雲南、見たり聞いたり感じたり

雲南が中心だった記事から、世界放浪へと拡大中

雲南の牛⑧ 中国唯一の河流型水牛と2000年来の相棒

2015-11-29 10:24:42 | Weblog
写真はシーサンパンナの景洪で見かけた水牛。真ん中の水牛が小さいので親子かもしれない。大事にされているのか、目がとてもかわいい。飼い主のおじさんの朝の散歩らしい。
 景洪では牛や豚などを綱をつけて、おじさんが散歩する風景がずいぶん見られた。デラックスだ。
 ちなみに、この水牛は沼沢型。一般的な体型をしている。

【檳榔江水牛】
さらに水牛も忘れてはならない雲南ではよく見かける牛です。

その中で特徴的な水牛として雲南6大銘牛に選ばれているのが2つあります。一つは、ミャンマーの中央を流れるエーヤワディー川(旧称イラワジ川)の上流部となる雲南最西部を流れる檳榔江に暮らす檳榔江水牛。肉、乳、役畜兼用型。図鑑を見ると角がクルリと円を描いて、全身が黒黒としたがっしりとした体型の水牛ですが、私は見たことはありません。

中国の水牛は純粋な沼沢型ばかりのなかで、唯一の河流型水牛で染色体の数からして違うのだそうです。河流型はインド西部に多く見られるタイプです。

じつは2008年7月11日に国家の研究結果に基づいて「檳榔江水牛」という名称が付けられたばかり。どちらかというと雲南の生物多様性を示すため、今後の商品化をにらんで選ばれたらしく、研究はこれから始まるところです。


【徳宏水牛】
もう一つが徳宏水牛。雲南のミャンマー近くの徳宏州から西側の臨滄市、保山市、大理市などで幅広く見られる沼沢型の水牛です。

 かれこれ2000年以上の飼育の歴史があるそうで、体格が大きく、頑健で肉質がよい、広く知られています。徳宏州では雲南では最大級の養殖基地をもうけて、国家級の水牛乳加工に取り組んでいます。

【雲南6大名牛とは】
 こうして紹介していくと雲南6大銘牛とは、雲南ならではの特徴的な牛で、さらに今後、雲南唯一という特徴を武器に経済価値をもたせようと、国を挙げて研究に取り組んでいる牛ということになります。

 牛は、有史以来より農耕や運搬などで唯一無二の存在だったところから、車などの広がりで今後、利用が減っていく方向が予想されます。やはり肉や乳製品で価値をつけないと種の保存は難しくなっていくのでしょう。

参考文献
劉偉他、「利用微衛星DNA標記分析檳榔江水牛群体遺伝特征」『畜牧獣医学報 』2011,vol.42,11号,1543-1549
槟榔江水牛养殖技术-在线收看http://www.tudou.com/programs/view/NANMBqCZDPg

※次週の更新はお休みします。いよいよ、雲南が牛のるつぼな理由を解明します。お楽しみに!
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雲南の牛⑦ 本場の乳餅と乳扇にかかせない川牛

2015-11-22 11:56:34 | Weblog

写真は昆明の繁華街で大理料理を出す店で食べた「乳餅炒め」。お皿の下に敷かれた藍染めの布も大理特産の藍染め絞りだ。味は日本のサイゼリアのモッツアレラチーズのようなさっぱりとした味わいだった。
当たり前のことだが乳餅は使う乳の風味が味を大きく左右するので産地や店によって味が少しずつ違う。
一方、大理では人々がもともとチーズを作っていたので食べ慣れているせいもあり、省外から入っているナチュラルチーズを使った窯焼きピザ屋が多く、もっぱらそちらばっかり食べてしまい、大理の乳餅の写真は撮らずじまいとなってしまった。

【雲南6大銘牛4・川牛】
 川は、標高2067メートルの高原・大理水上観光で知られるジ(氵+耳)海の北にあります。

川牛は茶色い一般的な飼育牛(中国語の黄牛)で、中国の黄牛では唯一の乳牛です。またささやかな特徴として目や舌が黒いことが挙げられます。

 すくなくとも600年前(明代)から飼育されていて、1959年には2万8200頭(http://baike.baidu.com/view/1363767.htm)現在は1万2600頭のうち搾乳中なのが2380頭とのこと。

このお乳を使った有名な大理の白族料理に、乳餅(※1)と乳扇(※2)があります。あたためた牛や山羊、あるいはヤクの乳に発酵させた乳やほおずきや木瓜水(※3)などの酸味のある液体を混ぜて、固まりにしたもので、さっぱりとしたフレッシュチーズの味わいです。

使う乳のせいか、独特のくさみがあるものがあり、そのクセがたまらない風味と感じる人も。

この大理の街角でよく見かける乳餅と乳扇を作っているのが川です。昆明周辺の元彝族エリアでも乳餅は作られていますが、「川」乳餅が入荷したときは、お店は誇らしげに文字を書き記して売っていました。売れ行きが違うのでしょう。

ただ、飼育者が加工用乳で収入を上げることは難しいらしく、近年では肉牛としても売り出そうと産品開発区も設けているようですが、いまのところ収入は低下するばかり。
(参考http://m.feizui.com/ztc/7263.html)

また1959年より乳牛として有名な黒白ブチが特徴のホルスタインを導入して川牛を母とした交雑が進み、さらに肉牛として育てようと1997年から茶と白のブチのジンメンタール種の導入を進めた結果、純血な川牛は2006年で母牛が500頭台程度と存亡の危機に立たされているとのこと。

伝統食の危機はこういうところからも起こるのです。人ごととは思えません。

※1 拙ブログの2011年12月25日参照
※2 拙ブログの2007年8月15日参照
(※3中国語辞書で「木瓜」と引くとパパイヤと出てきますが、雲南や漢方薬などで使われる「木瓜」はある薔薇科の植物の果実を指します。日本では「木瓜」でボケの木を指しますが、日本のボケの花よりやや大きめの赤い花が咲きます。さっぱりします。以前、ご紹介したことがありますが雲南特産のゼリー風は夏場の大人気おやつです。)
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雲南の牛6 

2015-11-11 15:30:16 | Weblog
写真は文山州広南県の村で、人間と息を合わせて畑を耕し続けていた牛。この牛の背中には特徴的なコブがある。飼育牛の2大系統は北方系とインド系に大別できると以前、書いたが、この牛はインド系ということになる。

 耕す人は裸足で帽子もかぶらず、ラフなズボンと青いシャツ姿で気取りもなにもないが、牛の毛づやはツヤツヤと輝き、飼い主が作業を止めたときに草を食むと、優しそうな目で飼い主を見ていた。
 山間の盆地の閉鎖的な空間見渡す限りの中で大きな生き物はこの一人と一頭に見えるほどの静かな場所のなか、信頼の太い糸が見えるようだった。


【雲南6大銘牛3・文山黄牛】
 そもそも、山一つ越えただけ、隣村に行っただけで、まったく違う牛がいるのだなあ、と初めて牛に興味がわいたところが雲南中東部の文山州でした。
 
やたら目のくりくりしたかわいらしい栗色の小さな牛がいるかと思えば、いかつく肩にヒトコブある黒毛の大牛がいる。角も上向き、横向き、前向きと様々。牛ってこれほどバラエティに富んでいるの? と魅力にはまってしまったのです。

その文山が雲南6大銘牛の一つに数えられていると知り、やはり、雲南でも珍しい地域だったのだなあと、改めてと納得しました。

この文山黄牛は、いままでご紹介したヤクやミタンのように、なにか別の種の牛というわけではありません。

山や谷の多く複雑な地形と湿潤な気候に合わせて生きられるほど丈夫で繁殖力も強く、力仕事にもよく耐え、性格も温和で、肉質もよい、このあたりの一般的な家畜牛の総称です。背中にコブのあるものもいれば、ないものもいる、大きさも色もまちまち。「文山黄牛」と一つも名前で括っていいものかと疑問に思うほどのバラエティに富んだ、文山の牛です。

文山州の歴史的な中心地である広南県から毎年、県外、遠くは外国にまで2万頭近くを肉牛もしくは種牛を輸出するほどの一大ブランドとなっているとのことです。
(つづく)
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雲南の牛⑤ ミタン

2015-11-06 11:22:50 | Weblog

写真はシャングリラ(中甸)の草原でじっと人間を観察する子供ヤク。呼べば犬っころのように付いてきそうなかわいらしさが漂う。子供なのでまだ角はない。大人に比べてやや額が相対的に広く見える。
首に鈴をつけているのは子供のヤクだけだ。まだあどけない子供なので逃亡および盗難防止のためなのか、それとも大人ヤクは気性が荒くて付けられないだけなのだろうか。


写真は維西のヤク。この草原に放牧されているヤクには皆、きれいな耳飾りが付けられていた。シャングリラより標高が1000メートルほど下がるためか、体高が小さくなっている。



【雲南6大銘牛2・ミタン】
雲南ではサルウイン河(怒江)やメコン河(瀾滄江)の上流域に住む独龍族がとくに大切に飼育するミタン(インドではガヤールと呼ばれる)。ヤクと同じく家畜牛とは別の系統の近縁種です。森林に適応した額の広い、家畜牛よりやや大きめの牛で、独龍族が祭祀の犠牲とする特別の牛として知られています。

ヒマラヤ山脈周辺地域でヤクの飼育がより困難なより標高の低い地域で飼われています。
独龍族と同じ起源を持つインド東北部の中国との国境紛争地帯に住む集団も同様にミタンを飼育していて、ここから18世紀にはブータンにも供給されたそうです(※1)

そのブータンでは森に野良牛状態で飼われていて、ミタンと飼育牛の交雑がとても多いとか。
※1 川本 芳「ヒマラヤのウシから見えてきたこと」京都大学霊長類研究所 ゲノム多様性分野 研究こぼれ話9 2011年7月)

意識してミタンを見ていなかったのですが、雲南北部のヒマラヤ山脈に通ずる中甸より標高のさがった維西への道すがら、やや額の広い牛を時折、見かけました。もしかするとミタンの血が混じっているのかもしれません。
(つづく)
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