写真はお目当てのファドハウス「ミザ・ド・フラッジュ(MESA DE FRADES)」。訪れたときはこのドアすらも閉まっていた。
【ポルトガルの心を謡うファド】
「ファドって興味あります?」
ポルトガル南部へと調査を続けている研究者一行を待つ間、リスボン市内で史料調査をしている日本人女性と食事の約束していたのですが、思いがけないお誘いへと発展しました。
彼女は以前、メキシコの調査でもお世話になったスペイン語堪能な歴史研究者Mさん。どこかふんわりとした雰囲気の、背に羽衣でも隠し持っているようなお方です。彼女も生でファドを聞くのははじめて、とのこと。
その日の午後6時にタクシーで一路、ファドハウスのメッカ・アルファマ地区へ。
夕暮れ時の小さな広場では、近所のおじいさんやおばさま方が手作りのアクセサリーや革製品を売る青空市場がちょうど店じまいを始めていました。広場に面した常設店では細いウールの毛糸で編み上げた赤ちゃん用コートや帽子なども売られていて、
「子供が小さかったら絶対、買いますね」
と女子(?)トークで盛り上がります。ふと気づくと、いつの間にか彼女は真剣なまなざしでお土産の品定めをしていました。
日が暮れなずむ午後7時ころ、目当てのファドハウスをグーグルマップで探しました。それは広場後方にある北斜面の中ほどを指していました。
ところが、そこに行ってみると石畳の細道に沿った壁にぴったりとはめ込まれた、大きくて重そうな木製のドアがあるだけ。ドアはぴったりと閉まっていて中は見えません。人がのぞける高さの窓もありません。ドア横の、黒い板に金文字で小さく掘り出されたレストラン名が唯一の手掛かりです。
「ほんとうにここかしら? リスボンの友人に、ここの歌い手がいまキテイル、と教えてもらったのですが。」
と、Mさんはふしぎそうにつぶやくと近くを歩く人に聞いてみました。
「ここだけど、店が開くのは8時半ごろからだよ」
どうやら、私たちが早く来すぎたようです。
インターネットで、すでに食事つき鑑賞チケットを予約してくださっていたので、さらに周辺を散策して時間をつぶすことにしました。
(つづく)