雲南北部のシャングリラの青稞酒工場。工場の敷地内には人がすっぽり入ってすまうほどの大きな黒い甕が何十も置かれていて、蒸留の時を待っていた。
【青稞酒の造り方】
醸造酒で、伝統的な造り方はとても簡単。青稞を洗って、煮た後、人肌まで冷まして、草麹を割って加え、陶器の入れ物に詰めたら、密閉します。このまま2,3日待って、水を加えてできあがり。微炭酸で淡黄色。度数も10度前後。ビールの元祖のような造り方といえるでしょう。
2,3年埋蔵すると蜜のようになり、濃い味と香気がたまらない、といいます。
2007年には青稞酒とその醸造技術が雲南省の第2批1類非物質文化遺産に登録され、2011年には中国3類非物質文化遺産に登録されました。非物質文化遺産とは日本の無形文化遺産のことで、中国で2006年から登録が開始されたものです。歌や劇、音楽、祭り、伝統芸能など開始当時は漢民族関係の登録が多く、開始後5年目にして雲南省の少数民族の食物文化にまで目が届くようになり、現在、国家4類までで1300以上が登録されています。
雲南では、ほかに食品分野ではプーアル茶や過橋米線などが登録されていますが、酒では唯一、非物質文化遺産の国家級に登録されている酒です。
もう一つ、雲南省級の非物質文化遺産に登録されているお酒があるのでご紹介しましょう。
2013年に新たに昆明市嵩明県楊林鎮の特産である『楊林肥酒』が登録されました。このお酒は明代の医学者蘭茂が記した【滇南本草】(明の李時珍の【本草綱目】の100年前に書かれた薬草の本。本草綱目に取り込まれた筆記が多いことで知られる。)に取り上げられた薬用酒です。
原料はトウモロコシ、米、大麦で蒸留酒の「白酒(パイチュウ)」を造り、そこに党参、陳皮、ウイキョウなどの10種類以上の漢方薬にも使われる原料と蔗糖、蜂蜜を加えたお酒で1880年に蘭茂がこの地でたしなんでいたというお酒を楊林県出身の陳鼎が創り上げました。さらに1987年には日本人にとっては十分高いのですが38度の度数に抑えたお酒を開発し、昆明市から特産品の称号を得た、という比較的新しいお酒です。
このお酒が省級の非物質文化遺産にお酒では2例目の登録、というところからすると、雲南独自で全国に名をなす銘酒がない、ということがわかります。まさにこれが雲南の密かな悩みでもあるようなのですが、人々は構わず、自家製のお酒や近所のお酒をおいしく楽しくいただいているのでした。
(この章おわり)
※次回の更新はお休みします。いよいよ受験生は大詰めですね。