写真は昆明の市場で買ったこんにゃく。味噌売り場のおばさんがいつも、赤い洗面器に水を張り、中に数個のこんにゃくを浮かべて売っていた。味は日本のこんにゃくとたいして変わらない。気泡が多いせいか、味のしみこみがよく、やわらかい。
【雲南では当たり前】
雲南には、植物の原産地と呼ばれるものが多い。お茶、米、桜草、ある種のバナナなど。沖縄西表島を中心とした低緯度帯に、海抜74メートルから標高6740メートルまでバラエティに富んだ地理環境があり、加えて適度な降雨、深く切り込んだ谷間などが様々な種類の植物をはぐくんだのだろう。こんにゃくもその一つ、といわれている。
いわゆる中華料理にはこんにゃくを使う料理はないのだが、中国西南部地域、とくに四川省、貴州省、雲南省には、ごくごく普通に、存在する。
里芋の大親分のような、ちょいとグロテスクなこんにゃく芋を磨りつぶし、あるいは粉状にして水に溶いてのり状にし、灰や石灰などのアルカリで凝固させ、火を通した日本でおなじみのあの、こんにゃくである。
日本人にとっては「こんにゃくでしょ? それがなにか。」といわれそうだが、中国ではじつはとっても珍しい存在なのである。かつて北京出身の中国人にこんにゃくの話をしたことがあるが、「中国で見たことがない」と一蹴されてしまった。『中国食物事典』(柴田書店)などの食物の本や一般の辞書を見ても、「コンニャクは中国全体でみても重要な野菜ではない」「コンニャク食の少ない中国では、工業用原料と輸出用が主である。最近北京の市場で日本のコンニャクと(中略)まったく同一のコンニャクを見た。」と記されるほどなのである。
じつは雲南料理と銘打った伝統料理の数々を調べ上げても、こんにゃくを使った料理名はほとんど見あたらない。だが、気取らない家庭料理に、当たり前の顔をしてさりげなく入っている。
昆明では不思議と大型スーパーでは、見つけにくいのだが、一般の市場なら、必ず味噌などの調味加工品区コーナーを見れば売っている。
手でちぎったようにざくっとした手触りの、肉まん程度の大きさの団子状のものか、洗面器で固めた不定形なものを500グラム単位で切りわけてくれる。日本のような、わざわざヒジキなどの海藻を混ぜて体裁を整えているあの黒い粒々はなく、灰色に切り分けると中がほんのり黄色みがかったような色をしている。食感も日本で機械生産された一般的なこんにゃくほど固くはなく、ふわっ、ぐにゃっとした食感。家族経営のように作っているところが多いので気泡も多く、やわらかくて味のしみこみがいい。鍋に入れたり、炒め物に加えたりして使われる。
一年間、中国で暮らそうと考えていた時、住む場所の選択の決め手となったのが、じつはこんにゃくだった。
「北京や上海などでは見かけないこんにゃくが、雲南の市場では普通に売っていた」と家人が見てきて、これなら、日本料理の素材を揃えて日本料理の自炊で一年間は体調の維持ができる、と踏んだのである。
雲南省南部のシーサンパンナでは、刻み唐辛子と香菜ふうのなにかの草入りのこんにゃく玉も売られていた。日本でこのようなこんにゃくは見たことがなかったので、そういえばそういう加工法もあるのだなあ、と感心してしまった。私は見たことはないが、四川省には、こんにゃくを凍らせて、水分を抜いた「凍みこんにゃく」もあるそうだ。 (つづく)
【雲南では当たり前】
雲南には、植物の原産地と呼ばれるものが多い。お茶、米、桜草、ある種のバナナなど。沖縄西表島を中心とした低緯度帯に、海抜74メートルから標高6740メートルまでバラエティに富んだ地理環境があり、加えて適度な降雨、深く切り込んだ谷間などが様々な種類の植物をはぐくんだのだろう。こんにゃくもその一つ、といわれている。
いわゆる中華料理にはこんにゃくを使う料理はないのだが、中国西南部地域、とくに四川省、貴州省、雲南省には、ごくごく普通に、存在する。
里芋の大親分のような、ちょいとグロテスクなこんにゃく芋を磨りつぶし、あるいは粉状にして水に溶いてのり状にし、灰や石灰などのアルカリで凝固させ、火を通した日本でおなじみのあの、こんにゃくである。
日本人にとっては「こんにゃくでしょ? それがなにか。」といわれそうだが、中国ではじつはとっても珍しい存在なのである。かつて北京出身の中国人にこんにゃくの話をしたことがあるが、「中国で見たことがない」と一蹴されてしまった。『中国食物事典』(柴田書店)などの食物の本や一般の辞書を見ても、「コンニャクは中国全体でみても重要な野菜ではない」「コンニャク食の少ない中国では、工業用原料と輸出用が主である。最近北京の市場で日本のコンニャクと(中略)まったく同一のコンニャクを見た。」と記されるほどなのである。
じつは雲南料理と銘打った伝統料理の数々を調べ上げても、こんにゃくを使った料理名はほとんど見あたらない。だが、気取らない家庭料理に、当たり前の顔をしてさりげなく入っている。
昆明では不思議と大型スーパーでは、見つけにくいのだが、一般の市場なら、必ず味噌などの調味加工品区コーナーを見れば売っている。
手でちぎったようにざくっとした手触りの、肉まん程度の大きさの団子状のものか、洗面器で固めた不定形なものを500グラム単位で切りわけてくれる。日本のような、わざわざヒジキなどの海藻を混ぜて体裁を整えているあの黒い粒々はなく、灰色に切り分けると中がほんのり黄色みがかったような色をしている。食感も日本で機械生産された一般的なこんにゃくほど固くはなく、ふわっ、ぐにゃっとした食感。家族経営のように作っているところが多いので気泡も多く、やわらかくて味のしみこみがいい。鍋に入れたり、炒め物に加えたりして使われる。
一年間、中国で暮らそうと考えていた時、住む場所の選択の決め手となったのが、じつはこんにゃくだった。
「北京や上海などでは見かけないこんにゃくが、雲南の市場では普通に売っていた」と家人が見てきて、これなら、日本料理の素材を揃えて日本料理の自炊で一年間は体調の維持ができる、と踏んだのである。
雲南省南部のシーサンパンナでは、刻み唐辛子と香菜ふうのなにかの草入りのこんにゃく玉も売られていた。日本でこのようなこんにゃくは見たことがなかったので、そういえばそういう加工法もあるのだなあ、と感心してしまった。私は見たことはないが、四川省には、こんにゃくを凍らせて、水分を抜いた「凍みこんにゃく」もあるそうだ。 (つづく)