写真上は景洪のタイ族民族村でみた婚礼式の踊り。黄色い衣装の男性が叩いているのが象脚鼓だ。そして象脚鼓をたたく男性のズボンの模様にも象があしらわれていた。写真下は景洪の料理屋に飾られていた布地。刺繍の模様も象だった。とにかく模様といえば象、というほど様々なところに表れている。
【遺産分けの象鼻式】
飼育者の過酷な状況とは別に、やはり素直に人間に人気のある象のこと。生活に密着した用語としても使われているので最後にご紹介しましょう。
おもしろいのが「象鼻式」。財産を分けるときに年配者から順に多く分与されていき、年少者は少なくなる方式のこと。象の鼻が漏斗のように先すぼまりな形になっていることから名付けられたのでしょう。
具体的には1950年代のシーサンパンナの勐海県勐混区の場合、長男が財産の3分の2、弟は3分の1、他家に婿となった男子にいたっては、財産分与はゼロとなっていました。女性も分与されますがこの場合、父母を養う娘や入り婿をとった女性などが対象となっていました。
(《中国少数民族社会歴史調査資料叢刊》修訂編輯委員会編『傣族社会歴史調査』修訂本、民族出版社、2009年)
【お祭りにかかせない象脚鼓】
また太鼓の名前にも象が登場しています。
「象脚鼓」は孟定の水傣に使われる太鼓で、形が象の足のようだから。
胴が木、鼓の皮は牛皮、大小あり、と書かれた文献だけ読むと、日本でも見慣れた太鼓の形のように思えたのですが、そうではなく、象の胴体部分からの脚を一本持ってきたような、長細くて、胴の上辺にふくらみがあり、下の部分もやや円が大きくなった不思議な形をした太鼓です。
傣族というと孔雀の舞が有名ですが、この太鼓を持って、一人ないしは二人で踊る「象脚鼓舞」も男性の踊りとして地元では知られています。お祭りの時には欠かせない舞です。
象の大きさ、勇壮さから生まれた為政者の誇るべき財産であり、最高の他国への献上品でもあり、優秀な戦闘機でもあり、信仰の対象でもあった象。奥の深さに象の章が長くなりました。お読みくださってありがとうございました。
(この章 おわり)