報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「エレベーター鍵を手に入れろ」

2021-10-24 16:06:10 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[8月10日15:00.天候:晴 東京都千代田区大手町 大手町中央ビル(※広島県広島市に同名のビルがあるようですが、当然ここでは関係ありません)]

 私達は首都高を介して東京の大手町に向かった。
 途中、首都高名物の渋滞にハマったりしたが、何とか無事に辿り着けた。

 愛原:「あのビルには地下駐車場がある。そこに止めよう」
 高橋:「分かりました。パン車止めていいんスね?」

 『パン車』とは、走り屋用語で『一般車』のこと。

 愛原:「ああ。あのビルには商店街があってね、その客用の駐車場があるんだ」
 高橋:「なるほど」

 高橋は私の誘導通りに、大手町中央ビルの地下駐車場に車を突っ込ませた。
 広い地下駐車場には、見覚えのある制服を着た警備員が誘導している。

 高橋:「このビル、斉藤社長の会社と何か関係あるんスか?」
 愛原:「いや、直接は無い。もしかしたら、ここに入居しているテナント企業さんが、何らかの形で大日本製薬と取引しているんじゃないかなってくらい」
 高橋:「はあ……」

 大手町地区は大日本製薬の入居しているビルのある丸の内地区とは、北隣にある地区だ。
 主に、三菱地所が所有しているビルが乱立していることで有名である。
 私達は車を降り、エレベーターホールに向かった。

 高橋:「で、どこに行くんスか?」
 愛原:「防災センターだよ」
 高橋:「は???」

 私の答えに、高橋は素っ頓狂な声を上げた。
 こういったビルの防災センターの多くは地下にある。
 私は防災センターを見つけたが、すぐには入らない。

 愛原:「えーと……」

 商店街に店を構えているコンビニに入った。
 そこで菓子の詰め合わせを購入する。

 高橋:「一体、何をされようってんですか?」
 愛原:「ヒントを言わせてもらうと、俺は警備員時代、このビルで働いたことがある」
 高橋:「えっ、そうなんスか?」
 愛原:「このビルのエレベーターは、全て三菱電機製だ」
 高橋:「三菱地所のビルなんだから当然ですね」
 愛原:「日本ビルヂングの人達が聞いたら怒るから、それは黙ってておけよ?」
 高橋:「さ、サーセン!」

 私達は防災センター近くのカフェで時間を潰した。
 と、1人の警備員が巡回を終えて防災センターに戻ろうとしている。

 愛原:「今だ!」
 高橋:「ええっ!?」
 愛原:「オマエはここで待ってろ!」
 高橋:「は、はい!」

 私は急いでカフェを出た。
 そして、今まさに防災センターに入ろうとしている警備員に駆け寄った。

 愛原:「熊谷さん!」
 熊谷:「えっ?………………あっ、キミは!!」

 それは60代半ばの男性警備員だった。

 愛原:「愛原です!覚えてますか?」

 私はコロナ対策で着用しているマスクを一時的に外して、素顔を見せた。

 熊谷:「おー、愛ちゃんかー。久しぶりだなー」

 熊谷さんは私のことを覚えていてくれた。
 彼は私がこのビルに配属された時、隊長だった人である。
 今は定年退職して再雇用されたということもあって、隊長職は引退し、ヒラ隊員として仕事をしているはずだ。

 熊谷:「何だい?またこの仕事に戻るつもりになったかい?」
 愛原:「いえ。あいにくですが、今は探偵の仕事の方が楽しいので」
 熊谷:「そうかいそうかい。そいつは残念だな。せっかく検定資格を持ったキミが戻ってきてくれれば、百人力だというのに……」
 愛原:「すいません。たまたまこの近くに来たものだから、寄ってみたんですよ。熊谷さんと再会できて良かったです」
 熊谷:「はっはっはー、そうかいそうかい」
 愛原:「宗塚や達崎さんはお元気ですか?」
 熊谷:「おー、元気にしてるよー。今はあの堀崎君が隊長だよ?会って行くかい?」
 愛原:「是非お願いします!このように、手土産もございますんで」
 熊谷:「おー、気が利くなー。さぁさぁ、入って入って。お茶くらい出すよ」
 愛原:「ありがとうございます!」

 こうして私は、本来関係者以外立ち入り禁止である防災センターに易々と入室したのであった。

 愛原:「やあ、どうもどうも」

 私はかつての同僚達と満面の笑みで再会し、かつての同僚達もにこやかに迎えてくれた。
 だが、私のお目当てはただ1つ……。

 愛原:「それじゃ、どうも。また近くまで来たら、寄らせて頂きまーす」

 私は小一時間ほど中で話をして、それから防災センターをあとにした。
 急いで例のカフェに戻る。

 高橋:「あ、先生、お帰りなさい」
 愛原:「よし、さっさとズラかるぞ!今すぐに!」
 高橋:「は、はい!」

 私達は急いでカフェを出て、地下駐車場に向かった。
 そして、そこに止めてある車に乗り込む。
 直射日光でなくても、冷房など入っていない地下駐車場に止めているだけで車内は暑かった。

 高橋:「次はどこに?」
 愛原:「パレスホテル大宮に戻ってくれ。リサを迎えに行く」
 高橋:「は、はい」

 時計を見ると、16時を回っていた。
 そろそろ下り線が混む頃だ。
 今から向かえば、多少の渋滞にハマったとしても、17時頃には着けるだろう。
 ギリギリで約束の夕方である。

 高橋:「それから斉藤社長んちに向かうんスね?」
 愛原:「いや、今日は止めておく」
 高橋:「えっ?」
 愛原:「重役さんだから、残業は社員達に任せて自分は早く帰るだろう。鉢合わせになるとマズい。どうせ明日も平日で、社長はまた出勤されるだろうから、明日に出直す」
 高橋:「わ、分かりました。それで、エレベーターの鍵は?」
 愛原:「この通り。失敬してきたよ」
 高橋:「さすがっスね。でも、いいんスか?さすがにヤバいんじゃ……?」
 愛原:「うん、バレたらヤバいな。俺が真っ先に疑われるだろう」
 高橋:「それじゃ……!?」
 愛原:「もちろん、大丈夫という自信があっての実行だ。実はあの警備隊では、普段使用する鍵は毎日点検する。しかしエレベーターの鍵は、実は何本も防災センターにあるんだ。これだけの高層ビル、何十基とエレベーターがあるわけだから、その数は1本や2本じゃない。しかも、エスカレーターもある。俺が知っている限り、この鍵は15本はあるんだ」
 高橋:「15本も!」
 愛原:「そのうち、普段から使用しているのは4~5本に過ぎない。それらは毎日点検するが、残りの予備鍵は週一しか点検しないんだ。で、それは暇な週末に行われる。今は週明けしたばっかりだから、次の点検は今週末だよ。それまでに返せばOKだ」
 高橋:「なるほど!」
 愛原:「……いや、ちょっと待て」
 高橋:「何スか?」
 愛原:「なるべくなら明日、社長が出勤してすぐに行動したいな……。ちょっと1度、うちのマンションに戻ってくれるか?」
 高橋:「ハイ」

 私はスマホを取り出した。

 愛原:「よし。コロナ禍の平日ということもあってか、部屋が空いてて良かったよ」
 高橋:「何の話ですか?」
 愛原:「今日はさいたま市内に泊まる。さすがに絵恋さんと同じホテルというわけにはいかないが、同じさいたま市内だよ。マンションに戻るというのは、着替えなどを取りに行くということさ」
 高橋:「了解です!」

 高橋は車を永代通りに出すと、そのまましばらく東進した。
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大石寺御大会期間中の登山バスの運行について

2021-10-24 00:12:54 | 日記
http://www.shizuokabus.co.jp/noriai-bus_taisekiji/#rinji

リンク先の通り、大石寺御大会が開催される時期は御開扉が無い為、新富士駅~富士駅~大石寺間の特急バスは運行されません。
この時期、御登山される信徒の皆様は御注意ください。
尚、既出の高速バスについては運行されます。
富士宮市内前泊などに御活用下さい(宿坊への前泊は中止されている為)。
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“私立探偵 愛原学” 「斉藤家探索終了」

2021-10-22 20:08:05 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[8月10日13:30.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 斉藤家]

 地下1階を見せてもらった私は、再び1階に戻ると、応接室へ入った。

 高橋:「あっ、結構ゆっくりでしたね、先生?」
 愛原:「まあな」
 サファイア:「パールと御嬢様の忘れ物は纏めておきました。これをお持ちになってください」

 サファイアはペーパーバッグを2つ差し出した。

 愛原:「中身は何なの?」
 高橋:「替えの下着やら化粧品やら水着も入ってますよ?」
 愛原:「水着?あれ?水着ならもう持ってるんじゃないの?」

 まあ、だいたい知っている。
 絵恋さんはリサに見せびらかす為に、新しく買った最新トレンドの水着を持って行ったのだろう。
 そこをあえてリサが、『学校の水着も着てよ』と言ったのだ。
 リサに心酔している絵恋さんがリサの頼みを断れるはずがなく、それで用意するようパールに命じたのである。

 サファイア:「事情は分かりかねますが、御嬢様より、急きょ用意するように命ぜられたのです」
 愛原:「ふーん……」

 まあ、知ってる。
 それよりも……。

 愛原:「この家って、地下2階があるんですか?」
 サファイア:「いえ、無いと思いますが……」

 サファイアは首を傾げた。
 恐らくメイドさん単位では知らないのだろう。

 愛原:「このエレベーターの操作盤を開ける鍵って持ってますか?」
 サファイア:「いえ、持っておりません」
 愛原:「誰かが持っているのですか?」
 サファイア:「エレベーターの点検業者さんなら持っていると思いますが……」
 愛原:「それと、斉藤社長かな?」
 サファイア:「……御主人様ならお持ちかもしれませんが……。それがどうかなさったのですか?」
 愛原:「実はこの前、東京の初台で、エレベーターの点検業者に化けたテロリストに襲われましてね。ここの御宅にもエレベーターがある以上、点検業者は来るでしょう?」
 サファイア:「ええ、まあ……」
 愛原:「なので気を付けて頂きたいのですよ」
 サファイア:「かしこまりました。御忠告、ありがとうございます」

 初台で私達を襲ったテロリストが、エレベーターの点検業者を装い、管理人を呼び寄せたことまでは分かっている。
 なので、私の言葉にはウソは無い。

 愛原:「じゃあ高橋、そろそろ行こうか」
 高橋:「あ、はい」

 私は荷物を受け取ると、席を立った。
 再び灼熱の太陽が照り付ける中、駐車場に向かって歩く。

 高橋:「先生、もうよろしいんですか?」
 愛原:「表向きの用件は済んだ。にも関わらず長居をすれば、それだけで怪しまれるよ」
 高橋:「はあ……」

 駐車場に戻り、高橋が運転席に乗り込んでエンジンを掛ける。

 高橋:「熱っ!」

 案の定、炎天下に晒されていたNV200の車内は灼熱地獄と化していた。
 確かにこんな所に子供を放置したら死ぬに決まっている。
 私はそう考えながら、料金を投入した。
 もちろん、領収書を発行するのを忘れない。
 パチンコ店の駐車場も兼ねている為か、駐車場内の注意看板には、『子供の車内放置は厳禁です。時間に関わらず、発見次第警察に通報します』と書かれていた。

 高橋:「先生、見てくださいよ。パールのヤツ、下着まで迷彩柄っスよ」

 私が助手席に乗り込むと、高橋がバッグの隙間から中を覗いて言った。

 愛原:「オマエ、彼女の下着、他人にバラすなよ……」
 高橋:「先生ならOKっス」
 愛原:「それより早く行こう」
 高橋:「はい」

 高橋は車を出した。

 愛原:「あの家のエレベーター、三菱電機製だったな……」
 高橋:「はあ……」

 私はどうにかして、あのエレベーターの鍵を手に入れられないか考えた。
 マンションにあるのはオーチス製、事務所のビルはフジテックと、メーカーが合わない。

 愛原:「うーむ……」

[同日13:45.天候:晴 同市大宮区 パレスホテル大宮]

 再びパレスホテル大宮に戻った私達は、フロントに荷物を預けた。
 まだリサ達はプールで遊んでいるだろう。
 その間どうしようか迷っているうちに、私はホテルのエレベーターの方を見た。
 1つのエレベーターのドアが開けられ、そこに警備員と清掃員がいた。
 清掃員がカゴの中を清掃し、それに警備員が立ち会っているといった感じだ。
 警備会社は違うが、かつては私もあの制服を着て制帽を被って仕事をしていた。
 どうやら、カゴの中が汚れたらしい。
 客が飲み物か何かを零したのだろう。
 それで警備員がエレベーターを止めて、清掃員が清掃をしているということだ。

 清掃員:「はい、終わりました」
 警備員:「お疲れ様」

 警備員が腰のベルト(帯革という)に結着したポーチ(キーケースという)から、エレベーターのスイッチ・キーを取り出して、エレベーターを再稼働させた。

 愛原:「あっ!」
 高橋:「! どうしました、先生?!」
 愛原:「この手があったか!」

 それは、私が昔取った杵柄を活用する時であった。

 愛原:「高橋、まだ時間あるな?」
 高橋:「夕方には迎えに行く予定でしたからね。それがどうかしましたか?」
 愛原:「ちょっと、行く所があるんだ。車で乗せてってくれないか?」
 高橋:「それはいいですけど、遠いですか?」
 愛原:「いや、都内だ。それも、都心部」
 高橋:「それなら大丈夫っスよ。行きましょう」
 愛原:「ああ、頼む」

 私達は急いでホテルの駐車場に向かった。
 そして、再び車に乗る。

 高橋:「何かいいアイディアが浮かんだんですね?」
 愛原:「そうだ。もしかしたら、斉藤家のエレベーターの鍵が手に入るかもしれない」
 高橋:「先生、三菱電機にコネが?」
 愛原:「いや、無い。無いけど、鍵が手に入るかもしれない」
 高橋:「先生にお任せしますよ」

 高橋はそう言って、車を走らせた。
 そして駐車場を出て、公道に出る。

 高橋:「高速乗っていいっスか?」
 愛原:「いいとも」
 高橋:「じゃあ、新都心西から入ります。で、どこの出入口で降りれば?」
 愛原:「それじゃ呉服橋……あ、いや、あそこは確か廃止されたんだったか。そうなると……神田橋か……?」
 高橋:「そうですね。今、大手町の最寄りは神田橋か宝町か霞が関か……それくらいですよ」
 愛原:「車と道路に関しては、オマエに任せるよ。大手町の大手町中央ビルに行ければいい」
 高橋:「大手町中央ビルですね。分かりました」

 高橋は、まずは最寄りの首都高の入口に車を走らせた。
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“私立探偵 愛原学” 「何度目かの大宮へ」

2021-10-22 14:38:27 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[8月10日13:00.天候:晴 埼玉県さいたま市大宮区 パレスホテル大宮→斉藤家]

 事務所と家に戻った私達はその後、車で大宮に向かった。
 まずはパレスホテル大宮で、リサを降ろす。
 ホテルには斉藤絵恋さんだけでなく、専属メイドのパールもいた。
 パールも戦闘力はなかなか強いから、ボディガードとしても申し分無い。
 何しろ、女性ながら、暴走族リーダーだった高橋とタイマン張れるほどの強さだ。
 任せて安心だろう。
 ヴェルトロはリサの連行に失敗して痛手を負ったから、すぐにまた襲って来るとも思えなかった。

 愛原:「よし、行こう」
 高橋:「はい」

 リサを降ろした後、私は助手席に移動し、運転は再び高橋に任せる。
 次はいよいよ斉藤家だ。
 高級住宅街の中にあるとはいえ、道は案外狭い。
 一方通行の道があるだけなので、路駐は危険だろう。
 私達はパチンコ店の駐車場兼コインパーキングに車を止め、そこから徒歩で斉藤家を目指した。

 愛原:「これは……」

 斉藤家の入口付近は、多くの工事関係者で埋め尽くされていた。
 トイレの修理作業にしては、随分と大掛かりだ。

 警備員:「あ、すいません。只今、工事中ですので、関係者以外の方は……」

 門扉の前で立哨警戒中の警備員が私達を呼び止めた。
 工事現場のガードマンということもあって、この暑いのにヘルメットや蛍光チョッキを着ている。
 私が昔やっていた施設警備とは、労働条件も環境も雲泥の差だ。

 愛原:「もちろん、こちらの家の方に用があって来ました」

 私は斉藤社長の名刺を使わせてもらった。

 警備員:「失礼しました。それでは危険ですので、そちらからお通り下さい」
 愛原:「どうも」

 用があるのは本当だ。
 私達は、『パールの忘れ物』を取りに来たのだから。
 高橋と絵恋さんに頼んで、私達がこの家に行く口実を作ってもらった。
 ホテル滞在中の数日間くらいなら別にいいし、同じ市内なのだから、いつでも取りに行けるので、まあ別に大したことの無い忘れ物である。

 サファイア:「いらっしゃいませ」
 高橋:「よお。パールの忘れ物を取りに来たぜ」
 サファイア:「パールの忘れ物ですか?」
 愛原:「そう。そしてそれは、絵恋さんの忘れ物でもある」
 サファイア:「御嬢様の……」
 愛原:「おや?取りに伺うとパールさんから聞いていませんかな?」
 サファイア:「そう、ですね……。大至急確認しますので、少々お待ちください。どうぞ、中へ」
 愛原:「申し訳ないね」
 高橋:「邪魔するぜ」

 ここでパールは斉藤家には何の連絡も入れていない。
 幸い私達はここでは信用されているから、このようにすんなりと中へ入れてもらえる。
 絵恋さんや同僚のメイドの名前を出したことも大きい。
 私達は家の中に入り、応接室に通された。

 愛原:「社長はお仕事だね?」
 サファイア:「さようでございます」

 こんなド平日じゃ、会社役員は本社勤務だろう。
 休みなのは不規則勤務の労働者か、夏休み中の学生くらいだ。

 愛原:「外は暑かったなぁ、高橋?」
 高橋:「そうっスね。先生に冷たいお茶、頼むわ」
 サファイア:「かしこまりました」
 愛原:「あ、その前にちょっとトイレを借りたい。だけど、1階のトイレは使えないよね?」
 サファイア:「さようでございます。それでは2階のお手洗いを……」
 愛原:「いや、地下のトイレを借りたい」
 サファイア:「地下でございますか?しかし、地下のは……」
 愛原:「分かってる。本来はキミ達、使用人用のトイレなんだろ?いやね、地下にはプールがあるでしょ?」
 サファイア:「はい、ございますが……」
 愛原:「前にうちのリサがお世話になったからね。どういうプールなのか、一度見てみたいと思って」
 サファイア:「かしこまりました」

 私は高橋と別れ、ホームエレベーターに向かった。
 確かに1階のトイレは現在工事中の為、バリケードで塞がれていた。
 その中からはドドド、ガガガという重機の音がした。
 完全にリフォームするつもりでいるようだ。

〔ピンポーン♪ 下に参ります〕

 私はホームエレベーターに乗り込んだ。
 そして、地下1階のボタンを押す。

〔ドアが閉まります〕

 そして、私はふと気づいた。
 地下1階から屋上までのボタンは等間隔で並んでいるのに、地下1階と『開』のボタンの間に、ボタン1つ分のスペースがあることを……。
 しかも、その部分には鍵穴が付いていた。
 最初は操作盤の蓋を開ける鍵穴かと思ったが、どうも位置的に違うような気がする。
 地下1階の隣には1階のボタンがある。
 ということは、反対側にあるのは地下2階ということになる。
 この家の地下室は、地下1階までしかないとしか聞いてない。

〔ドアが開きます。ピンポーン♪ 地下1階です〕

 地下1階でエレベーターを降りると、まずはガレージがある。
 そこには、光岡自動車のガリューが止まっていた。
 絵恋さんを送迎するのに使われる車だが、今は専属運転手の新庄さんが休業中なので、この車も眠ったままになっている。
 あとは黒塗りの高級ミニバン。
 善場主任達が乗っているものと同じだ。
 乗車人数が多いと、これが使われる。
 もう一台は、大富豪の家には似つかわしくない軽ワゴン車。
 これはメイドさん達が買い物に行く時などに使われるそうだ。
 斉藤社長は、今はタクシー会社と契約したハイヤーで通勤しているから、今稼働している車は無い。
 奥の方に行くと、プールがある。
 このプールで、絵恋さんとリサが遊んだわけだ。
 そして、その隣には使用人控室。
 使用人達が地下室で寝起きするのは、実はデフォである。

 愛原:「ここがトイレね……」

 確かに地下1階のトイレは、地上階のそれと比べれば殺風景だった。
 洋式トイレが1つだけであり、和式に切り替わる構造ではない。
 私が調べたいのは、1階のトイレの下に伸びる配管。
 1階のトイレの場所は、だいたい記憶している。
 それからすると、配管は……。

 愛原:「なるほど……」

 白井画廊のように、壁の中を通っているようだった。
 もしもリサの言う通り、和式トイレの排泄物処理法が、『穴が開いて、そのまま下に落ちる』タイプなのであれば、配管は真っ直ぐ下に伸びているはずだ。
 この階をグルッと見て回ったが、特に配管らしき物は見つからなかった。
 ということは、壁の中を通って、更に下に伸びているということになる。
 地下1階にもトイレがあることから、それ自体は何ら不思議なことではない。
 問題は、この下にどうやって行けるかであった。
 取りあえず、一旦戻ることにした。
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“私立探偵 愛原学” 「容疑者・斉藤秀樹」

2021-10-20 19:48:56 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[8月10日10:00.天候:晴 東京都港区新橋 NPO法人デイライト東京事務所]

 翌日になり、私達は昨日あったことの詳細を話すべく、善場主任の事務所に向かった。
 私の報告を聞いた善場主任は、こう言った。

 善場:「斉藤社長が怪しいですね」
 愛原:「斉藤社長が!?」
 善場:「はい。愛原所長は斉藤社長からの情報を得て、白井画廊があったビルを訪ねました。しかし、そこでヴェルトロに襲われたわけです。ブルーアンブレラがいた理由は不明ですけど」
 愛原:「それで?」
 善場:「愛原所長達が行った時、ちょうどエレベーターの点検をやっていたということでしたね?」
 愛原:「はい。それで、いつも週末はいない管理人さんが休日出勤してきたそうです」
 善場:「それで、エレベーターの保守点検業者に確認しました。あのビルでは確かに非常ボタンが押されたことで、点検業者が向かったそうです。しかし、イタズラだと分かって引き上げたとのことでした」
 愛原:「ヴェルトロが化けた偽業者が、辻褄を合わせる為にわざと非常ボタンを押したのかもしれませんね」
 善場:「と、思います。保守点検業者を装ったヴェルトロが管理会社に連絡し、管理人を立ち会わせたのでしょう。そこへ、愛原所長達が来たと」
 愛原:「用意周到ですね」
 善場:「自動販売機の方も、わざとビルの関係者を装って故障であると伝え、しかし、本物の業者は故障が確認できなかったからと引き上げてしまった。そこへ今度は偽業者が来るわけです」
 愛原:「なるほど」
 善場:「問題は、そのヴェルトロに誰が伝えたか、です。私は斉藤社長ではないかと思うのですよ。何故なら、白井画廊の情報を提供したのは斉藤社長だけだからです」
 愛原:「た、確かに……」
 善場:「それと洋式と和式が切り替えできるトイレが、斉藤社長の家にもあったということですね?」
 愛原:「そのようです」
 善場:「しかも、和式にだけ水洗装置が付いていないと」
 愛原:「そうです」
 善場:「実験の為にBOWの排泄物を採取するというのは、日本アンブレラの御家芸です。つまり、斉藤社長は日本アンブレラの影響を受けているということになります」
 愛原:「そんな……!」
 高橋:「で、家宅捜索やるのか?」
 善場:「あいにくと、証拠が無ければ令状は取れません。そこで、今度はリサにお願いがあるのです」
 リサ:「私に?」
 善場:「斉藤絵恋さんは埼玉の実家にいるんでしたよね?」
 リサ:「うん。まだ、東京のマンションが見つからないって」
 善場:「幸いリサは絵恋さんと友人関係です。リサはまた絵恋さんの家に、『遊びに』行ってください。そして、1階のトイレを使わせてもらってください。できれば、和式の状態で」
 リサ:「分かった。報酬は?」
 善場:「……再来月のあなたの誕生日プレゼント、弾ませてもらうよ」
 リサ:「おー!PS5欲しい!」
 愛原:「ゲームやりたがるBOW……」
 善場:「人間らしくていいですね。いいですよ」
 高橋:「大丈夫なのか?いや、姉ちゃんのことだからカネの心配はしてねーよ。そうじゃなくて、PS5は品薄でなかなか手に入りにくいって……」
 善場:「デイライトのルートで手に入れますよ」
 愛原:「高橋、国家権力ナメんじゃねーよ」
 高橋:「さ、サーセン!」
 愛原:「リサ。善場主任がそこまでしてくれるんだから、分かってるな?」
 リサ:「うん、分かった。遊びに行く理由、何がいい?」
 愛原:「絵恋さんはオマエに心酔しているから、特に理由は要らないと思うが……。あ、そうだ!」

 私はふと思いついた。

 愛原:「和式トイレの下を見た方がいい。地下には確かプールがあったな?」
 リサ:「うん。……プールに入りに行かせてもらえばいいわけか」
 愛原:「そうだ」

 リサは自分のスマホを取り出した。

 リサ:「……あ、もしもし。……うん、私。あのさ、これから遊びに行ってもいい?サイトーの家のプールに入りたい。……えっ?どういうこと?……うん。……うん。……そ、そう。えーと……」

 リサが困ったような顔をして私を見た。
 どうやら電話の内容からして、遊びに行くのを断られたらしい。
 あの絵恋さんがリサが遊びに行くのを断るとは、よほど何かあるようだ。
 私はメモ帳に、『また後で電話する』と書いた。

 リサ:「また後で電話する。それじゃ」

 リサは電話を切った。

 愛原:「断られたのか?」
 リサ:「うん」
 愛原:「どうしてだ?リサの方から遊びに行きたいなんて、絵恋さんからすれば願ったり叶ったりじゃないか」
 リサ:「それが、サイトーの家、これから水道工事が入るから断水中でプールに入れないんだって」
 愛原:「断水中!?どうしてだ!?」

 嫌な予感がした。

 リサ:「1階のトイレが壊れたから、修理するんだって」
 愛原:「やっぱり!」
 善場:「どうやら、証拠隠滅するつもりのようですね。普通はトイレ1つ修理するだけで、家全体の水道が止まることはありませんよ。つまり、そうしなければならないほどの大掛かりな工事ということでしょう」
 愛原:「家全体の水道が止まったら、生活はどうするんだ?」
 リサ:「工事中はホテルに泊まるって言ってた。3日後には工事が終わるから、それ以降なら大丈夫だって言ってた」
 愛原:「いや、そういう問題じゃない」
 善場:「先手を取られましたね。本当に強かな人です」
 愛原:「そうでないと、大企業家にはなれないのでしょうな」
 善場:「私は公務員ですので、その思考は理解できません」
 愛原:「ははは……。で、どうしますか?工事中ですけど、行ってみますか?」
 善場:「そうですね……。リサ、絵恋さんはどこのホテルに泊まってるの?」
 リサ:「パレスホテルだって言ってた」
 愛原:「さすが斉藤家。高級ホテルですな」
 善場:「パレスホテル大宮?東京?」
 リサ:「えーと……ちょっと聞いてみる」

 リサはスマホを出した。
 今度は通話ではなく、LINEである。

 愛原:「多分、大宮じゃないですか?」
 高橋:「大穴で立川とか?」
 愛原:「オマエの狙った穴馬は当たらねーだろーが」
 高橋:「サーセン」
 愛原:「ここは本命だろ」
 善場:「斉藤社長にとっては通勤しやすい東京でしょう。同じ丸の内地区ですから、ハイヤー要らずですよ」

 すると、リサが言った。

 リサ:「先生、当たり。大宮だって」
 善場:「よっし!」
 高橋:「さすが先生です。オッズは低いですがね」
 善場:「大宮ですか……」
 愛原:「やっぱり家から近い方を狙いましたね」

 すると、リサがまた言った。

 リサ:「またサイトーからのLINE。サイトーのお父さんがホテルに頼んであげるって」
 愛原:「何が?俺達は泊まらんぞ」
 リサ:「パレスホテルにはプールがあるんだって」
 愛原:「それで?」
 リサ:「本当は会員登録するか、宿泊客は別料金を払ってそのプールに入れるらしいんだけど、私も特別にその宿泊者料金でプールに入れるようにしてくれるんだって」

 斉藤社長はパレスホテルグループにも、何らかのコネがあるのだろうか。
 人脈が凄いって羨ましいな。

 リサ:「どうする?」
 善場:「……リサは絵恋さんとプールで遊んでてください。愛原所長は、斉藤社長の家を見に行ってみてください。リサの送り迎えという形であれば、不自然は無いでしょう」
 愛原:「分かりました」

 一度家に戻り、リサの水着を用意してから大宮に向かうことにした。
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