[8月10日15:00.天候:晴 東京都千代田区大手町 大手町中央ビル(※広島県広島市に同名のビルがあるようですが、当然ここでは関係ありません)]
私達は首都高を介して東京の大手町に向かった。
途中、首都高名物の渋滞にハマったりしたが、何とか無事に辿り着けた。
愛原:「あのビルには地下駐車場がある。そこに止めよう」
高橋:「分かりました。パン車止めていいんスね?」
『パン車』とは、走り屋用語で『一般車』のこと。
愛原:「ああ。あのビルには商店街があってね、その客用の駐車場があるんだ」
高橋:「なるほど」
高橋は私の誘導通りに、大手町中央ビルの地下駐車場に車を突っ込ませた。
広い地下駐車場には、見覚えのある制服を着た警備員が誘導している。
高橋:「このビル、斉藤社長の会社と何か関係あるんスか?」
愛原:「いや、直接は無い。もしかしたら、ここに入居しているテナント企業さんが、何らかの形で大日本製薬と取引しているんじゃないかなってくらい」
高橋:「はあ……」
大手町地区は大日本製薬の入居しているビルのある丸の内地区とは、北隣にある地区だ。
主に、三菱地所が所有しているビルが乱立していることで有名である。
私達は車を降り、エレベーターホールに向かった。
高橋:「で、どこに行くんスか?」
愛原:「防災センターだよ」
高橋:「は???」
私の答えに、高橋は素っ頓狂な声を上げた。
こういったビルの防災センターの多くは地下にある。
私は防災センターを見つけたが、すぐには入らない。
愛原:「えーと……」
商店街に店を構えているコンビニに入った。
そこで菓子の詰め合わせを購入する。
高橋:「一体、何をされようってんですか?」
愛原:「ヒントを言わせてもらうと、俺は警備員時代、このビルで働いたことがある」
高橋:「えっ、そうなんスか?」
愛原:「このビルのエレベーターは、全て三菱電機製だ」
高橋:「三菱地所のビルなんだから当然ですね」
愛原:「日本ビルヂングの人達が聞いたら怒るから、それは黙ってておけよ?」
高橋:「さ、サーセン!」
私達は防災センター近くのカフェで時間を潰した。
と、1人の警備員が巡回を終えて防災センターに戻ろうとしている。
愛原:「今だ!」
高橋:「ええっ!?」
愛原:「オマエはここで待ってろ!」
高橋:「は、はい!」
私は急いでカフェを出た。
そして、今まさに防災センターに入ろうとしている警備員に駆け寄った。
愛原:「熊谷さん!」
熊谷:「えっ?………………あっ、キミは!!」
それは60代半ばの男性警備員だった。
愛原:「愛原です!覚えてますか?」
私はコロナ対策で着用しているマスクを一時的に外して、素顔を見せた。
熊谷:「おー、愛ちゃんかー。久しぶりだなー」
熊谷さんは私のことを覚えていてくれた。
彼は私がこのビルに配属された時、隊長だった人である。
今は定年退職して再雇用されたということもあって、隊長職は引退し、ヒラ隊員として仕事をしているはずだ。
熊谷:「何だい?またこの仕事に戻るつもりになったかい?」
愛原:「いえ。あいにくですが、今は探偵の仕事の方が楽しいので」
熊谷:「そうかいそうかい。そいつは残念だな。せっかく検定資格を持ったキミが戻ってきてくれれば、百人力だというのに……」
愛原:「すいません。たまたまこの近くに来たものだから、寄ってみたんですよ。熊谷さんと再会できて良かったです」
熊谷:「はっはっはー、そうかいそうかい」
愛原:「宗塚や達崎さんはお元気ですか?」
熊谷:「おー、元気にしてるよー。今はあの堀崎君が隊長だよ?会って行くかい?」
愛原:「是非お願いします!このように、手土産もございますんで」
熊谷:「おー、気が利くなー。さぁさぁ、入って入って。お茶くらい出すよ」
愛原:「ありがとうございます!」
こうして私は、本来関係者以外立ち入り禁止である防災センターに易々と入室したのであった。
愛原:「やあ、どうもどうも」
私はかつての同僚達と満面の笑みで再会し、かつての同僚達もにこやかに迎えてくれた。
だが、私のお目当てはただ1つ……。
愛原:「それじゃ、どうも。また近くまで来たら、寄らせて頂きまーす」
私は小一時間ほど中で話をして、それから防災センターをあとにした。
急いで例のカフェに戻る。
高橋:「あ、先生、お帰りなさい」
愛原:「よし、さっさとズラかるぞ!今すぐに!」
高橋:「は、はい!」
私達は急いでカフェを出て、地下駐車場に向かった。
そして、そこに止めてある車に乗り込む。
直射日光でなくても、冷房など入っていない地下駐車場に止めているだけで車内は暑かった。
高橋:「次はどこに?」
愛原:「パレスホテル大宮に戻ってくれ。リサを迎えに行く」
高橋:「は、はい」
時計を見ると、16時を回っていた。
そろそろ下り線が混む頃だ。
今から向かえば、多少の渋滞にハマったとしても、17時頃には着けるだろう。
ギリギリで約束の夕方である。
高橋:「それから斉藤社長んちに向かうんスね?」
愛原:「いや、今日は止めておく」
高橋:「えっ?」
愛原:「重役さんだから、残業は社員達に任せて自分は早く帰るだろう。鉢合わせになるとマズい。どうせ明日も平日で、社長はまた出勤されるだろうから、明日に出直す」
高橋:「わ、分かりました。それで、エレベーターの鍵は?」
愛原:「この通り。失敬してきたよ」
高橋:「さすがっスね。でも、いいんスか?さすがにヤバいんじゃ……?」
愛原:「うん、バレたらヤバいな。俺が真っ先に疑われるだろう」
高橋:「それじゃ……!?」
愛原:「もちろん、大丈夫という自信があっての実行だ。実はあの警備隊では、普段使用する鍵は毎日点検する。しかしエレベーターの鍵は、実は何本も防災センターにあるんだ。これだけの高層ビル、何十基とエレベーターがあるわけだから、その数は1本や2本じゃない。しかも、エスカレーターもある。俺が知っている限り、この鍵は15本はあるんだ」
高橋:「15本も!」
愛原:「そのうち、普段から使用しているのは4~5本に過ぎない。それらは毎日点検するが、残りの予備鍵は週一しか点検しないんだ。で、それは暇な週末に行われる。今は週明けしたばっかりだから、次の点検は今週末だよ。それまでに返せばOKだ」
高橋:「なるほど!」
愛原:「……いや、ちょっと待て」
高橋:「何スか?」
愛原:「なるべくなら明日、社長が出勤してすぐに行動したいな……。ちょっと1度、うちのマンションに戻ってくれるか?」
高橋:「ハイ」
私はスマホを取り出した。
愛原:「よし。コロナ禍の平日ということもあってか、部屋が空いてて良かったよ」
高橋:「何の話ですか?」
愛原:「今日はさいたま市内に泊まる。さすがに絵恋さんと同じホテルというわけにはいかないが、同じさいたま市内だよ。マンションに戻るというのは、着替えなどを取りに行くということさ」
高橋:「了解です!」
高橋は車を永代通りに出すと、そのまましばらく東進した。
私達は首都高を介して東京の大手町に向かった。
途中、首都高名物の渋滞にハマったりしたが、何とか無事に辿り着けた。
愛原:「あのビルには地下駐車場がある。そこに止めよう」
高橋:「分かりました。パン車止めていいんスね?」
『パン車』とは、走り屋用語で『一般車』のこと。
愛原:「ああ。あのビルには商店街があってね、その客用の駐車場があるんだ」
高橋:「なるほど」
高橋は私の誘導通りに、大手町中央ビルの地下駐車場に車を突っ込ませた。
広い地下駐車場には、見覚えのある制服を着た警備員が誘導している。
高橋:「このビル、斉藤社長の会社と何か関係あるんスか?」
愛原:「いや、直接は無い。もしかしたら、ここに入居しているテナント企業さんが、何らかの形で大日本製薬と取引しているんじゃないかなってくらい」
高橋:「はあ……」
大手町地区は大日本製薬の入居しているビルのある丸の内地区とは、北隣にある地区だ。
主に、三菱地所が所有しているビルが乱立していることで有名である。
私達は車を降り、エレベーターホールに向かった。
高橋:「で、どこに行くんスか?」
愛原:「防災センターだよ」
高橋:「は???」
私の答えに、高橋は素っ頓狂な声を上げた。
こういったビルの防災センターの多くは地下にある。
私は防災センターを見つけたが、すぐには入らない。
愛原:「えーと……」
商店街に店を構えているコンビニに入った。
そこで菓子の詰め合わせを購入する。
高橋:「一体、何をされようってんですか?」
愛原:「ヒントを言わせてもらうと、俺は警備員時代、このビルで働いたことがある」
高橋:「えっ、そうなんスか?」
愛原:「このビルのエレベーターは、全て三菱電機製だ」
高橋:「三菱地所のビルなんだから当然ですね」
愛原:「日本ビルヂングの人達が聞いたら怒るから、それは黙ってておけよ?」
高橋:「さ、サーセン!」
私達は防災センター近くのカフェで時間を潰した。
と、1人の警備員が巡回を終えて防災センターに戻ろうとしている。
愛原:「今だ!」
高橋:「ええっ!?」
愛原:「オマエはここで待ってろ!」
高橋:「は、はい!」
私は急いでカフェを出た。
そして、今まさに防災センターに入ろうとしている警備員に駆け寄った。
愛原:「熊谷さん!」
熊谷:「えっ?………………あっ、キミは!!」
それは60代半ばの男性警備員だった。
愛原:「愛原です!覚えてますか?」
私はコロナ対策で着用しているマスクを一時的に外して、素顔を見せた。
熊谷:「おー、愛ちゃんかー。久しぶりだなー」
熊谷さんは私のことを覚えていてくれた。
彼は私がこのビルに配属された時、隊長だった人である。
今は定年退職して再雇用されたということもあって、隊長職は引退し、ヒラ隊員として仕事をしているはずだ。
熊谷:「何だい?またこの仕事に戻るつもりになったかい?」
愛原:「いえ。あいにくですが、今は探偵の仕事の方が楽しいので」
熊谷:「そうかいそうかい。そいつは残念だな。せっかく検定資格を持ったキミが戻ってきてくれれば、百人力だというのに……」
愛原:「すいません。たまたまこの近くに来たものだから、寄ってみたんですよ。熊谷さんと再会できて良かったです」
熊谷:「はっはっはー、そうかいそうかい」
愛原:「宗塚や達崎さんはお元気ですか?」
熊谷:「おー、元気にしてるよー。今はあの堀崎君が隊長だよ?会って行くかい?」
愛原:「是非お願いします!このように、手土産もございますんで」
熊谷:「おー、気が利くなー。さぁさぁ、入って入って。お茶くらい出すよ」
愛原:「ありがとうございます!」
こうして私は、本来関係者以外立ち入り禁止である防災センターに易々と入室したのであった。
愛原:「やあ、どうもどうも」
私はかつての同僚達と満面の笑みで再会し、かつての同僚達もにこやかに迎えてくれた。
だが、私のお目当てはただ1つ……。
愛原:「それじゃ、どうも。また近くまで来たら、寄らせて頂きまーす」
私は小一時間ほど中で話をして、それから防災センターをあとにした。
急いで例のカフェに戻る。
高橋:「あ、先生、お帰りなさい」
愛原:「よし、さっさとズラかるぞ!今すぐに!」
高橋:「は、はい!」
私達は急いでカフェを出て、地下駐車場に向かった。
そして、そこに止めてある車に乗り込む。
直射日光でなくても、冷房など入っていない地下駐車場に止めているだけで車内は暑かった。
高橋:「次はどこに?」
愛原:「パレスホテル大宮に戻ってくれ。リサを迎えに行く」
高橋:「は、はい」
時計を見ると、16時を回っていた。
そろそろ下り線が混む頃だ。
今から向かえば、多少の渋滞にハマったとしても、17時頃には着けるだろう。
ギリギリで約束の夕方である。
高橋:「それから斉藤社長んちに向かうんスね?」
愛原:「いや、今日は止めておく」
高橋:「えっ?」
愛原:「重役さんだから、残業は社員達に任せて自分は早く帰るだろう。鉢合わせになるとマズい。どうせ明日も平日で、社長はまた出勤されるだろうから、明日に出直す」
高橋:「わ、分かりました。それで、エレベーターの鍵は?」
愛原:「この通り。失敬してきたよ」
高橋:「さすがっスね。でも、いいんスか?さすがにヤバいんじゃ……?」
愛原:「うん、バレたらヤバいな。俺が真っ先に疑われるだろう」
高橋:「それじゃ……!?」
愛原:「もちろん、大丈夫という自信があっての実行だ。実はあの警備隊では、普段使用する鍵は毎日点検する。しかしエレベーターの鍵は、実は何本も防災センターにあるんだ。これだけの高層ビル、何十基とエレベーターがあるわけだから、その数は1本や2本じゃない。しかも、エスカレーターもある。俺が知っている限り、この鍵は15本はあるんだ」
高橋:「15本も!」
愛原:「そのうち、普段から使用しているのは4~5本に過ぎない。それらは毎日点検するが、残りの予備鍵は週一しか点検しないんだ。で、それは暇な週末に行われる。今は週明けしたばっかりだから、次の点検は今週末だよ。それまでに返せばOKだ」
高橋:「なるほど!」
愛原:「……いや、ちょっと待て」
高橋:「何スか?」
愛原:「なるべくなら明日、社長が出勤してすぐに行動したいな……。ちょっと1度、うちのマンションに戻ってくれるか?」
高橋:「ハイ」
私はスマホを取り出した。
愛原:「よし。コロナ禍の平日ということもあってか、部屋が空いてて良かったよ」
高橋:「何の話ですか?」
愛原:「今日はさいたま市内に泊まる。さすがに絵恋さんと同じホテルというわけにはいかないが、同じさいたま市内だよ。マンションに戻るというのは、着替えなどを取りに行くということさ」
高橋:「了解です!」
高橋は車を永代通りに出すと、そのまましばらく東進した。