(注)HP「中東と石油」で「ガスOPECは生まれるのか?」全文(第1回~第6回)を一括ご覧いただけます。
(第5回)天然ガスの輸出国とGECF
天然ガスの輸出にはパイプラインとLNGの二種類があり、前者が輸出全体の4分の3、後者が4分の1を占めている。パイプラインにより輸出している主な国は消費地の西ヨーロッパと陸続きのロシア、ノルウェー、オランダなどであり、LNGとして輸出しているのは輸出先が海を隔てた遠隔地にあるインドネシア、カタル、マレーシアなどである。アルジェリアは地中海を挟んでヨーロッパ大陸に近いため、6割をパイプライン、4割をLNGで輸出している。
世界で天然ガスの生産及び輸出が最も多いロシアは、パイプライン網を通じて22カ国に年間1,510億立方米(以下同じ)を輸出している。生産量と国内消費量の差が大きい国を上から順にリスト・アップすると、トップはロシアの1,930億立方米(生産5,980億立法米、国内消費4,050億立方米、注)である。次いでカナダ(940億立方米)、ノルウェー(800億立方米)、アルジェエリア(640億立方米)となっている。そのほか生産量と国内消費量の差が100億立方米以上の国は、トルクメニスタン、インドネシア、カタル、マレーシア、オランダ、トリニダード・トバゴ、ナイジェリア、ウズベキスタン、オーストラリア、オマーン、ミャンマー、ブルネイである。これらの国は大きな輸出能力を持っていると言える。
(注)BP統計資料の場合、ロシアについては生産量5,980億立方米に対し、国内消費量4,050億立方米、輸出量1,510億立方米であり、国内消費・輸出の合計数量(5,560億立方米)と生産量(5,980億立方米)との間には7%強の乖離がある。これは生産現場における自家消費量、パイプライン搬送ロスなど種々の理由によると考えられるが、ロシア以外の国についても同様のことが言える。
天然ガスの輸出国は2001年に天然ガス輸出国フォーラム(Gas Exporting Countries Forum, 略称GECF)を結成している。GECFの加盟国数は現在15ヶ国であるが、その構成は、上記16カ国のうちカナダ、トルクメニスタン、オランダ、ウズベキスタン、オーストラリア、ミャンマーの6カ国を除く10カ国に、ボリビア、エジプト、リビア、UAE、ベネズエラの5カ国を加えたものである。GECFはフォーラムと言う名称が示すとおりOPECのような強い結束を誇る組織ではなく、情報交換を中心とする緩やかな組織である。
GECFは今年3月、ドーハで会合を開いた。GECF加盟国の過去1年間の動きを見ると、ロシアのプーチン大統領がアルジェリア(昨年3月)及びカタル(今年2月)を訪問し、また同国ガスプロム社はアルジェリア及びリビアの国営石油会社と協力協定を締結、さらには日本企業が関与しているサハリンのガスプロジェクトに参画するなど、ロシアは活発な動きを見せている。またイランのハメネイ最高指導者がガスOPECの結成を呼びかけ(今年1月)、それに呼応するかのごとく南米のベネズエラ及びボリビアの大統領も同様の趣旨の発言をしている。
このため消費国、特に天然ガスの3分の1をロシアとアルジェリアに依存する西ヨーロッパ諸国はGECFドーハ会議の成り行きを注目し、欧米マスメディアはGECFがOPECのようなカルテル組織に変貌するのではないかと騒ぎ立てた。GECF加盟国全体では世界の埋蔵量の73%、生産量の41%を占めている。因みにOPEC加盟国(12カ国)の場合、その割合は埋蔵量72%、生産量42%であり、GECF15カ国の世界シェアはOPECとほぼ同じである。この点から見ればGECFはOPEC同様、カルテルとしての潜在能力を有していることは間違いなく、それが「ガスOPEC結成か?」という消費国側の各種報道や憶測を生む背景となっているのである。
(これまでの内容)