写真は、建水の南西郊外にある「大板井」。夕暮れ時には水売り人が次々と訪れる。写真の通り、天秤棒をテコに水をくみ上げ、肩に担いで階段を昇り、リヤカーのある路上まで担ぎ上げる。リヤカーに載せられた横置きドラム缶の上部には白いガーゼをヒモで固定し、ゴミなどが混ざらないようにして、水を流し込む。かなりの重労働なのだが、人々は汗だくになりながらも、軽々のその動作をこなす。
暑い日が続いています。熱中症にはくれぐれもお気を付けください。今日は涼しい水の話です。
【建水の水売り人】
建水では、やたらとリヤカーにドラム缶のようなもの(ステンレスかアルミ製で横腹に蛇口が付いている。)を積んだ「水売り」屋とすれ違う。とくに夕餉の支度をする夕暮れ時が多いようだ。また雑貨屋の軒先には「売開水(飲み水売ります)」の文字が躍っていた。黒ペンキで直接、白壁に書かれていた。
雲南では500ミリリットルのペットボトルの水が1本1元なのだが、この水は魔法瓶一杯分(2.5リットルぐらい)で0.4元。自慢の井戸水なのだ、とのこと。
裏通りにある小さな共同井戸から水を汲んでご飯を研ぐ人がいた。そこで水を汲む女性に「水売りの水は買わないの?」と聞くと「買うこともあるよ。井戸によって味が違うのよ。」とニッコリ。穏やかなよい街だ。
さて、夕方5時。この水売りラッシュ時にリヤカーを引く水売人に水汲み場を聞いた。多くのリヤカーが駆けながら「大板井!」と言い残していく。人に聞き聞き、必死で後を追うと、建水城の南・南湖よりさらに南西の街外れへ向かっていた。
やはり水汲みラッシュらしく沢山のリヤカーが行き交っている。この辺りは、中心街の近代建築群とは対称的に、まだ崩れ落ちそうな砂岩質の煉瓦造りの平屋や2階建てばかりだ。道はちょうどリヤカーが通る程度の広さしかない。もちろんアスファルトではなく土の道だ。街より一段標高の下がったあたりにその井戸はあった。
【大板井の豊かな水】
水を満々とたたえた井戸はすり鉢状にさらに標高を下げ、その中心に直径2メートルほどの口がぽっかりと空いていた。底には鯉のような大きな魚が泳いでいる。ちょうど富士山の麓に湧く忍野村の泉のような雰囲気だ。(忍野村の泉群は最近、パワースポットとして有名ですが、その観光客を消した感じが、ここ。)透明だが、飲む前の煮沸は必要なのだろう、としばし、泉を見つめていた。
我に返って水をリヤカーにくみ上げている、細身だが、がっしりとした肩を持つおばさんに写真の許可をもらおうと近づくと、私に掬いたての水を手持ちのひしゃくに入れてくれて、
「飲んで」
と自慢げに渡してくれた。いっぱい予防接種をしたことだし、と腹を決め(医学的に根拠があるわけではありません。)一口飲む。
すると、おばさんは
「涼(リャン/冷たいだろう)!」
と言って私の顔を見、次に自分でも一口飲んで
「甜(ティエン/甘いんだ)」
といって大声で笑った。
さらに、バケツで水をくみ上げてはリヤカーに水を詰め込んで「3つの家にこれから配るのさ」と言って去っていった。カッコイイ。
街に戻り、焼豆腐屋でまた、焼豆腐を焼いてもらう。炭火で丁寧に炙り、裏表を返し続けること10分以上。表面が軽く焦げ、芳香が辺り一面に漂う頃が食べ頃。豆腐がふくらんで、皮がピンと張り詰めると出来上がり。外皮がパリッ、内側には豆腐の気泡がふくらんでいて、ふっくらとしていて、柔らかい。なめらかな舌触り。
パリッ、フワッのコントラストも、味の上品さも、香りの柔らかさも昆明で出会ったものより数段上。本場は違う、と唸ってしまった。 体調は、その後も順調であった。 (建水の水・おわり)