スペイン・マドリードの中心であるマジョール広場のすぐ近くにある世界最古のレストランとギネスブックに認定されているレストラン・ボティン。狭い店内に料理をサーブする定員が大勢行きかい、活気も威厳もあるお店。写真上は耐熱皿に盛られた子豚の丸焼き。写真下はそれを店員が一人用に切り分け、盛られた様子。
【ルーツとなる豚の丸焼き】
さて子豚の丸焼きは広東の人には広東料理と認識されています。中国のサイトにもそのように説明されています。
また『中国飲食大辞典』(林正秋、徐海栄編、1991年・浙江大学出版社)には、皮をパリッとさせながら、全体をあぶる「烤乳猪」は陝西省あたりの料理と書かれています。陝西省は、今から3000年以上前に建国された「周」以来のずっと大都市として君臨していた長安(現在の西安)や秦の都・咸陽を擁する地です。おおかた宮廷料理の一つだったということでしょう。
丸焼きは料理法としては単純です。日本でも魚など獲物があれば、とにかく火であぶって食べれば丸焼きになるのですから。ただ、大きさが違う。豚ともなると中心まで火を通すには、外側が焼きすぎで焦げて炭化するのを防ぐ知恵がかかせません。その方法が宮廷料理として研ぎ澄まされてきたということ。
作り方は豚の内臓をとって形よく棒で貫いて、ひたすら遠火の炭火でじっくりとあぶる。たえず回転させて、同じところに火かあたって焼き焦げないように注意する。とにかく手間と時間が必要です。豚一頭を使う贅沢さもあります。
紀元前の儀式がかかれた『周礼』『儀礼』などを見る限りでは、豚は、まず、各部位に切り分けるところから描かれているので、一頭まるごと焼き上げる技術は、すぐにはできなかったと思われます。いつごろに確立したものなのかは考える必要がありそうです。豚を丸ごと入れられるかまどと、大量の炭火はかかせません。
広東料理では豚の表面に砂糖水をかけて、ハリとつやを出し、腹の中側には香辛料やみそを薄く塗って香りを出します。
一方、フィリピンのごちそうレチョン。純粋に炭火で焼くだけのものもあれば、とある店のレチョンは、腹に塩、胡椒、レモングラス、玉ねぎ、にんにく、ローレルなどを豚の内側に詰め、腹を縫い合わせてから、ココナツ水を皮にかけてじっくり焼いています。https://cebu-sakura.com/column/article/index/34/
私が路上でいただいたものは、そこまで手が込んでいないほうでしょう。
スペイン料理にも子豚の丸焼きはあります。コチニージョ・アサードといい、耐熱陶器のお皿に載せてオーブンで焼き上げます。食べる時にはお店の人が必要量を切り分けて出してくれます。
スペイン・マドリードで子豚の丸焼きで有名なお店「ボティン(Botin)」。
皿の上には各種野菜や香味野菜とともに子豚からあふれ出た脂で焼き上げられた子豚。外はパリッ、中はジュワッとした食感。
私も行って食べました。岩塩が効いて、ワインやビールとよく合いました。この店は1725年創業。当時の雰囲気のある室内で、ヘミングウェイも通った名店。彼の『日はまた昇る』には、「ボティンは世界一のレストラン」と書かれているほどお気に入りの店でした。