禁の標識が掲げられている。
 そこを1台の車が入ってきたと思うと……三門の方へハンドルを切った!

 藤谷:「うわあっ!皆さん、逃げてください!!」

 無理やり階段を登って来たかと思うと、境内に侵入して来る。

 鈴木:「え、エレーナ!何とかしてくれ!!」
 エレーナ:「アタシにはそんな義理無いし!アタシはアンタから報酬取り立てに来ただけだから!」
 鈴木:「何とかしてくれたら、報酬3割増しにする!!」
 エレーナ:「乗った!」

 エレーナは魔法の杖を地面に突き立てた。

 エレーナ:「パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ!……ウィ・オ・ラ!!」

 ドーン!と車の下から爆発が起こり、車は吹き飛ばされ、そのまま三門の上を飛び越して公道の上に真っ逆さまに落ちた。
 不思議なことに爆発が起きた場所は、穴すら開いていない。

 藤谷:「今だ!捕まえろ!」
 田部井信徒:「警察には通報しました!」
 藤谷:「よっし!」

 車に駆け寄る藤谷達。

 顕正会員:「くそっ……!浅井先生の御為に……!!」

 逆さまになった車の中から這い出そうとしていたのは、頭から血を流した顕正会員。
 他にも数人乗っているようだが、意識は無いようだ。
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“大魔道師の弟子” 「魔道師の年末」 4

2019-01-06 20:09:21 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[12月31日10:00.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 稲生家]

 稲生家の大掃除をする魔道師達。
 但し、イリーナはどこかに行ってしまった。

 佳子:「マリアさんはお客様なんだから、ゆっくりなさっていいのよ?」
 マリア:「イイエ、私ニモ手伝ワセテクダサイ」

 マリアは自動通訳魔法を使わず、素で習得した日本語で答えた。
 こういう時、マルチリンガルのエレーナが羨ましく思う。

 佳子:「勇太が自分の部屋を掃除しないものだから、マリアさんにまで手伝わせてるじゃない。しかも、お付きの人達がお節料理まで作ってくれちゃって」
 勇太:「部屋の掃除はともかく、誰がお節料理作ってるって!?」
 マリア:「ミカエラとクラリス」
 勇太:「マジか!?」
 マリア:「年越しソバも後で作るって言ってた」
 勇太:「そんなスキル、いつの間に!?」
 マリア:「奴らもネットで調べてるみたいだよ」
 勇太:「ネット!?」

 魔法のフランス人形がインターネットをやるようにまでなった。
 それは偏にマリアの魔力が上がったということの表れでもあるのだが……。

 マリア:「この昔のタイムテーブル(時刻表)とか要らないだろう?」
 稲生:「大事な資料なんです!」
 マリア:「“鉄道ジャーナル”?“鉄道ファン”?」
 稲生:「これも大事な資料です!」
 マリア:「……妙教と大日蓮より、鉄道関係の書籍の方が多い」
 稲生:「すいません!不良信徒で!」
 マリア:「“折伏理論解説書”、“日蓮大聖人に背く日本は必ず滅ぶ”?」
 稲生:「これは顕正会破折用ですね」
 マリア:「ていうか……」

 ふとマリアは気づいたことがある。
 稲生の大掃除を手伝うつもりで、何気に稲生の部屋に入ったのはこれが初めてではないかと!

 マリア:「なるほど。これが日本人の男の部屋か」
 稲生:「そ、そうですね」

 長野の屋敷においては、マリアは住み込みの管理人という感じなので、その立場でもって稲生の部屋に入ったことはある。

 マリア:「ん?ベッドの下にも何か……」
 稲生:「あーっ!ダメです!」

 “女子校生パンチラ特集”“全国超ミニスカJKを探せ!”“実録!マンガで分かる援助交際”“いけない体育教師の物語”“発情期ブルマ検査をコミカライズしたみた件”“イケメンレイプ魔に襲われた少女!”“マンガで解説!本当にあった処女喪失の話”“スクール水着を脱がさないで”“対決!セーラー服とブレザー”

 マリア:「……………………」
 稲生:「いや、これはその……あの……」
 マリア:「……分かった」

 マリアは俯くとスッと立ち上がった。

 稲生:「こ、ここ、これはその……ま、まだ僕が大学生だった頃の物で……!」
 マリア:「もう少し、スカートを短くしてくる。それでいいんだろ?あ?」
 稲生:「え!?あ、は……!」
 マリア:「この汚物は消毒だ。いいな?」
 稲生:「それは……はい」

 マリアがパチンと指を鳴らすと、台所からミカエラとクラリスがやってきた。

 マリア:「この有害図書を外に出して。……じゃ、私は焼却してくる」
 稲生:「は、はい……」

 マリアは魔法の杖を持って稲生の部屋の外に出た。
 明らかに魔法で焼却処分するつもりである。

 稲生:「秘蔵コレクションだったのにぃ!」

 ところがマリア……。

 マリア:「フムフム……。勇太はこういうのが好みなのか。なるほど……」

 エロ本の束をいきなり焼却処分するのではなく、一応中身は確認していた。
 
 マリア:「……なになに?『健全な男子は好きな女子のヌードを想像して当たり前。それにいちいち目くじら立てているようでは、好きな彼氏にも逃げられてしまう』『彼女の余裕とやらを見せることで、主導権を握ることができるのである』……か。ハッ!」
 ミカエラ:「あの、マスター。そろそろ本の処分の方を……」
 マリア:「分かってる!もう少し待て!」

 日本語で書いてあるエロ本をわざわざ翻訳する為に、専用の眼鏡を掛けるマリアであった。
 裏庭で後輩以上彼氏以下の男子の秘蔵エロ本を読み漁る先輩以上彼女以下の女子。

[同日15:00.天候:晴 稲生家裏庭]

 ようやくエロ本の処分も終わった後で昼食を取った後は、ここで餅つき。
 正月用の餅である。
 わざわざ杵と臼を借りてきての本格的なものであった。

 宗一郎:「もち米の用意ができたぞ」
 勇太:「じゃあ、早速」

 勇太が杵を持とうとした時だった。

 イリーナ:「ただいまぁ。あれ?何やってんの?」
 宗一郎:「おお、イリーナ先生。いいタイミングで来なすった」
 勇太:「今、正月用のお餅をつく所です」
 イリーナ:「面白そうだねぇ。どれ?アタシにもやらせて」
 勇太:「どうぞ」

 勇太、杵をイリーナに渡した。

 マリア:「いや、ちょっと待ってください、師匠。何か、イヤな予感しかしないんですが!」

 しかしイリーナ、弟子が止めるのも聞かずに杵を振り上げた。

 ゴキッ……!(腰からニブい音がした)

 イリーナ:「腰痛発生……!」
 マリア:「だから言ったのに!」
 宗一郎:「だ、大丈夫ですか、先生!?」
 イリーナ:「マリア……大至急、無二の師匠イリーナ先生に断固としてお応えして参る決意を……!(訳:回復魔法早よ!)」
 マリア:「サロンパスでも貼っとれ!」
 宗一郎:「大丈夫ですか、先生!?勇太、早く先生を客間にお運びするんだ!佳子、救急箱から湿布持ってこい!」
 佳子:「はいはい」

 本当にサロンパスを腰に貼られたイリーナだった。
 尚、どうしてマリアが稲生家の救急箱にサロンパスが入っているのを知っていたのかは不明である。

 勇太:「しょうがないから餅つきはキミ達でやって!」
 ミカエラ:「かしこまりました」
 クラリス:「かしこまりました」

 マリアのメイド人形達は手際よく杵でついて、ちゃんとこねたという。
 その為、それなりに美味しいお餅がつき上がりましたとのこと。
 因みにマリアがイリーナに回復魔法を掛けたのは、夕食前のことであった。
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