とっちーの「終わりなき旅」

出歩くことが好きで、趣味のマラソン、登山、スキーなどの話を中心にきままな呟きを載せられたらいいな。

やっと「マークスの山」読破

2010-12-16 23:21:41 | 読書
マークスの山(下) 講談社文庫
高村 薫
講談社


WOWOWの連続ドラマWとして放送された「マークスの山」を見終わってから、あらためて原作を読んでみた。原作者は、高村薫という女性だが内容は典型的な男社会である警察組織をリアルに書き込んであり、女性がここまで細かい描写を書けるというのは驚きだった。高村薫という作家の作品は、とにかく長編が多い。1ページあたりの文字数がやたらに多く、一見すると読むことが難行苦行のように思えるくらいの長文が続く。それでも、読み出すと飽きることなくページが進んだ。

ドラマ版を先に見ているせいか、原作中の登場人物はドラマで出演した俳優の顔が頭に浮かび、けっこうイメージを膨らませて読み進んだ。合田警部補は上川隆也、マークスは高良健吾、高木真知子は戸田菜穂、林原は小日向文世、佐伯は佐野史郎、佐野警部は大杉漣、加納検事は石黒賢と彼らのイメージがダブっていた。上川隆也や高良健吾は原作とのイメージとも良く合っていると思う。また戸田菜穂は薄幸の女性役が似合う。悲しげな顔は儚げで健気である。また、林原の人格をなくしたような無表情で話す合田警部補との対面の場面では、小日向文世の顔が浮かんできた。ただ、加納検事は石黒賢ではないような気がした。

やはり映像化したものと原作とは、細かい点で違うことがあるのは仕方ない。蛍雪山岳会のメンバーが山で野村を殺害しようと連れ出したところまでは原作とドラマに違いはなかったが、原作では野村の死因は雪山での疲労による自然死であり、ドラマでは山岳会のメンバーが故意に殺害したようになっていた。いづれにしても、名門大学山岳部のメンバーの一人が不自然な死をしたことが公になることを恐れた他のメンバーが事件を抹殺した理由にはなる。また、原作の雑誌記者の根来は男性であまり登場する機会はなかったが、ドラマでは女性で小西真奈美が演じていた。ドラマでは重要な役どころで、視聴者受けを狙ったものかもしれない。

この作品は、山岳小説でもなければ単なる警察小説というわけでもない。また、ミステリーというには謎らしき謎はあまりない。ただ、警察内部の確執や検察と組織の有力者たちとの癒着などを緻密で精細に描いている。そして、その中で警察や検察が右往左往する姿は実に良くかけているといっていい。相当取材して書いたのだろうと思われるが、ものすごくリアリティを感じる内容である。南アルプスや北アルプスの地名等もいろいろ出てくる。山好きとしてはこの辺りも気になるところだが、綿密に書かれているのが良くわかった。北岳周辺の地図が載っていて、犯行現場や下山ルート、マークスのたどった経路等が地図を見て想像が膨らんだ。さらに、マークスと高木真知子との関係を細かく描かれていたことにより、北岳を終焉の地にマークスが選んだことが頷けた。これらの要素を複雑に絡めた社会派的作品といえる内容である。

今回は、文庫で読んだのだが、この作家は文庫化する際、相当改訂するらしい。単行本とはだいぶ違うところもあるようだ。単行本を読むとまた違った感想になるかもしれないが、マークスが蛍雪山岳会のメンバーを追い詰めようとした経緯や養父母を殺害した理由等がいま一つ良くわからない。作者のほうでマークスの心情的なことをあえて書かなかったのか、文庫化したとき削除してしまったのかは良くわからない。最後は、北岳山頂から天空に浮かぶ富士山の描写であった。私も、実際見たことがあるのでその情景は目に浮かぶ。マークスの思いも判らないわけではない。だが、いままで、いろんな話を絡めて進んできたのに、あっけない終わり方に消化不良感があった。個人的には、後日談的なものを入れて欲しかった。