雲南、見たり聞いたり感じたり

雲南が中心だった記事から、世界放浪へと拡大中

鉛が中国の子供を脅かす4

2006-08-30 17:26:05 | Weblog
写真は昆明。強烈な陽射しのため、女性は雨傘を日傘としてもよく使用する。この陽射しに目のくらむ空気の悪さが加われば、光化学スモッグも起きていることだろう。ちなみに新聞には洗濯指数はないが、紫外線情報は掲載されている。

【水道管の鉛】

 鉛は昔から自然界に存在した。だから衛生研の研究員の発言も完全に間違いではない。でも産業革命、とくに1923年にアルキル鉛がガソリンに添加されて以来、大気中に莫大な量の鉛が放出され、広く一般の人間も鉛の汚染を受けるようになったのだそうだ。北極の氷を調べるとそれが顕著などだという。

 一年ぶりの昆明の空気の悪さは相当なものだったが、日本も完全に鉛汚染から免れているわけではない。ゴミ焼却灰やたばこの煙、一部の陶磁器の釉薬、それに以前、水道管の主流だった鉛管が汚染の源となっている。水道管は現在ではステンレス管へ多くが切り替わったとはいえ、いまなお鉛管が残っている地域もあり、その場合は朝一番の水などに鉛が溶けだしている。
 WHOの飲用水の水質基準では鉛濃度は0.01㎎/ℓ以下。日本では92年12月に従来の0.1から0.05へととりあえず厳しくし、つい最近の2003年にようやくWHO並みとなった。そうしないと水道業者が財政的に間に合わず、新たな基準を達成できないためだという。

 わが家も古いので不安になって市水道局に電話してみると、すぐに家の水道管の材質を教えてくれた。幸いステンレスだった。「住民への基本情報」だそうなので、不安な人は聞いてみるといいだろう。

【キレやすい子供】

 鉛中毒は重症になると貧血となり、手の麻痺、腹痛、脳障害などの症状がでる。低量でもその影響は大きい。不妊や疲労感もそうだし、とくに子供には深刻だ。1989年、スコットランドでの子供への調査では注意欠陥による衝動的暴力傾向が見られる児童の鉛レベルは平均10.4μg/㎗だった、という報告がある。また異論もあるようだが、1993年のアメリカ小児科アカデミーの研究によると、血中鉛濃度が10μg/㎗増加するごとに、子供の知能指数が5程度ずつ低下したという。

 平均知能指数が5ポイント低下すれば正常な知能指数以下の人数が50%増えることになるという。今回、対岸の火事として調べはじめた鉛中毒の問題が、じつは「キレやすい子」など昨今の問題に大きく関わっているかもしれないと知り、影響の大きさにボー然とした。

参考文献
和田攻『金属とヒト』(1985、朝倉出版)
堀口俊一『環境中の鉛と生体影響』(1997、財団法人労働科学研究所出版部)
加賀屋実『環境毒性学 上巻』(昭和52年、日刊工業新聞社)

次回から、子供の教育と幼稚園レポートとなります。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

変わるもの、変わらないもの

2006-08-24 12:50:32 | Weblog
 写真は昆明の中心街裏にある景星花鳥市場の金魚売り場。この市場では、蘭の苗や鉢の他、翡翠などの雲南各地の特産品がずらりと並ぶ。商品はピンキリなので目利きが必要。
【雲南、夏旅の報告】
 8月7日から11日間、上海経由で雲南省の省都・昆明とそこから200キロ南下した古城・建水、石屏にいってきました。建水と石屏は、雲南省では清の時代には科挙の合格者を頻繁に出す「文化と商業の街」として栄え、また数々の雲南特産グルメの発祥地として知られています。なかでも豆腐の産地として名を轟かせていることから、ぜひ当地の豆腐屋を訪ねたいとの熱い思いで出掛けました。そのことは、後に詳しく報告したいとおもいます。

 さて、昆明は2年前に比べるとますますマンションの建設ラッシュに拍車がかかり、夕方にはあの、懐かしい(?)クラッとくるような車の排気ガスが充満し、目に突き刺さるようでした。今回、上海でもひどい渋滞を経験しましたが、昆明ほど空気はひどくなりません。無鉛ガソリンの規制が上海では徹底遵守されていることも予想されますが、以前、昆明を訪れた日本の農・人類学者が酒の席で「昆明は高地やから、ガソリンが不完全燃焼起こして、空気悪いんとちゃうか。」と言っていたことが、一理あるのかもしれません。

 他にも通い慣れたスーパーストアの看板がかけかえられていたり、2005年12月のセールのポスターのまま、「差し押さえ」の公告が寂しく貼られたまま、いまだ主の定まらない建物もあったりしました。それは私の住んでいた2004年の冬に、そのスーパーが社運をかけて昆明の目抜き通りに華々しくオープンした総合百貨店でした。雲南でうまくいっていたため、北京などにも進出し、雲南の誇る10社のうちの一つに数えられていたのですが、関連会社の大連の冷蔵加工倉庫の支払いが滞ったことが原因で、一気につまづき、順調だったストア経営も差し押さえの対象となって倒産してしまったのでした。利益の薄いスーパーストアの経営では、運転資金が少しでも滞ると、立ち直れないほどの打撃となるようです。おそらく中国では北京オリンピックを待たずしてバブルの崩壊が始まっているのかもしれません。

【懐かしい人たち】
 でも、住んでいた宿舎では、私を見るとすぐに「元気かい? どうしたの?」と喜ぶ守衛さんに会えたり、娘が頻繁に通った子供を遊ばせる公園「方円武園」では、いつも子供の遊具を管理するおばさんに「しばらくぶりだねえ」と声を掛けられたりと、うれしい再会もありました。一見、シャイでクールに見える昆明の人々の情は意外と濃いようです。

 今回行って、改めて気づいたことがあります。今から20年近く前、1988年に中国(北京、上海、蘇州、南京。偶然にも、私が上海から蘇州へ移動する列車の次の時刻の同じ路線で列車事故にあった高知学芸高校の修学旅行グループには上海でよく遭遇した。帰国してから、その事件を知り愕然。つまり中国ではまったく報道されていなかった)を始めて訪れたときに感じた「得体の知れない活気があるけど、歴史の重さに押しつぶされそうな人々」だと感じた影が、雲南では一年を通して、まったく感じられなかったこと。

 今夏は上海で2泊したのですが、今や近代高層建築の見本市のような街となってはいても、例えばフランス租界地だった衡山路には、今なお往時を忍ばせる建物が立ち並び、建てこわし中のビルの壁には数十年ぶりに日の目をみたであろう「1948年。ここに到達」などという荒々しいペンキ文字がふと、出てきたりして、やはり歴史の亡霊のようなものがまとわりついているような気がしました。

 軽やかな、いい意味でも悪い意味でも歴史の重みを纏わない街。それが昆明であり、雲南なのでしょう。それは文字文化が未発達な少数民族が暮らすところだったことと関係があるのかもしれません。文字文化、いやでも記憶を残そうとする文化の意味を考えさせられました。

 さて、雲南で仲良くなったお母さん方とも会ったのですが、幼児教育は、ますます過熱の一途を辿っていました。「鉛汚染」の章を後に、最新報告を交えて、まずお届けしたいと思います。どうぞ、今後ともお付き合いください。

コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

鉛が中国の子供を脅かす3

2006-08-03 22:20:59 | Weblog
写真は昆明の中心地を流れる玉帯河。水はよどみ、においもひどい。
【基準値の甘すぎる日本】
 ひるがえって我が日本での対策は万全かというと、調べれば調べるほど鉛汚染の上限値が世界の後進国であることに気づかされる。中国での血中鉛の正常上限値は99μg/ℓ、つまり9.9μg/㎗で、世界保健機関(WHO)が安全とする基準値10μg/㎗に準じている。ところが日本では上限値の目安として40μg/㎗という日本産業衛生学会の生物学的許容値があるだけなのだ。生物学的許容値とは、この値の範囲内であれば、ほとんどすべての労働者に健康上の悪い影響が見られないと判断される濃度なのだという。

 同学会では、そのような基準値を設ける一方で、30~40μg/㎗で平衡機能の変化や抹消神経伝導速度の低下が始まると、自らの基準値の甘さを認めるかのような指摘も発表している。しか日本での大規模な測定では、子供を対象としたものは皆無で、大人に対しても高度経済成長を過ぎたころから、行われていない。

【1970年、新宿の事件が大規模測定の最初で最後】
 その測定も、自動車の排ガス中の鉛による健康障害が新聞沙汰になり、初めて本格的に始められた。時は高度経済成長期の1970年、場所は東京都新宿区牛込柳町。皇居から2キロほど離れた所を一周する外苑東道と大久保通りの交差点付近でのことだ。

 1970年に民間団体がその住民を集団検診したところ、多くが鉛中毒と診断され、新聞沙汰となった。これを受けて翌年、東京都立衛生研究所がのべ2000人以上を調査したところ、鉛患者は1名もいない、ということで事態は一方的に収束された。

 以後、同研究所は追跡調査を続けたが、10年後、血中鉛濃度が著しく下がったとして終了となった。その時の数値が残されているので見ると、1971年のものでは最高値が36μg/㎗で平均は10μg/㎗+-5.9、1980年のものでは平均5.6μg/㎗+-2.0。

 確かに最高値でも日本の上限値を超えてはいないが、他国では不眠や痙攣などが出ると報告されている値である。

 先日、東京都立衛生研究所改め健康安全研究センタ-に問い合せたところ、当時の担当者に話を聞くことができた。基準値については「住んでいる地域や環境によって変わってきます。40μg/㎗以上の数値で発症しない人もいますし、なんともいえません。」とのこと。さらに「鉛問題は欧米では敏感な問題ですね。」日本では終わってしまった話として片づけられてしまった。
 中国では鉛中毒について国が積極的に規制している。この姿勢の違いは大きい。
(この話、つづく)

※8月7日より18日まで雲南省に行っまいりますので、その間の更新は原則、お休みとさせていただきます。もし現地でインターネットカフェを見つけたら、いつもと違った、日記風の形で更新したいと思っています。機械音痴なので難しいかもしれませんが。
 今後ともよろしくおつきあいください。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする