写真は焼豆腐となる臭豆腐を干しているところ。真っ白だった元の豆腐は見事に黄色くなっている。焼くと、プツプツの気泡のせいで外は固く、中はふんわりする。
【じつは特殊な製法・建水の焼豆腐】
あまりにもシンプルすぎる方法のため、中国各地でさかんに作られている各種「臭豆腐」の作り方を集めた本には、どんなに細部まで読んでも出てこない。日本の各種豆腐の本、食物事典もしかりだ。かなりの時間をかけて30冊ほど読みあさり、また、インターネットで調べもしたが、かすりもしなかった。
ちなみに普通は、まず固めの豆腐を作り(ここまでは建水の焼豆腐も同じ)、それを切って小さな固まりとし(建水では刃物で切るのではなく、適当に崩してましたね)、それからカビ付けし(そこまで本格的ではなかったですよね。塩を振って自然のカビ待ちでした)、漬け物の汁の残りをベースにした塩辛い「臭い汁」や酒などに漬け込んで発酵させる(この工程はまったくありませんでした)。各地で臭豆腐のバリエーションができるのは、このカビの種類と付け汁の違い、にあるといって過言ではない。
ただ、豆腐の固まりを20センチほどの布で一つ一つ四角くきっちりと包む、という方法だけに注目すれば、似ている製法が一つだけあった。臭豆腐の製法の特殊なものとして注目される浙江省紹興市(紹興酒のふるさとです)のものだ。
規格は建水のものよりはやや大きく、一片の長さが5.3センチの正方形で厚さが1.8から2.2センチほど。これを臭豆腐用の塩汁に3~4時間漬け込んで出来上がる。この製法だと熱暑の中でも2日は持つという。当然、汁のしたたり落ちる製品となることはいうまでもない。
私も紹興で食べたことがあるが、軽く醤油に漬け込んだ茴香豆のゆがいたものと、この豆腐をゆがいたものを酒の肴に、きゅっと紹興酒、という、日本人好みのさっぱりとした取り合わせ。塩味が深くて、暑さしのぎにちょうどよい味つけだった。魯迅が好んだ酒の肴だと店の主人は話していたが、真偽のほどはわからない。(紹興は、中国の文豪・魯迅が幼少期を過ごした故郷です)
日本ならゆがいた枝豆と冷や奴、というところだが、独特のクセがある紹興酒には、下味のついたツマミの方が合うようだ。
建水の臭豆腐が、「臭」という名を冠しながらも、あまり臭くはなく、しかも干した豆腐のため汁気がない、というのは、じつは中国でも珍しい臭豆腐のようである。一般の「臭豆腐」と豆腐の中間に位置する食品といえるかもしれない。
いや、もしかしたら、これぞ臭豆腐の昔ながらの作り方で、明代に雲南に伝えられて以降、歴史の波間に冷凍パックされたような豆腐なのかもしれない。
ともあれ、標高が1400メートルほどと比較的高く、湿度の低い土地柄と、豆腐に合った恵まれた水環境ゆえに、途中で腐ることもなく、作ることができるのだろう。 (建水の焼豆腐・おわり)
*いやあ、冷や奴のおいしい季節になりました。豆腐の項、長くなっております。予想はしていたのですが、豆腐の奥深さにどっぷり。日本とは違う進化を遂げた中国の豆腐の話、まだまだ続きます。お付き合いくだされば幸いです。