写真上は金太塘排灌所全景と出水口(官渡区六甲郷星海辯事所馬橋村・2010年夏撮影。以下同)。もともと金太塘は1950年代の毛沢東が発動した「大躍進」の時に「囲海造田」という嵐のような政治運動の一環で人々が土袋を次々に滇池に運び埋め立てた地の一つ。この排灌所は盤龍江の水を川藻に浮かぶ藻やゴミなどをただ濾過して排水し農業用水として灌漑するために作られた施設である。
現在はこの寂しい場所をホテルという名の宿泊所にしている。
ちなみに2009年に同所を見た人は、川の水は真っ黒で時折、白いアワすら浮んでいたという。
(関注滇池http://blog.clzg.cn/blog-30484-79149.html)。
ただ2010年初頭から第7下水処理場が稼働し、さらに2011年秋に第8下水処理場が稼働すると、理論上では水質が最低の劣5類だったものが4類にまで改善されて滇池に注ぐようになるとのこと(「中国低炭素経済網」2011年10月25日、昆明市滇池管理局http://dgj.km.gov.cn/structure/news/gg/content_252927_1.htm・http://dgj.km.gov.cn/structure/news/gg/content_251973_1.htm)。
とはいえ4類ではまだ工業用水にも使えない。また、明らかな水質改善は報告されていない。
盤龍江の河口にて。
タヌキ藻などがういている。
【さびしい生態公園】
河口はやはり、灰色の水と緑の藻が浮き、アオコの発生により緑の絵の具を溶かし込んだようなすさまじい光景になっていた。臭いも強烈。河口近くにはさびれた排水灌漑施設が稼働し、職員が出入りしていた。ただ施設を通過した水の出口を見ても藻は浮いていて水質の改善は見られない。稼働もしているのかどうかすら、よくわからない。
そして午後3時の昼下がり(中国全土が北京時間なので昆明の朝は真っ暗、午後7時を過ぎてもまだ明るい、ということがあるのです。)、河口横には近所の裁縫好きのおばあさんと歌好きなおじいさん、それと管理人がぽつんといるだけの、わざとらしいほど、見事に植栽された生態公園なるものが出来上がっていた。木には栄養剤のチューブがぶらさがり、赤土の上に緑の芝生が置かれていた。時間によっては地元の人々の憩いの場となるのだろう。
写真上は2009年12月30日に2500万元をかけて80種類の水生植物を植えるなどして完成させた滇池湿地公園。木々には黄色い栄養剤がぶらさがっている。写真下は湿地公園脇を通る盤龍江河口。
湿地公園は昆明市中心部へと一本で行ける湖賓東路の建設、盤龍江河口に立派な別荘のような邸宅地区や小学校などを建てる滇池周辺地区の大規模開発の一環として造られた。おかげでかつての漁村は、災害もないのに徹底的に破壊され、除かれてしまった。
【タヌキ藻で水質浄化?】
ちなみにアオコは、栄養豊富なリンが池の底にたまり、酸素が不足してくると、植物性プランクトンのミクロキスティスが大発生したもののこと。動物性プランクトン以外に食べるものがいないので、条件がそろえば増え続ける。
そして増えすぎて死滅すると濃い緑色のインク状になって池の隅にたまる。すると強烈な鼻につくようなにおいになって生活に影響する。これらの発生を抑えるには、
①水の流れをつくる、②池の底に酸素を増やす、③水生植物を利用して窒素やリンを減少させる、
の3つの方法があるのだそうだ。
滇池は水たまりのような状態なので水の流れはほとんどない。水の流れをつくるにしても面積297.9平方キロメートルもの広さをどうすればいいのか。つまり①の解決法は難しい。
②は酸素を増やすポンプの設置ということになるだろうが、これも広さに対して難しい。
そのため、昆明市政府は③を熱心に行っている。具体的には滇池に生える水草をひたすら人海戦術で回収し、トラックにゴミとして詰め込んで行く、もしくは近くの農村に持って行って堆肥に使ってもらう、というものだ。
2011年4月29日の地元紙・春城晩報で、水に浮かぶタヌキ藻を昆明市官渡区の13の河川に2万㎡植栽したと報道された。タヌキ藻の寿命は520年とか。これらはアルカリ、リンの富栄養物質を栄養源とするので、水質の浄化に役立つばかりか、増えてきたところで、計画では年間100万トンを回収するとアルカリ1500トン、リン430トン、さらに鉛、銀などの重金属物質の回収もできるという。
この方法は格安な上、効果も確実、さらに回収した藻を発酵させるとタンパク質を含んでいるので、動物の飼料や有機や無機の肥料、保健品、各種薬品や飼料添加剤を作ることができる、と書かれていた。
そして、実際に人々が小さな平船に乗って、せっせとタヌキ藻を回収しているのであった。
最後の数行の回収した藻を再利用して人が食べるものに使っては元も子もないはずなのだが、水質改善だけに頭がいってしまっているのか、まったく考慮されていないのが悩ましい。実際、近くの漁村の肥料として大量にトラックで送られた、という農民の感謝の笑顔とともに記事が載せられているものもあった。
日本でも無農薬有機野菜の中には、様々なもの由来の食物残渣を堆肥として使ったために、へんな味のトマトができた、などという話を、笑いながら当の農家の方に話されて困ったことがあったが、有機堆肥はよくよく考えないといけない。
日本でもかつて湖の浄化が喫緊の課題の時、様々な方法が検討されたが、③は手間も時間もかかるし、回収した藻の持って行きどころがないという問題もあってあまり熱心に取り組まれることはなかった。
それを昆明では主軸に据えているのであった。
(つづく)
*今週は長文ですみません。来週は更新をお休みします。