写真は、福建省の世界遺産・武夷山から40キロほど離れた城村遺跡(現在は閩越王城遺跡と呼ばれている。2001年撮影)。越王勾践の子孫が前漢の時代の呉楚七国の乱に荷担して破れ、南下してつくった王宮とも別荘とも言われる。
文献資料が乏しく、実際のところは定かではないが、大きな建築物があったであろう礎石と奇妙な彫り石がが点在していた。おそらく繁栄の時からあったものだろう。あとは草木が茂るばかりだった。
当時は武夷山が世界遺産になったばかりで、この遺跡も観光化しようとしたのか、閩越王像、ガイドは「越王勾践」像と呼ぶものが博物館の前に建てられたばかりだった。草原に映える白く巨大な石像がいかにも暑そうだった。
近年では、さらに無理にコンクリートで再現した城壁などを作り上げ、逆に遺跡の価値を損ねている感がただよう。
【酸牛肉はナレズシと同じ】
さて、2週前にご紹介した「酸牛肉」。これが魚なら、滋賀県のナレズシそっくりです。
シーサンパンナは日本の夏と同じく蒸し暑いので、タンパク質を塩してお米でつけ込めば、乳酸発酵によってアミノ酸に分解され、保存がきくというわけです。
ただし、ナレズシが日本でも奈良時代の『延喜式』に貢納品として出てくるほど、由緒ある食べ物にもかかわらず、独特の酸味と風味が現代人にそれほど広くは受け入れられていないように、酸牛肉も正月料理に特化しているようです。少なくともタイ族の料理店では見かけませんでした。
【生肉の胆汁かけ】
さらに、すっぱい、を通り越した牛肉料理がタイ族では正月料理にありました。
昨年末、NHKのBS2の「コウケンテツが行く中国・雲南」に、シーサンパンナタイ族のおばあさんがつくる旧正月の料理が紹介されていました。そこには、生の牛肉に苦い胆汁をまぶす料理が。かなり衝撃的だったので、ご紹介します。
① 新鮮な水牛の生肉をペースト状になるまでたたく。それに、ハーブや唐辛子などを混ぜ込む。
② 水牛の十二指腸の中の汁(胆嚢からつくられた胆汁が押し出されたもの。緑色をしている)を押し出して、煮出す。
③ ①にかけ、混ぜる。(番組では、かなり苦いらしいというリアクションあり)
④ その上、さらに水牛の胆嚢から絞り出した胆汁をかけて混ぜる。
コウケンテツさんは胆汁を「脳天をつくほど苦い」、とおっしゃっていましたが、肉と混ぜると「苦さの中にあまみがある」とコメント。
これを見ていて思い出したのが、「臥薪嘗胆」の話です。春秋戦国時代の越王勾践が会稽で呉に破れて帰国した後、いつもにがい胆を嘗(な)めて報復を忘れまいとしていた、それが転じて「将来の成功のために長い間、つらく苦しい思いをすること」を指す四字熟語になりました。
それほどひどい苦さの胆汁ですが、タイ族の料理から考えると、それはごちそうだったのかもしれません。胆汁には油を分解する一種の界面活性剤が含まれているので、肉の油成分に作用して、少なくとも舌触りがなめらかになるのでしょう。
ちなみに豚の胆嚢は、中国では漢方薬として使われ、解熱、解毒などの作用があります。また、2000年前の漢の時代から豚の胆汁に蜜をまぜたものを灌腸の座薬にしていたという記録があるようです。
(つづく)